【CES08】ビル・ゲイツ氏 基調講演 ユーザーセントリックへの取り組み紹介

2008.1.11 UP

 1月7日から10日までの4日間、米ネバダ州ラスベガスのラスベガスコンベンションホール、サンズコンベンションセンターにおいて、世界最大級の情報家電に関する展示会、インターナショナルCES(以下、CES。主催:米国家電協会)が開催された。
 新年の幕開けを告げるこのCESでは、米マイクロソフト社のビル・ゲイツ会長が開始前夜に基調講演を行なうのが恒例となってきた。その登壇も、11回目を迎える今回で最後となる。会長として最後の基調講演を行ったゲイツ氏は、よりユーザーセントリックなコンピューティングに向かうべきとの見方を示し、同社の取組みを紹介した。

★連続9回基調講演
 CES開催前日の1月6日に開催されたビル・ゲイツ会長の基調講演は、連続9年目で通算で11回目となる。毎年、CES開始前夜に「開場前基調講演」として行なわれるのが通例だった。同氏の講演は、以前はコムデックスのものが注目されていた。11月に開催されていたコムデックスの基調講演も毎年ゲイツ氏だったのだ。そのわずか2ヶ月後のCESでは、コムデックスの「焼き直し」といった感のある講演だった時期もある。しかし、コムデックスが開催されなくなってからはCESがゲイツ氏の「年頭の辞」の場となり、講演内容も充実した。並行して、同氏の社内での立場の変化からか、独演から共演へと形態を変えてきた。以前は、壇上に招いた担当者と掛け合いを行ないながら新製品を紹介することも多かったが、最近は担当者に一定時間全てを任せて、自身はその間は舞台裏に控えているパターンを取っている。
 ゲイツ氏は既に同社のCEO(最高経営責任者)職をステーブ・バルマー氏に譲っており、会長職からの引退も2006年に表明している。そのため、今回のCESが最後の基調講演になることが予想されていた。ゲイツ氏最後の基調講演を見ようと、ベネチアン・ホテルには3時間以上前の午後3時頃から行列ができていた。

★ディジタル10年紀
 CEA(米国家電協会)のゲリー・シャピロCEOに紹介され登場したゲイツ氏は、いつもと変わらぬセーター姿で登場した。「94年に最初の基調講演を行った。ウィンドウズ95をリリースする時だったが、その講演からすぐにディジタル10年紀(ディジタル・ディケード)が始まった」と最初の講演を振り返った同氏は、ブロードバンド、携帯電話が94年の時から見て急激な発展を遂げたことを示し、また数々のハード、ソフトにより「最初の10年紀は素晴らしかった」と、大きな前進があったことを誇った。また、10年前に同氏とマイクロソフトが「自動車用のAutoPCを語り、今採用が進んでいる。ハンドヘルドPCを語り、ウィンドウズ・スマートフォンとなっている」と未来を先取りしてきたことをさりげなく指摘した。そして「最初の10年紀は偉大な成功で、数千の会社が成功した。そして我々は次の10年紀に向かう」と、この日の講演は「第2の10年紀」についてである、とした。
 ここで同氏は「この基調講演が自分の最後のものとなる。17歳でマイクロソフトのフルタイム社員となったが、いよいよ今年フルタイムから退く」と、退任を聴衆に明らかにした。そして、同氏の職責は2人の後継者が引き継ぐが、同氏は教育、健康関連のソフトウェアについてマイクロソフトで関係してゆく、と表明した。

★接続とサービスが鍵
 「退職の日」をイメージしたコメディ映像(ゴア前副大統領、民主党各大統領候補、スピルバーグ監督等多数の有名人が登場するのは例年通り)が流された後、再び「第2の10年紀」の話題に戻った。
 同氏は、新時代は「人と人をつなぐ方向」、「ユーザーセントリックな方向」に進んでゆくと指摘し、これらに関わるビジネスが伸びてゆくだろう、とした。また、テレビ放送や健康管理のあり方は「究極の転換」が訪れる、としたが具体的な姿は明かさなかった。
 次の10年紀で重要な要素となると同氏が見るのは、以下の3点である。まず、HD体験の普遍化で、これは単なるHDTVではなくすべてのディスプレイがHD化され描写の品質が格段に向上することを意味する。次は、すべてのデバイスがサービスとつながる、ということで「接続」を意識しなくてもよい方向に技術を進めるということを示している。最後に同氏はユーザー・インターフェースをあげ、最初の10年紀はキーボードとマウスであったが、次は見る、話す、触る、真似る(ジェスチャー)といったマルチモーダルでインターフェースを取る方向に進む、との考えを示した。
 そのような時代に向かっていても、「マイクロソフトの鍵はウィンドウズにある」と、OSが同社の事業の基盤であるとした。
 アドビ社のフラッシュに対抗するとして注目されているマルチメディア配信技術「シルバーライト」については、「米NBC放送が2008年北京オリンピックのインターネット配信に使用する」と大型採用を発表した。3000時間相当のVoDがこの技術で配信される。

