【Inter BEE Forum 2007】音響シンポジウムレポート -その1

2008.3.17 UP

デジタル放送におけるコマーシャルサラウンド制作の展望と海外動向
 
<right>報告By Mick Sawaguchi 音響部門コーディネータ パイオニアCorp</right>


はじめに

今回からInterBEE国際シンポジュームは、放送機器展示会併設という位置づけからInterBEEフォーラムという展示会とシンポジュームがイコールパートナーとして全体をコンベンション型式へと衣替えをした初年度となりました。その大きな理由はアメリカNAB/ヨーロッパIBCとならぶアジアでのコンベンションにならなくてはシンガポールや中国といった国々のグローバルな企画に遅れをとり結果、単なる日本のローカル展示会で終わるのではないか?という主催者側の強い危機感があったからです。今回会場へ参加、またはWEBにアクセスされたみなさんには「あれ!今年は少し変わったな!」という印象を持たれたかと思います。来年に向けても一層国際コンベンションとしての色彩を強めていく事に皆さんも期待してください。

さて本題の今回のテーマですが、昨年までサラウンド制作の本編、そして制作から家庭視聴者までの隘路などについて取り上げてきました。その結果私がつよく感じたのは、放送経営の立場にいる人たちにもにサラウンドという観点がプラスになるのだ!という考えが成り立てば2011年以降のデジタル放送の中で十分存在価値をアピール出来るという点です。幸い来年のデジタル放送推進のための行動指針第8次答申にも「サラウンド音声の普及啓蒙に取り組む」という文言が初めて明文化されました。これは大変我々にとって心強いサポートになります。

一方日本の広告マーケットは6兆円で推移していますが、その中でTV-CMがしめる割合は33%2兆円規模にもなります。しかしその広告収益は、わずかではありますがここ数年2−3%の収益減少傾向にあり、一方インターネットを媒体とした新たな広告収益は年率25%という勢いで増大している状態です。この現象をみて読者の皆さんは「あれ!なにかと同じ傾向だ!」と感じられるでしょう。そうです、10年程前の、CD音楽産業Vs配信音楽の初期と大変似た状況が出来つつあるという点です。これを打開する方策はあるのか・それは世界の産業の変遷を眺めるとひとつのヒントが出ると思います。
時計産業を例にしてみましょう。かつてmade in JAPANのクオーツ時計が登場すると名門スイスの時計産業は衰退してしまうのではないかと言われました。しかし2007年の現状は、どうでしょうか?かれらは手作りやクオリティそして他のブランドとのコラボといった新たな戦略を採用することでしっかりとした収益と位置を確保しています。

いままでステレオ制作された放送コマーシャルの常識は、「他よりラウドで、ほかよりより多く」という露出コンセプトがキーワードでした。そのためにポストプロダクションでのミキサーに求められるスキルは「いかにすべてを詰め込むか!」にありました。しかしオリジナルの音は本当にそうした音をもとめているのでしょうか?

私は、CMもHD画質と5.1CHサラウンドというクオリティCM、そしてレベル競争でなく本来の素材がもつ声や音楽やSFXが自然に聞こえるCMを提供することでインターネットCMと差別化したCM制作と提供が成り立つのではないかと思います。また回数競争ではなくあたかも「ショートフィルム」のような感覚の作品性をも感じるようなCMが成り立つと考えました。

そこで今回は、そうした分野では最先端のアメリカの状況、そして日本と同じ状況のヨーロッパ、そして今模索を始めた日本国内の状況を4名のパネラーをお招きして開催することにしました。以下に各パネラーの発言をまとめてみます。


11月22日(木)午後1時∼4時
幕張メッセ国際会議場2F国際会議室
プレゼンター:Mr. Jay Scott (GTN社)
       Mr. Florian Camerer (オーストリア放送協会)
       Mr. Jeff Fuller(11 sound)
       北村早織氏(株式会社1991)

各パネラーの視点は以下のようなポイントから報告して頂きました。 
・制作プロダクションサイドから見てコマーシャルという限られた時間内にどういった新たな音響表現が可能なのか?そのメリットは何なのか?
・そのことによってクライアントや代理店はどういったメリットを感じているのか?
・送り出し側の放送経営者にとってはどうなのか?
・受け取る視聴者の反応はステレオに比べて効果的なのか?
 

