私が見たInter BEE 2010技術動向(その3)編集・制作系、符号化技術
2010.12.9 UP
番組バンク(NEC)
バーチャルスタジオシステムのデモ(朋栄)
超低遅延符号化システム(NTTエレクトロニクス)
自動画質評価システム(KDDI研究所)
本号ではデジタル時代に相応しいファイルベース化が進む制作系、符号化やネットワーク技術の動向について紹介してみたい。IPの進展に応えるように、放送局やコンテンツ業界のワークフローは効率的なファイルベース化が進みつつある。取材から制作、放送からアーカイブまで、コンテンツをファイルベースで管理、処理することで、ネットワーク経由で素材を共有することが可能となり、番組、コンテンツの制作や送出が効率的に行えるようになり、マンパワーやシステム運用性も向上する。映画、ゲーム、BDやIP用コンテンツなどの制作や配信系にも広がり、コンテンツビジネスチャンスの拡大も期待できる。
ソニーは、今年のNABでワークフローのトータルソリューション「メディアバックボーン」を提唱したが、今回、具体的にXDCAMシリーズを中心としたファイルベースのワークフローシステムを提案した。システムの核となるツールはニューモデルの"XDCAM Station"で、1TBの内蔵ストレージ(HDD/SSD)とデュアルヘッドのProfessional DiscドライブとSxSメモリーカードスロットを搭載し、さらにテープ系のSDIインターフェースも有している。ファイルベースとテープベースによる作業をハイブリッドでシームレスに行うことができるようになり、報道系や番組制作のワークフローがさらに効率的になる。
池上通信機もファイルベースのワークフローを目指し、トータルソリューション"i STEP+"を提案した。番組や素材の情報を管理する「アセットゲートウエイサーバ」と実データを記録する「編集・素材サーバ」を核に、テープレス素材や回線からの入力系、ノンリニア編集系、送出・アーカイブス系がネットでリンクされ、全てのデータはファイルで転送される。映像、音声、静止画などのメインデータとメタデータなどのコンテンツ情報が一元的に管理、運用されるようになり、効率的な制作、送出環境が構築できる。システム構成要素としては、"GFCAM"テープレスカメラ、"GFPAK"メモリーパック、"GF STATION"レコーダ/プレイヤー、アビッドなどアライアンスを組んでいるファイルベースのノンリニア編集系などから成る。なお同社のテープレス機器類は今年のエミー賞を受賞したそうだ。
東芝は、多様化する放送、通信との連携による"Workflow Innovation"掲げたが、その核となるのがフラッシュメモリーサーバ"Videos neo"である。高速通信プラットフォームを搭載し、異なるサーバ間でMXFファイルでの高速転送が可能な一方、HD映像のベースバンド信号にも対応する。記録素子にフラッシュメモリーを採用し、低消費電力、省スペースを実現した。最大60TBまで拡張でき、小規模から大規模システムに柔軟に対応できる。また最近の技術動向として、大容量のLTOテープによるサーバ(IBM製)も展示していた。LTOテープ1本の容量は1.5TBと大きく、サーバーシステムとしては小型の72TB、中型で594TB、大型ライブラリーで30PBとシステム規模に応じて構成できる。
NECは既に納入実績が高いビデオサーバ"Armadia"を核とするファイルベースの番組バンクシステムを出展した。記録メディアとしてHDDと新開発のフラッシュメモリー型ディスクを搭載し、XDCAM互換のMXFファイルモードを装備しMPEG2フォーマットに対応し、H.264への対応も検討中だそうだ。HD-SDI、D1-SDIインターフェースを通しベースバンド信号の記録再生も可能である。また大容量メモリーとしてLTOサーバも並べて展示していた。さらに、中継放送でのタイムラグやスイッチングタイミングの問題を解決する、超低遅延、高圧縮アルゴリズムによるH.264コーデック装置も出展した。エンコーダ/デコーダとも1Uハーフラックサイズ、3kgと小型軽量で、実際に二つの映像モニターにオリジナル映像と処理後の映像を映し、遅延時間が小さい(10~120ms)ことを実演していた。