★広告事業へ布石
 途中で、状況紹介を引継いだロバート・ボック氏(エンターテイメント&デバイス事業本部長)は、昨年に続いての登場である。同氏が担当する事業の状況を数字を交えて紹介した。それによると、XBOX360は累計1770万台(昨年のCES時点では1080万台)をかぞえ、XBOXライブには1000万名が加入している。XBOX事業は「好調だ」と、ソニーのPS3よりも20億ドル売上で上回ったという調査も示し、自信を見せた。
 しかし、同社の携帯型音楽プレイヤー「ズーン」については、「今春カナダで発売を開始する」と述べ、「新サービスであるズーン・ソーシャルのトライアルに150万人が参加した」とは明かした、機器の売れ行きなどには言及しなかった。
 IPTV技術は「マイクロソフト・メディアルーム」の名称で展開しているが、これを採用した通信事業者が世界で20を越え、「100万加入に達した」とボック氏は述べた。ただし、同社の6日付リリースでは「Q1中に100万に達するペースで伸びている」としており、ボック氏の表明は勇み足と言えそうだ。IPTVでは、昨年XBOX360をSTB化できることが明かされたが、その技術を英国のBTが採用したと報告された。
 自動車関連では、ズーンとカーオーディオ装置が同期するデモが行なわれた。また、ブルートゥースを搭載した携帯電話とカーオーディオの間で、電話帳の同期も取れることが述べられた。間もなく投入される機能としては、エアバッグの展開を関係機関に自動的に通報する「911アシスト」があることも明かされた。
 ボック氏は、最後に広告に関して述べ、「広告活動が、新世代のディジタル生態系の中でいかに活用できるかを模索している」と、この分野へ非常に強い関心を頂いていることを明らかにした。そして、「ディジタル空間では、より広い広告スペースを提供できる」と利点を指摘し「マイクロソフトは、この件について真剣である」と付け足した。同社は、モバイル市場での広告だけで110億ドルの規模になると予想している。

★R&Dは認識技術へ
 ここで再びゲイツ会長が壇上に戻り、同社の研究部門が取り組んでいる技術を紹介した。小型カメラによる実時間認識を用いたAR(拡張現実)のデモである。
カメラをボック氏に向けると「ロビー・ボック。20ドルの貸しがある」というように認識結果と付加情報が示された。また、ラスベガスのパノラマ写真にカメラを向けると、位置関係や建物の特徴からホテル名などを割り出し、開催中の行事などを表示していった。ここで示されたのは、あくまでもコンセプトのデモであり、実用に近づいている技術と構想段階のものが混在している、同社が認識、ARといった分野に注力していることが見える。
 講演の前半では、ゲイツ会長が「マイクロソフト・サーフェース」のデモを行った。これは、テーブル型のプロジェクション装置に情報を投射すると同時に、その上での手の動きを認識して反応するものである。同社の技術特徴は、テーブルに置かれた実際の物も反応に取りこめるところにある。このデモは昨年も行なわれているが、今年も登場したことで力の入れようが伺われる。
 講演の最後は、XBOX360を使ったギターの鳴らし合いゲームを行うというやや不可解な終わり方となり、ゲイツ会長は静かにスモークの向こうに去って行った。盛り上がりに欠ける終わり方ではあったが、同社が重視する方向が明らかになった基調講演となった。


[写真説明]
写真1 「10年紀」を切り口に、新しい時代への入口を示すゲイツ会長。
    今回で最後のCES基調講演となる

写真2 インターフェース技術「サーフェース」のデモ。映像と盤上の物体を
    リンクさせて扱うことができるのが大きな特徴

写真3 AR用デバイスを手に持ち、ラスベガスのパネル写真に向けるゲイツ氏。
    各建物が認識される。また、表示画像には最新の広告が挿入されていた。

写真4 講演開始3時間半前から並ぶ各国のプレス。始まる前に既に疲れ果てて
    いる。

【提供元:映像新聞社/CES(2008/1/8)】

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