【InterBEE2010レポート】次世代技術に見る画質向上 新型のエンコーダーが登場

2010.12.17 UP

ザクセルブースの鈴木則久社長
NEC製エンコーダ VC-5350

NEC製エンコーダ VC-5350

NECが参考出展した超解像

NECが参考出展した超解像

 BSデジタル放送が始まって10年、地上デジタル放送が始まって7年が経過した。いずれも画像のエンコードには、MPEG2を使っている。MPEGは、エンコーダーの改良で画質向上が見込めるため、放送のようにインフラとして長期間社会に供される用途にも耐えられる。
 11月に開催の「Inter BEE 2010」では、改良されたエンコーダーが展示された。これまで1440×1080ピクセルが一般的だった地上デジタル放送を、1920×1080ピクセルで送信できる。また、アーカイブ映像を超解像技術により高解像度化するアプリケーションも展示され、コンテンツの再利用に道を開き始めていた。(杉沼浩司)


★進む画質改善

 MPEG1以来の標準化は、デコードの方法を厳密に定められているが、エンコードには幅広い裁量が認められている。極論すれば、「デコーダーが正常に再生できればよい」ということである。もちろん、デコードの方式が決まっているのだから、エンコードの方法はおのずと導かれる。それでもエンコーダーの開発に関しては、かなりの自由裁量が認められているのが、それ以前の符号化方式との大きな違いと言える。

 この自由度によってもたらされたのは、画質改善もしくは高効率化である。同じビットレートでより高い画質を実現するか、同じ画質でより低いビットレートを可能としている。低ビットレート化は、局ごとに帯域幅が確保されている地上波では関係ない。だが、衛星(BS、CS)放送のように一つのトランスポンダー(中継器/以下、トラポン)に複数の局を収容している場合、効率化は経済面で大きな効果がある。

 トラポンの容量は変更できないが、圧縮の効率を高め画質を落とさずに収容するチャンネルを増やせば、それだけ収益増となる。欧米では、衛星放送事業者に向けたMPEG2エンコーダーの開発が盛んで、大手エンコーダーメーカーから2年ごとに新型機が現れている。エンコーダーは2000年以降、順調に効率向上を続けてきた。


★横1920ピクセルを実現へ

 NECは、新型のMPEG2エンコーダー「VC-5350」を出展した。このエンコーダーは、「フレーム/フィールド構造適応符号化方式」を採用している。地上デジタル放送では飛び越し走査が使われており、映像はフィールドを基本として作られている。これをエンコードする際、2フィールドを合わせて1フレームとして符号化する方法と、フィールドの構造を残したまま符号化する方法がある。

 前者では、2フィールドを単純に合わせるのではなく、画面の上半分に片フィールドを、下半分に別のフィールドを集める。このフレームを使って符号化を行う。画面の上下で時間差があるため、静止画もしくは動きが少ない画像を扱うのに適している。

 フィールド構造を使う方式では、各フィールドに対して符号化を行う。2フィールドを融合して1フレームとはしない。この結果、IピクチャーやPピクチャーとなったフィールドは、新たに符号化されるフィールドから参照して、最適な処理を行う。一つのフィールドの中では時間的なずれが生じないため、動きのある画像を符号化するのに向いている。

 VC-5350では、この二つのエンコード方式を画像によって切り替えながら使用する。こうした動きに対して最適なエンコードが行えるとしている。
 これまで地上デジタル放送では、主に1440×1080ピクセルの解像度が使われてきた。MPEG2のレベルでは「H14L」とされるものである。横の画素数を1920とする場合、レベルは「HL」を使用する必要があった。

 NECによれば、このエンコーダーの使用で、ビットレートを上げずに1920ピクセル(HL)を実現できるという。もちろん、横1440ピクセルとすれば、ビットレートを下げることが可能となる。新エンコーダーの導入で、放送事業者は選択肢を増やすことができる。


★次世代符号化

 三菱電機のブースでは、次世代符号化技術が展示されていた。ISO系のMPEGとITU系のH.26xが合同で規格化を進める「HEVC」として提案されているものである。三菱電機はNHK放送技術研究所と共同で研究を行っている。

