【InterBEE2010レポート】各社からAVデータ品質・画質評価装置が出展 地デジ普及で注目集まる

2010.12.10 UP

ニコンシステム MVC対応検査ツール
K-WILL VP3000H

K-WILL VP3000H

ビデオクラリティー社 クリアビューシリーズ

ビデオクラリティー社 クリアビューシリーズ

ビデオクラリティー社 クリアビューシリーズ

ビデオクラリティー社 クリアビューシリーズ

 Inter BEE 2010では、AVデータの品質画質評価装置が目に付いた。これまで品質評価は目立たない存在だったが、ここに来て急速に装置(ソフトウエアを含む)が立ち上がった感がある。
 電波の質を測定する測定器は以前からあったが、そこに乗っているデジタルデータを測るもの、そしてデータが示す画質を測るものは少なかった。品質評価が進むことで、受信上のトラブルを減らすことができると期待される。(杉沼浩司)


★品質と画質の違い

 AVストリームの品質評価装置は、測定器の一部として限られたメーカーから出荷されていたが、今年は出展の幅が広がったように感じられた。
 今回展示された機材の多くは品質評価である。品質評価と画質評価は混同されることがあるが、これらは全く異なるものを測定しているので注意が必要だ。
 品質評価は、デジタル放送用のAVデータが「文法」に従っているかを判別するものである。日本のテレビ放送では、MPEG2によるエンコード使われているが、その正当性以前に、データの乗せ方が正しいかを検査する。

 MPEG2でエンコードされた映像・音響データは、一連のデータの中に多重化されている。映像と音響が別々の電波やデータストリームに乗ってきているのではなく、一つのストリームの中に共存している。共存させる作業を多重化といい、多重化されたデータから元の映像・音響といった個別のデータに戻す作業を逆多重化と呼ぶ。逆多重化を正確に行うためには、文法に従って多重化されていなければならない。

 複数の番組を一つの放送波に含まれるようにするのも、多重化の仕事である。地デジでは一つの周波数(放送局)でHDTV放送1番組を送るばかりでなく、HDとSDの混在や、SDだけで複数番組を送ることが可能になっている。
 さらに、一つの番組内で最大3カ所の視点からの映像を送り、視聴者が選択することも可能だ。これらはすべて多重化によって行われているが、その文法のチェックも品質評価機(ソフトウエア)で行える。

 多重化によるデータの正当性が確認された後、今度は映像・音響のデータが正しくエンコードされているかを確認する。映像データであれば、データの組み方に問題があると、受信側では画面が固まった状態(フリーズ)となる。また、別の問題が起きると真っ黒になる。

 これらは視覚的にも検出できるが、効果として画像を止めたのか、エンコードに問題があるためフリーズが起きているのかは、データを検査しないと分からない。品質評価機は、このような点も報告してくれる。


★画質評価は主観代替

 一方、画質評価は「原画との違い」を示すものである。画質といっても「きれいさ」を示すものではない。画質評価装置にかけた結果「鮮やかな色合い」「抜けの良い映像」といった評価が下されるわけではない。
 画質評価には、ISOなどの国際標準化機関が定めた評価方法がある。原画に対して、エンコード・デコードを終えた映像が、どの程度劣っているかが尺度となる。
 この測定のためには、複数の評価者を集め、何回も映像を見てもらう必要がある。照明、背景を国際標準が求める通りに調整した評価室も必要だ。このような大掛かりな画質評価は現実には滅多に行えないため、画質評価装置が登場するのである。

 画質評価装置は、原画との違いを示すだけでなく、人間がその違いを重大に感じるか、それともあまり感じないかといった視覚モデルを加味したものもある。使用する視覚モデルによって、画質評価の結果も変わってくるため、利用者もある程度の知識が必要と言われている。


★MVCに対応

 ニコンシステムは、「H.264解析ツール」に3D映像コンテンツ向けオプション「NH264H1(OPH3)」を追加した。これは、3D(立体視)用のフォーマットであるMVCのストリームを検査するものである。

 MVCは、MPEG4 AVC/H.264(以下、AVC/H.264)を拡張する形で作られているため、H.264用の解析ツールに付加するオプションの形での供給は理解が得やすいものと言える。3Dのブルーレイディスクをオーサリングする際などに使用されるという。


