【Inter BEE Forum 2007】音響シンポジウムレポート -その2

2008.3.17 UP

デジタル放送におけるコマーシャルサラウンド制作の展望と海外動向


3—1 制作の観点から見たテレビコマーシャル広告における5.1サウンド: スポット(CM)の革命
<right>Rod Findley C.2k</right>


当初CMディレクターの観点からCMサラウンドの効果について講演をRodに依頼していたが、彼の第2子が11月に生まれる予定なので、もしそこにいないと俺は、離婚だ!その時はパートナーのCMミキサーでJEFFというのがいるので彼にバトンタッチするからというメールをもらっていましたが、やはり直前でその事態となり急遽11サウンドというサンタモニカでCM音声専門のスタジオでミキサーをしているJeffに来てもらいました。ここではRodの予稿から制作側の考えをまとめまた後半でjeffの講演の要約を紹介します。

アメリカでは、わずか5年前でさえ、TVコマーシャルに5.1サラウンドサウンドミックスを使用するというアイデアは費用がかかりすぎて不要のものと考えられていました。スポットが劇場公開に使用される場合には、もちろん5.1ミックスが必要とされていましたが、テレビ用限定となると、現実的なニーズもマーケットもないとみなされました。それが今では何という変わり様でしょう。

ここ数年の間に5.1ミックスの割合は飛躍的に増加しています。それも「スーパーボウル」のスポット用だけでなく、日常的なものにも使用されているのです。
明らかに、サラウンドサウンドミキシングの成長は、HDセット、デジタル放送、それに伴うホームシアターシステムの成長と無縁ではありません。
このインストールビジネスとともに伸びているのが、コマーシャルの音に対する期待です。

広告主は、テクノロジーを最大限に利用したミックスを制作する必要性をより一層感じるようになってきています。

私が初めてサラウンドサウンドの仕事をしたのは、DTSサウンドのためのトレイラーを監督したときでした。その仕事の依頼主でありミックスを監修していたのが、Inter BEEでも様々なサウンドの問題について何度も講演している、ジェフ・レビソンその人に他ならなかったのです。彼の隣で、Todd-AOハリウッドの巨大なミキシングデスクを前に、オーケストラスコアを最高級のサウンドエフェクトミックスでミキシングするのは、私にとって最高の学びの体験であり、まさしくこの体験によって5.1の可能性に目が開かれました。もちろん劇場なら、皆さんもご存知のように音響環境がきちんと管理されているので、創造力を発揮する自由度はずっと高くなります。
テレビ視聴者限定の仕事の方が難しいものです。TVオーディエンスの大半はまだ音質の良くないテレビのスピーカーを通じて音を聴くわけで、5.1を再生できるシステムの恩恵を被ってはいないのですから。したがって、5.1を最大限に生かしたミキシングと、ステレオミックスでの一貫性を保つことのバランスが常に要求されます。
ステレオミックスが基本であって、5.1はクライアントや代理店が次の段階のものを求める場合に制作されます。ただし、多くのスポットにおいて、緊急の必要性がなくても、5.1ミックスを行うことが標準的になりつつあります。

代理店のクリエーターやディレクターが5.1の可能性を事前に想定し、5.1を制作プロセスの一部にするということが起きつつあります。

私の経験では、私が監督したテクモとソニープレイステーション3のビデオゲーム、Ninja Gaiden Sigmaのコマーシャルで、HD仕上げ用にステレオミックスに加えて5.1ミックスを制作しました。
そのわけはc.2Kは制作会社であると同時にクリエイティブエージェンシーでもあったので、私たちは非常に強く5.1での仕上げを押しました。その理由は、このスポットのコンセプトは、このゲームが非常にドラマティックで映画的であるということなので、現場のクリエーターとして、私たちは5.1で仕上げるのは必須であると感じたのです。
実際、テレビコマーシャル制作の世界に携わる私たちにとって、5.1という新たな地平が開きつつあるのです。もっと多くのクライアントや代理店、そしてディレクターが、5.1ミックスの持つ、クリエイティブな表現に対する途方もない可能性に気づくようになるにつれて、スポットの質と深みは向上し続けることでしょう。そして私たちはきっと、今までに見たこともないほど全次元的な視覚的・聴覚的体験としての、スポットの新しい進化を目にすることになるはずです。



3−2 CMサラウンド ミキシングの立場から
<right>Jeff Fuller 11-Sound</right>

私がmixをしているイレブンサウンドは、カリフォルニア サンタモニカにあり、mix roomは2つありいずれもステレオから5.1chサラウンド制作に対応しています。機材はプロツールズHD3とプロコントロールです。モニタースピーカはGenelecをフロントとLFEにリアのサラウンドはM&Kを設置しています。

TVのコマーシャル音声制作の変化について述べてみます。4年前は、月に1本か2本のコマーシャル 音声がサラウンドで制作されていただけでした。それが2007年の現在はTVがHDになるにつれて我々の業務の25-30%がサラウンド制作になってきました。