1.米国における広告と5.1CHサラウンドオーディオ
<right>JAY SCOTT</right>


Jay Scottは2度目の来日です。彼とは91年からのサラウンド仲間ですが昨年2006年のAESサンフランシスコの場でこうした企画を話すと、全面的に協力するからと約束してくれました。彼のスタジオGTNはアメリカビッグ3の拠点デトロイトにありますので持参してくれたデモCMもその多くが自動車のサラウンドCMです。(以下彼のプレゼンテーション要約)

5.1CHサラウンドオーディオで制作されたコマーシャルは米国では何年も前からあり、特にHDTV(ハイビジョンテレビ)の米国家庭での普及率が上がるにつれて、メディアシーンの成長分野となっています。このための3つの要因、すなわち、コンテンツ制作、コンテンツ配信、家庭視聴者について述べてみます。


現在の状況

米国では、2009年2月のデジタルテレビ(DTV)への完全移行(必ずしもHDTVではない)が急速に近づきつつある。現在米国の家庭の20%がHDTVを所有しこれは2005年の13%から上昇しており、健全な傾向である。しかし重要なのは、そのうちフルHD受信を備えているのは61%である。ハワイ州ダニエル・イノウエ上院議員はこう指摘している。「私たちはまだ、デジタルへの移行が行われつつあるということを一般大衆に周知させていない。」しかしその日は来る。放送用5.1CHサラウンドサウンドは現在HD配信形式と結びついており、HDがDTVの開始とともに伸びるにつれ、私たちは市場における5.1CHサラウンド成長の機会を見ることができる。


【コンテンツ制作】
では、まずコンテンツ制作から始めよう。広告主がHD/5.1CHサラウンドコンテンツを制作するのには多くの理由がある。クリエイティブな視点から言うと、5.1CHサラウンドはステレオよりも多くの可能性をもたらし、2CHにエンコーダされたLtRtより自由度が高いという点である。すなわち

エンベロップメント(包まれ感)、
低音の拡大、
音場内での動き、
センタースピーカーによってもたらされる優れたイメージング力、
スピーカーの数が増えることによる音場の増加、

である。消費者の関心を獲得するための競争が熾烈なメディア市場において、多くの広告主がHD/5.1CHサラウンドのスポットCMは差別化を生むものであると感じている。しかし私たちはまだ移行期にある。今年5月にSHOOTという雑誌がいくつかの広告制作会社幹部に対し、クライアントとどのくらいHDの世界に関与しているかについて調査を行った。回答は、完全関与から慎重な楽観視まで様々であった。しかし、いずれのケースにおいても、HDは彼らの日常的な体験の一部となっている。
同時にそれを私たちがどう利用できるかということに関する教育に、力を入れている。活動のひとつとして、ポストプロダクションのアーティストやベンダーを招いて、HDとHDを使用して仕事をするプロセスについてのQ&Aセッションが挙げられる。これをプロダクションやクリエイティブ(制作)だけでなく、メディア(媒体)やアカウントマネージメント(営業)にも広げている。私はAICE(独立クリエイティブエディター協会)や各広告代理店のセミナーに参加し、5.1CHサラウンドサウンドのクリエイティブ面での可能性と技術的な必要性について説明してきた。こうした現在進行中の取組みは大きな成果を上げており、コマーシャルプロセス全体にわたりHD/5.1CHサラウンドワークフローに精通した人が増えてきている。

コマーシャルミュージックライブラリでさえ、その楽曲について5.1CHサラウンドステムを提供し始めている。サウンドエフェクトは、プロジェクト特有の要素として、またそのフォーマット専用のライブラリから、5.1CHサラウンドでミキシング段階に届けられる可能性が高い。またすぐれたツールの恩恵でステレオ音源からサラウンドをUP-MIXすることさえできる。つまり、コマーシャルという形式の「30秒間の映画」の制作を可能にするツールは、非常に洗練されているのである。最新世代のHDビデオテープマシーンは、妥協のない画質と、ディスクリートでハイファイなマルチチャンネルサウンドを提供することで、私たちは素晴らしい商品を創り出すことができるのである。

【コンテンツ配信】
次はコンテンツ配信について。コンテンツ制作の最後に、またときには制作中に、私たちは制作物をクライアントや一般消費者へ試写という形で見せる必要がある。しかし、コンテンツ制作段階でのHD/5.1CHサラウンド素材の配信はそれほど簡単ではない。今のところ、コマーシャルワークフローに浸透しているHD/5.1CHサラウンドコンテンツの安価な配信方法はない。しかし記録型HD-DVDやブルーレイが成熟するにつれて、これらのハードメディアフォーマットがひとつのソリューションを提供することになるだろう。ファイルレベルでは、Windows Media 9や高解像度Quicktimeフォーマットが高品質なマルチチャンネル商品を配信することができる。これらの配信フォーマットがコンテンツ制作ワークフローの一部となるまでは、きちんと設計されたHD/5.1CHサラウンド試写室がその役目を担うことになるだろう。