★原画を推測して評価

 KDDI研究所の「MPファクトリーVer5」は、ストリームや蓄積データの形になったAV情報を検査する。MPEG1/2/4AVC/H.264に対応している。品質検査が主たる目的であるが、画質検査も行える。

 このソフトウエアの特徴は、画質検査時に原画像を用いなくてもPSNR値(原画との差分量)を示す機能をもっていることである。KDDIによれば、エンコード後のストリームに含まれる情報から元の画像が推定でき、検査中の画像との差分が高い確度で推測できるという。

 MPファクトリーは、機能ごとに販売されており、このソフトウエアを、自身が開発するソフトと組み合わせるためのキットとなっている。そのため、単独の検査用ソフトとしてではなく、市販される製品の機能として前記のものが含まれることになるという。


★多彩な検査に対応

 検査装置の専門メーカーK-WILLは、SDI入力に対応した自動品質検査装置「VP3000H」を展示した。VP3000Hでは、原信号と比較してデジタルノイズやフリーズ、音声途切れなどを検出するモードと、原信号を用いずにブロックひずみ、フリーズ、音声途切れなどを検出するモードがある。VP3000Hはマルチウィンドー表示の液晶ディスプレーに、複数の情報を同時に表示し、検査対象の状態を的確に示すことができる。

 また同社は、IPパケット入力型の検査装置「MPEG PROBE」を参考展示した。これは、IPパケット上のストリームとなったコンテンツに対応。複数のパケットを同時に検査できる。同社では近々、SDI入力型とIP入力型の両方に対応できるようになるとしている。


★エンコーダー開発に使用

 米インテラ・システムズ社の品質検査ツール「バトン」は、ファイルベースのコンテンツの正当性を検証する。バトンの核となっている検査エンジンは、世界のエンコーダーメーカーでエンコーダー開発時の検査用に使われてきたもので、長年の実績を持つという。

 デジタル符号化においては種々の規定が定められており、信号はこれらに従う必要がある。それでも、規定に穴があり未確定の部分が残ったり、規定間で矛盾する要求がなされたりすることもある。日本方式の場合、標準規格と運用規定があり、一般に装置は運用規定に準拠することが求められる。このような複雑な規定を理解したうえで作られている検査エンジンが開発時に用いられて来たが、これが汎用検査ツールとして登場している。
 なお、日本ではアイティアクセスが同製品の販売代理店となっている。


★画質評価の旗艦機

 米ビデオクラリティー社の「クリアビューシリーズ」は、総代理店のテクノハウスが出展した。このシリーズは、ほとんどが蓄積型の画質検査を行う。原画像と比較対象画像を装置内のレコーダーに記録し、差分を示すPSNR値を算出するほか、2種類の視覚モデルにより画質を示す。

 二つの視覚モデルは、それぞれに特徴があり、違いを理解して利用することが必要という。これらの装置は、機器開発用途のほか、米国の地上波ネットワークなどでエンコーダー購入時の評価などに用いられている。シリーズの中には、リアルタイム監視を目的とした装置もある。こちらは、PSNRの変化などを監視し、伝送品質などの観測用に使われている。

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 InterBEEでは、このように多くの品質検査装置が出現した。これまで放送が事実上唯一の地デジ波のソースであったが、今後は館内放送用変調器など種々の装置がソースとなる。テレビをつないでも映らないという場合に、品質検査装置は何が原因であるのかを検証するために欠かせないツールとなる。


(写真説明)
写真1 ニコンシステムは立体視(MVC)に対応したデータ形式検査ツールを出展した
写真2 K-WILLのVP3000Hは、SDI接続でデジタルAVデータを読み、品質の検査を行える。
写真3 米ビデオクラリティ社のクリアビューは、視覚モデルに基づく画質評価を行え、エンコーダ評価に使われている
写真4 米ビデオクラリティ社のクリアビューシリーズは、原画と検査対象画像を収録して評価する

K-WILL VP3000H

K-WILL VP3000H

ビデオクラリティー社 クリアビューシリーズ

ビデオクラリティー社 クリアビューシリーズ

ビデオクラリティー社 クリアビューシリーズ

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#interbee2019

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