現在の一般家庭でホームシアターをサラウンドで楽しんでいるユーザーは、映画で行われているサラウンドデザインに加えてより自由な空間デザインにも寛容な傾向があります。そこで我々はTV CMのサラウンドデザインを行ううえでこうしたより自由な空間デザインというアプローチを選択することにしました。

デモを再生します。
これはパイオニアのKUROというCMで映画館用とTVスポット用にmixしています。
今回はTV用を再生します。

現在のアメリカのTV CMの課題は、各放送局へ配信するための音声技術規格が無いことです。ポストプロダクションが終わってプロデューサが受け取ったCMの音声規格とそれを放送する局側の音声規格が異なっているといった例も見られます。そのため間違ったままでオンエアされた結果、クライアントから我々が呼び出され「夕べの野球を見ているとわが社のCMは、どうしてあんな小さな音になったのだ?」といった苦情に結びついてしまいます。

私たちは5.1chサラウンドのディスクリート音声を制作すると同時にLt/Rtのステレオマスターも制作しています。放送局側がサラウンド放送に対応していない場合はこちらを使用するためです。現在アメリカの大手ネットワークでは5.1chのディスクリートサラウンドでの受け渡しが通常ですがHDVCRテープの7-8トラック目にはこのLt/Rt mixも入れておきます。

Mixの手順についてお話します。まずデータがOMFファイルで届きますのでこれをロードし編集上がりの映像も取り込みます。その後サウンドデザインに必要な音声要素を用意します。そしてナレーションや台詞録音後にクライアント承認用のラフmixを仕上げます。

ここからが我々の腕の見せ所になります。そしてそのCMが音の要素としてどれが一番重要なのか「効果音重視なのか?音楽重視なのか?あるいは台詞が一番なのか?」など各要素を判断し台詞やナレーションはハードセンターへなど適正な定位のためのバスに送ります。私はまず5.1chサラウンドmixを完成させ、その後Lt/Rt mixを聞いて微調整をおこないます。リバーブやエフェクト成分をサラウンドに送っている場合はLt/Rtを聞いてその広がり具合を調整します、でないとLt/Rtの場合は位相差によってキャンセルされる割合が多くなるからです。もうひとつmixで注意しているのは十分な低域が確保されているかです。LFEに頼らないでも十分な低域がmixされていることが重要です。

次に使用しているプラグインについて述べます。私の定番EQはデジデザインのEQ3というプラグインです。これに決める前にいくつかのプラグインでブラインドテストを行いましたがEQ3の持つ高域の自然さが気に入ったからです。Sony Oxford EQもすばらしかったのですが、これは主に音楽のEQに適していると思います。
リバーブ系はAudio EaseのAltiverbをメインにしています。これは様々な音場のシミュレート機能があるためとても広範囲に使うことができるからです。ここには私がかつて愛用していたLexicon PCMのプリセットも取り込んでいます。このプラグインはウエブからいつでも最新のインパルスレスポンスデータがダウンロードできますので常に最新のデータを扱うことができるというメリットもあります。
コンプレッサー系ではフォーカスライトとWavesを使用しています。Wavesは少し音に味付けがされますがサラウンドバスにはL1をステレオバスにはL2を接続しています。

効果音関連にも触れておかなくてはなりません。Soundminerというこれは効果音のライブラリー化や検索でも大変有益なソフトです。私はいつもmixではこのソフトを立ち上げておき何か不足する効果音が出たときに迅速に対応できるようにしています。ここイレブンサウンドにはテラバイトの効果音ライブラリーとオリジナルの効果音データがオンラインで用意されています。
こうした過程はすべてプラグインというデータ内で完結していますのでどのような対応にも迅速に応えることができます。

サラウンドmixのセッションは、従来のステレオmixにくらべ50%増しの作業になりますが、仕上がったCMは、圧倒的にすばらしいといえます。

個人的に明るい将来を展望できることは大変嬉しい限りです。アメリカでもそして日本でもデジタル放送への移行がはじまり映像も音声も従来の品質から飛躍的に向上することができます。アメリカでも小規模な放送局が早くアナログからデジタルへと移行してくれることを期待しています。

先ほど再生したいくつかのサラウンドCMは、なかでも私がすばらしいと思うものを選択しましたが、通常のCMでも多くがサラウンドで制作されるようになっています。これらを注意深くきけばそれぞれがそれぞれに様々な新たな試みを行っていることがおわかりになるでしょう。

TV CMのmixという工程は実に一人で幅広いスキルを要求されます。あるときはサウンドデザインをあるときは台詞をあるときは音楽編集をと。。。これがCM サラウンドミキサーの価値なのだと私は考えています。(了)

デモ:パイオニアenter      60sec
   HP JAY-Z          60SEC
   TECMO NINJA        30SEC
   D-TV BAYWATCH       30SEC
   E3 ORACLE         30SEC
   BUDSELECT JAY VS SHULA   60SEC

#interbee2019

  • Twetter
  • Facebook
  • Instagram
  • Youtube