放送局への配信ということに関して言えば、私たちはDTVへの完全移行期限に向かいつつあるため、まだ移行段階にある。現在のところ、私たちはスポットCMの大部分をHD-CAM/SRかHD-D5いずれかのHDビデオテープでネットワークに配信している。残念ながら各ネットワークが独自の基準を持っており、1つのテープによって様々なバリエーションが要求される。これには、外側のラベリング、スレート情報、ISCIコード、テープフォーマット、HDフォーマット、メタデータ、トラックレイアウト、サラウンドタイプ(5.1CHサラウンドかLtRtか)、データフォーマット(ドルビーEかディスクリートか)、そして16x9/4x3問題に基づく様々な画像制限などがある。こうした要件は直前になって変わることもある。
しかし、他の配信方法が出現しつつある。DG Fast-channelは2006年11月、HD広告コンテンツのための電子配信フォーマットHD Nowを導入した。このシステムはファイルベースのコンテンツを各ネットワークに設置しているサーバに、直接放映が可能な状態で配信する。この種のファイル配信システムが、セットトップボックスでのメタデータアプリケーションともに、DTVの世界で一般的になれば、非常に効率的で低損失な広告コンテンツ配信が可能になるだろう。
* 筆者注
このHD-NOWというコンセプトが大変興味があったので講演後JAYに詳しく話をきき、また技術情報を検索してみましたので紹介します。

これは制作側で完成したCMを各放送局の納入形式に応じたメタデータをいれてDG-DROP BOXと呼ぶ送信端末で衛星や高速インターネットで配信します。受け取る側はDG-SPOT BOXと呼ばれる端末でこれを受けテープベースまたはビデオファイルでサーバーへ格納し放送するシステムでリース代は月$200です。

伝送仕様はMPEG-2  
45Mbps TS 4:2:2コンポーネント映像
720P/1080i対応
音声はMPEG-1 Layer01 48k/max 24bitで8チャンネルまで伝送。
というテープレスのやりとりです。

【コンテンツ視聴】
今度は消費者について。オーディオにもっと適した数字、ホームシアターの普及率に目を向けてみよう。CEA(全米家電協会)は、米国の家庭の36%が現在ホームシアターを所有していると推測しており、これは1998年の16%から上昇している。様々な調査が、HDで制作された広告のインパクトを測定し始めている。現状では、視聴者はSDよりHDで広告を見る可能性は低いが、いくつかの方法で広告に対して好意的な反応を示している。まず、

家にHDを持っている視聴者はHDの番組を探す傾向が高い。
HD視聴者はHD番組の広告の方が自分たちのニーズや興味に合っていることに同意する傾向が高い。
72%が、いつもまたは時々、ある広告がHDかどうか気付く
「購買意欲」は、SDで制作された広告よりもHDで制作された広告の方が55%高かった。
HD視聴者によるブランド想起は、SD視聴者の3倍である。
多くのネットワークのHD視聴者が、有意に高い広告インパクト数値およびHD広告との感情的つながりを記録している。

そして視聴者がHD放送の最中に購入する可能性は低いが、HD/5.1CHサラウンド体験に消費者が反応していることは明白である。

まだ課題はあるが、私たちは今すぐにでも、放送を通じて高品質なオーディオ体験を受け入れ態勢の整った視聴者に届けることができる。5.1CHサラウンドサウンドは、効果的な広告コンテンツ配信の素晴らしいリソースであり続けることだろう。

DEMO:

LEO BURNRTT/CADILLAC/FASHION-SHOW 60SEC
BBDO/DODGE/ROCK EM SOCK EM 30SEC
CAMPBELL EWALD/CHEVY/TRANSFORMERS 30SEC
Y&R/LINCOLN/ANTHEM 60SEC
DONER/MAZDA/EAR TO THE GROUND 30SEC



2.「ヨーロッパにおける5.1サラウンドサウンドを使用した広告」
<right>フロリアン・キャメラー、オーストリア放送協会(ORF)</right>


ヨーロッパではマルチチャンネルオーディオ放送の人気が高まっている。1999年ドイツの民間放送局Pro7、そして2003年公共放送局ORFに始まり、今日非常に多くの放送局が、主に伝送DVB-S(衛星によるデジタルビデオブロードキャスティング)、またDVB-T(地上波によるデジタルビデオブロードキャスティング)を経由して、ディスクリートサラウンドサウンド(5.1)方式による放送を行っている。5.1マルチチャンネルオーディオ放送の利点はいくつかの番組分野で探求されている。すなわち、コンサートやオペラ、演劇、映画やドキュメンタリー、スポーツ、そしてラジオについてはラジオドラマである。サラウンドサウンドホームシアターシステムを備えた家庭の数は着実に増加しており、5.1マルチチャンネルオーディオと組み合わせたHDTVも増加していることから、サラウンドサウンドの未来は明るい。

