『NAB SHOW 2008』に見る技術動向(その4):デジタルシネマ、次世代放送

2008.5.19 UP

 これまで、カメラや映像モニター、制作システムや符号化技術などの動向を見てきた。本号では進展目覚ましいデジタルシネマの動きやNHKが研究開発を進めている次世代放送U-HDTV(スーパーハイビジョン)の動向などについて紹介したい。

 今、「デジタルシネマ」が大きなトレンドになっている。米国内でのデジタルシネマ対応スクリーン数は5000館を超え、リリースされたデジタルシネマ作品も150を超えたと言われる。「デジタルシネマサミット」はNAB恒例の行事になって5年目、デジタルシネマのDCI(Digital Cinema Initiative)仕様が決まって約3年、今年はSMPTEと共催で盛大に開かれた。今回、展示会場を回ってみて、デジタルシネマ対応のカメラ、ディスプレイ、制作システム、フイルムスキャナー、圧縮符号化システムなど、多くの企業から多彩な機器やシステムが展示公開されていた。デジタルシネマはもはや特殊なものでなくはなくなっており、いよいよ定着し、ビジネス段階に入ってきているとの感を持った。

 会場の中でひときわ目を引き今年もすごい人気だったのが、デジタルシネマのシンボルのような赤い色のテントの"RED DIGITAL"のブースだ。ブース内には同社の主力機種のデジタルシネマカメラ"4K RED ONE"をはじめ新製品の"RED SCARLET"や"RED EPIC"、レンズ類や様々のアクセサリー類を並べて見せてくれた。RED ONEは、Mysterium Sensor(画素数12M)を搭載し、4k、2Kおよび1080P/720P各フォーマットに対応し、1~60Pまで可変速撮影ができる。ブース内の混雑を避け、今年はブース裏手にシアターを設けたが、案の定入場待ちの長蛇の列ができていた。シアターのスクリーンサイズは200"位の大きさで、ソニーのプロジェクター4K-SXRDを使って作品を上映していた。RED Oneカメラは"Redrock Micro"(米)などのブースでも展示されていた。RED社は世界的にアライアンスを組み活発にデジタルシネマ活動を進めているが、日本国内でもコンソーシアム構築が進んでいると伝えられている。今後の展開に注目したい。

 ソニーは出展コンセプトのひとつに"Beyond HDTV"を掲げ、進展するデジタルシネマに対応する様々の機器、ソリューションを出展した。今回、一昨年発表し既に世界的にも実績を上げているデジタルシネマカメラ"F23"をさらに機能・性能アップしたニューモデルの"F35"を出し評判になっていた。撮像素子にスーパー35mmフイルムに相当する単板CCD(RGB;1920×1080)を搭載し、シネカメラと同様の被写界深度(ボケ味)を生かした映像表現を可能とし、シネカメラ用の多くのレンズやカメラアクセサリーも使えるようにし、使い勝手も向上した。またLogガンマとあわせ幅広い階調再現性と800%のワイドダイナミックレンジを実現し、さらにRGB4:4:4で1~50Fpsの撮影も可能となった。今秋発売予定と報じられているが、映像、映画業界での期待が会場でも高まっていたようだ。
 "Vision Research"(米)はデジタルシネマ対応の超高速カメラ"Phantom 65"を出展した。このカメラは65mmフイルムサイズのCMOS単板を使い、解像度は4096×2440で最高140fpsの高速撮影が可能だ。また一緒に公開した"Phantom HD"は小型のCMOS単板を用い、2K、1080p、720pに対応し、1080pの場合1000fpsまで撮影可能だ。また、"ARRI"(米)はスーパー35mmサイズのCMOS単板を使い、2K対応のデジタルシネマカメラ"ARRIFLEX D21"を出展した。
 
 デジタルシネマ対応のディスプレイも幾つかの企業から様々のモデルが出展されていた。
 ソニーは42"液晶マスターモニター"TRIMASTER"を参考展示した。これは10ビット駆動、120Hz倍速黒挿入方式で高純度LEDバックライトを使い、高精度信号処理エンジンにより高画質化し、4K(3840×2160)とフルHD(1920×1080)に対応している。また大画面用に4K-SXRD (Silicon X-tal Reflective Display:シリコン基板上に反射型LCD素子を配置した投射型ディスプレイ)を搭載した80"サイズ位のリア投射型ディスプレイも展示していた。さらにブース内の一郭に80人位が入れるミニシアターを作り、300"位のカーブドスクリーンに4K-SXRD プロジェクターで高精細映像を映していた。
 アストロデザインはデジタルシネマ対応の56"超高解像度液晶ディスプレイを出展した。高速応答、高輝度・コントラスト、広視野角で、DCIの4K規格に対応しHDTVをアップコンバートして表示することもできる。ブースでは非圧縮のシリコンレコーダから再生したNHKのスーパーハイビジョン映像を公開していた。
 バルコはフルHDTV (1920×1080)対応の42"、47"に加え、新製品の超高精細度Quad HD(3840×2160)の56"液晶ディスプレイを初めて出展した。

 デジタルシネマに対応する制作システムとして、クオンテルが DI(Digital Intermediate)の映画製作用ツールを使い、ビデオサーバ"Gene Pool"を通してHDや4Kも含め複数の解像度を同時・並列処理可能なシステムを、トムソン・グラスバレーや"cintel"(英)は4K対応のFilm Scanner(テレシネ)を、またリーダー電子は映画スタッフ向けにデジタルシネマ制作を支援する計測機器類を出展し注目された。
 デジタルシネマに対応する圧縮符号技術に関する出展もかなり目についた。NTTサイバースペース研究所は4Kと2Kの高精細映像を一緒にコーディングできるオフライン符号化技術を、KDDI研究所は4K映像をリアルタイムで超高圧縮するH.264エンコーダソフトなどを公開していた。            
 
 NHKは一昨年、昨年に続きUltra-HDTV(スーパーハイビジョン)など最新技術を出展した。U-HDTVはハイビジョンの16倍、4Kデジタルシネマの4倍の情報量(7680×4320)を持ち、臨場感の高い次世代放送だ。昨年まではシアター内の大画面で上映したが、今回は家庭向け放送をイメージさせるため、明室環境で4K解像度の 56" 液晶モニター4面を組合せた直視型ディスプレイ(110"相当)を使って見せてくれた。サラウンド音声つきで間近に見る超高精細映像の臨場感は中々だった。またU-HDTVカメラ、放送用H.264圧縮装置、56"液晶モニター(4K)も公開していた。
 今回のNABでは3D関連の出展も幾つかあったが、NHKは次世代放送のひとつとして家庭用3Dテレビを公開した。これはNHKメディアテクノロジー(旧NHKテクニカルサービス)が開発したマイクロポール方式で、液晶テレビ表面に偏光フィルターの薄いフイルムを貼り、順次走査の右目、左目用映像信号を1本おきに表示させ、偏光眼鏡で見るという手軽な方式である。ラスベガス市内で撮影した立体映像などを上映していたが、評判を聞きつけた見学者が熱心に見入っていた。その他、既に使われている超高感度HARPカメラと超高速度HDカメラや月探査衛星「かぐや」に搭載した小型HDTVカメラで撮影された素晴らしい映像も公開されていた。


映像技術ジャーナリスト 石田武久


写1:大評判の赤いテントの"RED DIGITAL"
写2:ソニーのハイエンド機シネアルタF35
写3:トムソンのFilm scanner "4K SPIRIT"
写4:KDDIの4K U-HDTV エンコーダ
写5:直視型4面マルチU-HDTVディスプレイで見る高い臨場感

#interbee2019

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