【SIGGRAPH 2011】SIGGRAPHにおける注目論文(5)ILMが映画『ランゴ』の最先端パイプラインを披露〜12月 香港開催のSIGGRAPH ASIAへ向け〜

2011.10.29 UP

上=画像(a)、下=画像(b)
画像(c)

画像(c)

上=画像(d)、下=画像(e)

上=画像(d)、下=画像(e)

画像(f)

画像(f)

画像(g)

画像(g)

■コース”Destruction and Dynamics for Film and Game Production” 多岐にわたる新技法が登場
 プロダクションに絡んだダイナミック・シミュレーションの技法は、コースのセッションでも紹介された。その一つが初日に開催された破壊シミュレーションに関するコース(Destruction and Dynamics for Film and Game Production)。
 GPUベースのリアルタイム破壊シミュレーションにはじまって、映画やゲームプロジェクトにおける破壊シミュレーションの最新例を一同に集めたものとなっていた。

 プロダクションワークにおける破壊シミュレーションといえばパーティクル・シミュレーションや剛体シミュレーションが一般的だったが、その次の段階として壊れてゆく物体の変形まで考慮した手法も出てきている点が興味深い。
 破壊シミュレーションにおいて変形まで考慮しようとすると、その計算負荷こそ重くなりがちだが、立体3Dの浸透に伴ってプロダクションで重要視されるようになってきたボリュームメトリックな表現の幅や精度の上限を引き上げるうえでは効果的なようだ。

■ILMが映画『トランスフォーマー』の破壊で使用した技術を紹介
 ILMが講演したのは映画記事でも紹介した『トランスフォーマー』の破壊シーン。摩天楼のビルの破壊シミュレーションはそれに先立ってビルの変形を伴うため、変形シミュレーションから剛体シミュレーションへの切り替えをいかにしておこなったかに焦点が当てられていた。
 破壊シミュレーションだけではなく、ILMではキャラクターに関連したシミュレーションに関しても新たなアプローチが導入されつつあり、その新たなパイプラインの構築が盛んにおこなわれたのが映画『ランゴ』のプロジェクトであったという。
 ここでは、マス・スプリング・モデル(質点をバネで結んだシミュレーションモデル)を用いたシミュレーションと有限要素法を用いたシミュレーションとの切り替えが自在におこなえるような改良されたようだ。

 映画『ランゴ』に関してはデーター・マネージメントや演技のキャプチャーなど様々な局面に関するトーク・セッションがおこなわれたが、初日のプロダクション・トークでは上記のハイブリッド・シミュレーションが適用されたキャラクターの肉(flesh)・衣服・毛およびエフェクトのアニメーションが披露された。技術的な詳細は明らかにされていないが、スタンフォード大学が押し進めていた PhysBAMというライブラリの構築とうまく連動してその開発が行われたようだ(PhysBAMに関してもスタンフォード大学によって同名のコース・セッションが開催されていた)。一歩先を見据えたシミュレーション改革がさらなる真価を発揮する日はそう遠くはないのかもしれない。

【画像説明1】(1段目=上・画像(a)下・画像(b))
 AMDの原田隆宏氏がプレゼンしたのは、GPUを用いて剛体ベースの大規模な破壊シミュレーションを高速化するための最新手法。あらかじめ干渉する可能性のある剛体のペアの検出をCPU上でおこなっておき、この情報をGPUに送って、衝突も含めた実際のシミュレーションの計算はGPU上で並列におこなう。デモ映像は、ATI Radeon HD 5870を用いて、12,000個の剛体で構成される物体に対してこのアルゴリズムを適用し、30fpsでシミュレートできることを示していた(画像(a))。プレゼンの最後ではAMD Fusionに代表されるヘテロジニアス・アーキテクチャーを用いたシミュレーションも紹介された(画像(b))。このアーキテクチャーではGPUとCPUがメモリを共有できるためデーター転送の必要もなくなり、GPUとCPUのよりタイトなカップリングが可能となる。GPUのみで行なうことが難しい複雑なダイナミック・シミュレーションも、このアーキテクチャーを用いればうまく高速化することができそうだという。

Image Courtesy: Takahiro Harada
論文”Accelerating rigid body simulation and fracture using GPU (AMD)”より

【画像説明2】(2段目=画像(c)、3段目=上・画像(d)、下=画像(e))
 ILMは、変形を伴う破壊シミュレーションの実用例として、映画『トランスフォーマー』のビルの崩壊シーンで用いられた手法をプレゼンした。ここでは、ビルが次第に傾いて周りの建物に覆い被さるようにして崩壊してゆくため、必然的に変形を伴う。この様子をリアルに描くために、まずはビルのボリュームメトリックな変形をおこなうための構造を与えてその変形をシミュレートする(画像(c))。完全にビルがばらけたのちの破壊シミュレーションでは物体の変形はそれほど顕著でないため、通常の剛体シミュレーションを適用する。したがってこの手法の要となったのは、変形シミュレーションから剛体シミュレーションへの橋渡しをいかにしておこなうかということだった。
 この橋渡しのアイデアの原点となったのは、2007にスタンフォード大学から発表された論文だった。この論文では物体の内部構造の特徴やその特徴に起因する物理的特性を保持できるように、物体表面上にサンプル点の集合を生成してこれらのサンプル点同士の関係を定義する(図b)。物体同士の干渉の計算はこれら物体表面のサンプル点の集合のみを用いておこなうのだが、サンプル点の集合が物体の内部構造に起因する物理的特性を受け継いでいるため、干渉による変形などもうまくシミュレートできる(図c)
上記のアイデアを導入して、ILMは物体表面上のサンプル点にあたるパーティクルの集合(surface particle)に図(d)のような構造を与えた。物体内部を細かく分割する4面体の辺に相当するボリュームメトリックなバネを張り、このバネと物体表面のサンプル点とを関連付けることによって、内部構造のメカニズムが及ぼす影響を物体表面上のパーティクルに受継がせているところが大きな特徴となっている。

画像(c):(c)Industrial Light&Magic All rights reserved.

画像(d):
(c)2007 ACM, Inc.
“Hybrid Simulation of Deformable Solids”
(Eftychios Sifakisy et al., Stanford University,
Eurographics/ ACM SIGGRAPH Symposium on Computer Animation 2007)

画像(e):
(c)Industrial Light&Magic All rights reserved.
Deformable rigid bodies and fragment clustering for film (ILM)

【画像説明3】(4段目=画像(f)、5段目=画像(g))
 ILMは破壊シミュレーションだけではなく、有限要素法を用いたシミュレーションとマス・スプリング・モデルを用いたシミュレーションとの間の橋渡しがうまくできるようなパイプラインを構築しつつある。映画『ランゴ』のプロジェクトでは、キャラクターの肉(flesh)・毛・衣服などのリアルな動きを効率的につくりだすために、この新たなパイプラインの構築が積極的に進められたという。

映画『ランゴ』より
(c)2011 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
10月22日(土)より新宿バルト9ほか全国公開
 配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン

画像(c)

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上=画像(d)、下=画像(e)

上=画像(d)、下=画像(e)

画像(f)

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#interbee2019

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