しかしながら、広告代理店が、広告キャンペーンのインパクトを強化するものとしてのサラウンドサウンドの新しい可能性を十分認識していないことは、少々驚きである。5.1方式による広告は現状、サラウンドサウンドホームシネマシステムを直接マーケティングする家庭用電化製品にたまに見られるに過ぎない。ここで頭に浮かぶのは日本のAV メーカである。サラウンドサウンドホームシネマシステムの広告にサラウンドサウンドを使用するのは当然であるとしても、5.1サラウンドサウンドが広告にもたらしうる、もっと広範な可能性がここヨーロッパでは、まだ十分に理解されていない。

これはコミュニケーションと誤解の問題かもしれない。と言うのも、広告ビジネスにおいては、広告の効果とインパクトを強化する新しいツールなら、諸手を挙げて歓迎されるのが常であるからだ。
コミュニケーションに関して言うなら、担当幹部がこの新しいマルチチャンネルフォーマットによって何ができるか、このフォーマットで音作りをすることがいかに簡単、あるいはいかに難しいかを十分認識していないのかもしれない。
誤解に関して言うなら、過去にも新技術の開発は「内部」、つまりエンジニアによって推進され、彼らの熱意が「狂気の沙汰」から「追求するに値するもの」に一般化されるまで常に相当の時間を要してきたのである。


広告業界における5.1サラウンドサウンドの課題と可能性

まず、ダイナミクスの問題である。圧縮しすぎている広告は、今もリスナーからの苦情No. 1である。このジレンマから解放されれば広告はより大きなインパクトと、より大きなダイナミックレンジを持つことができる。それによって、PPM(ピークプログラムメータ)がトップポジションから、全く動かない現在の超圧縮クリップと簡単に差別化することができる。
すべてはよりオープンなサウンド、よりインパクトがあり、息をのむようなクオリティのサウンドのためである。
さらに重要なのは、5.1サラウンドサウンドチャンネルをある意図を持ってどう効果的に使うか?である。これまでのところ、この分野には最も大きな可能性があるが、残念ながらヨーロッパの広告ビジネスは、これまでほとんど完全に無視してきた。

可能性は多様であり、2つのスピーカーをリスナーの側面/後方に位置させる(左サラウンドと右サラウンド)ことによって促進される。サウンドは視聴者をよりさりげなく、効果的に操作することができるのであり、これは広告においては金塊に値するのだが…

以下のキーワードはサウンド、特にサラウンドサウンドが作品に影響を与えることのできる様々な方法に関する、簡潔な紹介となるはずである。

– 聴覚および視覚コンテンツの「チームワーク」
– 慣れ ⇔ コントラスト
– 順応、疲労 ⇔ いら立ち、驚き
– スペース、ローカライゼーション、パースペクティブ、エンベロップメント
– 効果 ⇒ 印象
– 動き
– 推移、変形(空間、時間、キャラクター)– 密度、サイズ、インパクトの増加 – 主観的リスニングポイント(PoL ⇔ PoV)– 強調、焦点– リアリズムの増幅または軽減
– 誇張または仲介行動
– ペース設定、テンポ変更

これらの効力を活用することによって、特に広告スポットのプレゼンテーションと効果を容易に向上させることができる。コンテンツに関心を引くためにサラウンドチャンネルを特別に利用することによって、エキサイティングな可能性が生まれる。今日の視聴者は基本的に2チャンネルステレオシステムによる前頭位のサウンドに慣れている。よって今日まで、注意を引くためのツールはラウドネスであったしかしこれらのレベル競争という戦術は中期的未来において成功の可能性が低い。一方、5.1サラウンドサウンドは新しい方法でオーディエンスをとらえる広範なツールを提供する。

【要約】
広告分野における5.1サラウンドサウンドの採用と受容は、ヨーロッパにおいてはまだ発展途上である。これまでにほんの一握りの広告のみが日の目を見ている。サラウンドサウンドを放送することが比較的新しい(民間放送では8年、公共放送では5年)とは言え、特に広告ビジネスはオーディエンスに与える影響を強化する新しい方法や可能性の採用にはいつも熱心であるだけに、これは少しばかり驚きである。
5.1マルチチャンネルオーディオは、コンテンツにリスナーの関心を引くための表現力となる。採用には時間がかかることを踏まえれば(サラウンドサウンドと新しいHDTV伝送プラットフォームの自然な結びつきを考慮すれば)、これは非常に将来有望な分野である。チャンスは今である。よって、5.1マルチチャンネルオーディオが広告キャンペーンのインパクトを確実に向上させる可能性について、深く理解することを強くお勧めする。
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