 H.265とも俗称されているHEVCは、MPEG4 AVC/H.264(以下、AVC/H.264)の倍の効率を狙うとしている。つまり、同じ画質でビットレートは半分になる。同時に、処理の複雑化を抑え、ハード、ソフトの開発負担を軽減することも検討されている。2012年に規格草案が決定されることになっている。

 三菱電機は、10月のCEATECでも同じものを展示したが、映像のプロ向けの展示会であるだけに、今回は展示方法を見直した。CEATECはAVC/H.264と提案方式の比較であったが、今回は原画像と提案方式を比較。8k×4k映像を51.3Mbpsに圧縮(460分の1)していた。

 8k×4k画像で50Mbpsを切れば地上波、衛星波での放送は現実味を帯びてくる。スーパーハイビジョン(UHDTV)を実現する方式としてHEVCに期待したい。


★超解像でHD化

 NECのブースでは、アーカイブへの応用を狙った超解像技術も参考出展されていた。超解像とは、種々の処理により原画の解像度以上の解像度を得るものである。一般に超解像は、複数の画像を入力して行われる。各画像で微妙に撮影位置がずれていることから、この情報を用いて高解像度化を行う。

 最近、テレビで「超解像」をうたうものもある。これは基本的に1フレームの情報を元にしているので、古典的な超解像とはやや異なる処理となる。
 古典的な超解像を教科書通り実現すると、動きが生じている部分に対しては処理ができない。動き部分は元の解像度で、静止部分が高解像度という出力が得られる。
 NECでは、動き補償を導入することで、動き部分に対しても超解像処理が行えるようにした。この結果、注目するフレームの前後3フレーム、計7フレームを用いた超解像処理が可能となり、動きの速い物体があっても超解像を適用できるようになったという。

 現時点では、動き補償処理が不十分な部分では独特のひずみが出ているが、気になるレベルではない。SD画像をHD化という所期の目的は達成されたようだ。
 現在、この技術はPC処理されているが、SD画像をHD(1920×1080ピクセル相当)化するのに実時間の10倍を要する。1時間の動画を処理するのに10時間が必要になる計算だ。従来方式では、1時間のSD動画をHD化するのに1カ月を要していたと言われており、70倍の高速化を実現したことになる。現在の処理ソフトは特殊なハードウエアは使用していないため、今後GPUなどのハードウエア支援を受ければ、さらに速度が向上すると見られる。

 NECは、放送局などが持つSDの映像資産をHDで放映することを目指してこの技術を開発しているという。実用化は数年先であるが、この技術によりコンテンツの活用が進むことを期待するとしている。


★超解像4k登場

 一方、劇場やアミューズメントパークでの使用を目指した超解像による4k画像化も登場。ザクセルは、GPUを用いたリアルタイムHD 4k変換技術を公開していた。
 1920×1080/60iの入力から、3840×2160/60pをリアルタイムに作り出す。GPUは、米NVIDIA社のクアドロFX5800またはGフォースGTX275を2台(合計コア数480)使用する。

 同社を率いる鈴木則久社長は、東京大学助教授、日本IBM東京基礎研究所所長、ソニー・アーキテクチャ研究所所長を歴任したコンピューター・アーキテクチャーの専門家である。鈴木氏が1998年に米国で創業した企業を子会社化し、04年に設立された。これまで高能率符号化などで技術開発を行ってきたが、超解像にも分野を広げている。
 同氏は「4kコンテンツの不足から、従来資産を生かせるこの技術はエンターテインメント業界から注目されている」と言い、HDコンテンツを4k化して大画面上映を行う用途での利用が見込めるとしていた。


(写真説明)
1)GPUを用いたリアルタイム超解像技術を出展したザクセルと鈴木則久社長

2)NECのエンコーダVC-5350はフィールド構造に対応し、従来のレートで横1920点のエンコードを可能にしている

3)NECが参考出展した超解像は、動きがある映像に対しても適用でき従来比70倍の高速化がなされている

NEC製エンコーダ VC-5350

NEC製エンコーダ VC-5350

NECが参考出展した超解像

NECが参考出展した超解像

#interbee2019

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