朋栄は、進展するファイルベース環境に応える制作・編集・送出にわたるトータルソリューション用の各種システムを公開した。そのひとつがメディアマネージメントシステム"Media Concierge"で、テープメディアや回線受け、ファイル素材などの映像、音声などの各種メディアファイルを一元管理するものである。実績高いスイッチャー「花火」シリーズ、MXFファイルによるノンリニア編集系や制作サブ系、送出系までの様々なハード、ソフトウエアの実演が行われていた。また最近の技術トレンドなのか、大容量のLTOによるビデオサーバも並んでいた。例年、人気スポットになっているセンサーレスバーチャルスタジオ"VRCAM2"システムの実演展示は、仮想カメラは最大4台、各カメラ毎に最大32ポジションの設定が可能になり、ユーザーの要望に応えセンサーつきカメラも2台可能となった。ブルースクリーン前で演じる人物と背景となるCGなど各種映像との合成作業が、コンパクトなシステムで、カメラマンレス、ワンマン操作で行われる様子が実演され、大勢の見学者が熱心に見入っていた。
トムソン・カノープスは、主力のビデオ編集ソフト"EDIUS-6"は、XDCAM-HDに加えAVC-HDやEOSムービーなどさまざまなフォーマットにリアルタイムで対応可能となった。またコーデックやソフトウエアの見直しにより10ビット素材や重いイフェクトもハイパフォーマンスで処理できるようになった。さらに4Kまでの解像度、50P/60Pの処理、さらに3次元での移動、拡大縮小、回転なども自由に扱えるようになり表現力、創造力が高まった。またスポーツ中継やライブイベントなどで広く使われている"K2"シリーズはディスクレコーダ"T2"が機能強化され、一層多彩な制作がやりやすくなった。
さくら映機は、進展するテープレス環境にあわせ、ノンリニア編集系"Prunus"の実演を公開した。XDCAM-HD、P2-HD、DVCPRO、GFシリーズの各種テープレスメディアとVTRテープメディア(HD-SDI入力)が混在使用でき、IPネットワーク上でサーバーレスで素材を共用することも可能である。VTRライクな操作性で既存のテープシステムとの親和性が高くNHKなど各局で使われている。
IT技術の進歩、進展する放送と通信の連携に応えるような符号化やネット配信に関する出展も多かった。
NTTグループは隣接のブースで、これからのIP時代の映像展開に大きく役立ちそうな多種多彩な最先端技術を公開していた。NTT エレクトロニクスは、世界初のハイ4:2:2プロファイル(8bit)対応のリアルタイムH.264 HDTV エンコーダ・デコーダシリーズおよび非圧縮のHDTV映像を1μsの超低遅延で伝送する実演を公開した。NTT アドバンストも非圧縮HDTV映像を超低遅延でIPギガネットへリアルタイム伝送するゲートウエイ、4Kライブ中継に使えるJPEG2000リアルタイムコーデックの実機、MPEG2をH.264に変換するトランスコーダ、3D映像の高画質・高圧縮を実現するソフトウエアコーデックなどを出展していた。
KDDI研究所は、世界のどこからでも映像情報を高画質で発信できる小型コンパクトな"Vista Finder"を展示した。これまでより機動性を高め、スマートフォンによる簡易映像伝送もできるようになり、複数拠点からの同時受信や中継サーバを用いた録画配信なども可能になり、報道の枠を越え広範な利用が期待される。デジタル放送やネット、BDなど様々な映像サービスに対応する"MP-Factory"は、デジタルコンテンツを効率的に高精度に評価検査できる自動画質評価システムで、源画像を必要とするタイプと必要ないハイブリッド型の両方について映像を見せつつ実演していた。K-WILLも従来から開発を進めている映像・音声の自動監視機能をさらにアップし、アーカイブ向け、送出・再送信向けの監視システムの実演展示をしていた。ファイルデータへの変換時に画素単位で比較し微細なエラーを検知して障害を未然に防止し、送出段階では数フレームのフリーズやミュートを検知し、万一障害が発生しても短時間で復旧可能とした。
符号化技術で高い実績を持つ三菱電機は、H.264対応で低遅延と高画質を両立した高機能符号化技術とNHK技研と共同開発中の次世代高圧縮映像符号化技術を、映像を使い公開していた。
映像技術ジャーナリスト 石田武久
番組バンク(NEC)
バーチャルスタジオシステムのデモ(朋栄)
超低遅延符号化システム(NTTエレクトロニクス)
自動画質評価システム(KDDI研究所)