私が見た"NAB SHOW 2010"における技術動向(その1、概要編)

2010.4.23 UP

日本企業ブースが固まるセントラルホール
オープニングセレモニー(NASAからの宇宙中継)

オープニングセレモニー(NASAからの宇宙中継)

コンテンツシアターでのパネルディスカッション

コンテンツシアターでのパネルディスカッション

NABからのライブ中継(KDDI研究所ブース)

NABからのライブ中継(KDDI研究所ブース)

HVTV World'91 の情景

HVTV World'91 の情景

放送界最大の課題であるデジタル化、米国は既に終え、わが国では1年後に控えている。そのような状況下の4月中旬、世界最大のデジタルメディアのコンベンション"NAB SHOW” (全米放送事業者協会(NAB)の主催)が米国ネバダ州ラスベガスで開催された。"CHANGE"旋風を巻き起こしオバマ政権が誕生して1年半、わが国でも憲政史上初めての政権交代がなって約9ヶ月、どちらも変革への挑戦は厳しい評価を受けている。やや上向きになりつつあるとはいえ厳しい経済状況下の開催で、出展社数は約1500社、来場者数は約9万人(中間発表)と世界不況の風が吹き荒れた昨年より上回ったようである。ヒルトンホテルや広大なラスベガス・コンベンション・センター(LVCC)いっぱいにコンファレンスや各社出展ブースが展開され、会場をまわってみた印象でも出展規模や内容、ブースでの混み具合など往年の賑わいを取り戻しつつあるとの感を持った。

出展社数や規模では米国企業が盛況なのは当然として、海外組では例年通り日本企業の健在振りが目についた。今や世界のリーディング・カンパニーとなっているソニーとパナソニックは、会場随一の広いスペース一杯にデジタルメディアの最先端技術を展開し、日立国際電気、池上通信機、JVC、キヤノン、Fujinon、FOR.Aなどがセントラルホールの地の利の良い場所にまるで日本船団のように固まってブースを構え、また最も広いサウスホールにはNTTグループ、KDDI、富士通などが出展し、それぞれ最新機器やシステムを公開、いずれも多くの見学者で賑わっていた。昨年、ノースホールでU-HDTV(スーパーハイビジョン)を展示し話題を呼んだNHK技術研究所は"Research Park"の一角にブースを設け、研究所創立80周年にあたるということで、これまでの長年の研究実績と次世代放送に向けた最先端の研究成果をパネルや映像で紹介していた。

また、今回は各企業のブースに加え、今のメディア状況を物語るように3DやMobile DTVなどテーマを絞ったパビリオンや、Korean、Beijing、Belgianなど国や地域別のパビリオンも多数が分散配置されていた。中でも、3Dパビリオンは3Dが今年のNAB最大のトピックスになっていたこともあり、中堅企業による3D撮影や2D・3D技術やそれらを使った多種多彩な立体映像が展示公開され人気を集めていた。国別パビリオンについては、国情を示すように韓国や中国陣の盛況さが目立つ一方で、ベルギーやイスラエルのように特異な出展物も見受けられたが、同国人のコミュニケーションの場の様なブースも見られた。

恒例のオープニングセレモニーは、初日の朝、ヒルトンホテルの広いバロンルームに正面演台を挟み両側に300インチくらいの大画面ディスプレイ2式が設置され、大勢の出席者を集め、例年より地味な演出ながらも盛大に華やかに開催された。冒頭、司会者挨拶に続きNASAからの中継映像(おそらく事前収録したもの?)が映し出され、宇宙ステーションにいる野口さんら宇宙飛行士からNAB開催を祝う映像メッセージがあり、無重力状態にいる二人の飛行士が互いに逆回転のでんぐり返しをする映像に喝采が沸いた。NAB新会長に就任したばかりのゴードン・スミス会長は、ユーモアを交えながらこれからのNABの活動方針に関してデジタル時代における米国放送事業のありよう、今後の多様なメディア展開について表明した。それに続き、ソニーの吉岡副社長がキーノートスピーチを行い、同社が今後の最大の事業戦略として掲げる3Dについて熱く語った。3D"Lens to the living room"のビジョンに沿い、高品質の3Dコンテンツの撮影から制作、BDによるコンテンツ提供と家庭用3Dテレビとトータルソリューションの方針などを、つい数日前に行われたマスターズトーナメントゴルフの3D映像なども交えつつ熱く語った。続いて"Back to the Future"などで一世を風靡した往年の名優マイケル ・J・ フォックスが、長年の映画・テレビ俳優としての実績と自身が患っているパーキンソン病対策への活動が評価され、NAB特別功労者として表彰され短いながらも感動的な挨拶を行った。

昨年に続き"Where Content Comes to Life"をテーマに掲げ、コンテンツ重視のスタンスを強めているNABは、今回、目玉のイベントとしてコンテンツシアターを開設(ソニーがスポンサー)した。その主たるテーマは、映像メディア最大のトレンドになっているS3D(Stereoscopic 3D)で、スポーツ中継"Football Game"(ESPN)、"Alice in Wonderland"(Walt Disney Studios)、ハッブル望遠鏡による宇宙などの作品上映と制作担当者などによるパネル討論などが、セッションごとに3日連続で開催された。イベントの前評判はものすごく、どのセッションもノースホールの通路に入場希望者が長蛇の列を作っていた。筆者も限られた取材時間を気にしつつ、2日目午後の"Alice"のセッションの列に並んだ。延々と待たされること1時間半、ようやく予約シールを入手し、会場に入ると300人位入る大きな会議室にシアターが設置され、正面にパネラーが座る演台と大画面3Dディスプレイ(ソニー製SXRD)がセットされていた。セッションはパネル討論風に進められ、"Sony Pictures"や"Walt Disney Studios"の3DやVFX制作担当者、アーティスト、プロデューサーが適宜3D映像を見せつつ、多彩な制作技法やエピソードなどを披瀝した。プアな英語力のせいで十分な理解はできなかったが、大変精緻な制作プロセスと実現された豊かな映像表現力と立体映像の迫力に圧倒された1時間だった。

今大会で行われたひとつのトピックスとして、NAB現地会場からインターネット経由で行われた「NAB SHOW 2010からのライブ中継」を紹介する。Inter BEE公式Websiteである「Inter BEE online」とNAB日本代表(代表:映像新聞信井会長)が企画し、KDDI研究所が協力して行われた。KDDIブース内に仮設スタジオを作り、可搬型の小型伝送システムを使いインターネット経由で日本へ送り、"Inter BEE TV"で配信すると共に"You Tube" でもオンエアされた。日本のKDDI研究所で受信された映像は、VistaFinderを使いNAB会場にも送り返され現地ブースでも公開された。この中継は初日から3日間連続、夕刻(現地時間)に行われた。映像新聞の記者や論説委員、在米ジャーナリスの小池氏、女子美術大学大学院為ヶ谷教授、ソニー山本担当部長らが、デジタルシネマサミット、オープニングセッション、出展物の技術動向など、今回のNABのホットな情報や生々しい状況について解説、評論を行った。筆者もこのライブ中継を同社ブースで見ていたが、日本から送り返された映像はシンプルなシステム構成ながらも地球を一周してきたとは思えない鮮明さに感嘆した。まさに現在のデジタルメディアを象徴する斬新でグローバルな試みで、今回はNAB情報を日本国内に配信する一方向的なものだったが、今後、多地点または日米間双方による質疑討論なども行われると一層興がわきそうだ。

ところで今や世界的に基幹メディアになっているHDTVがNABの場に本格的に登場したのは、今から約20年前の1991年のことである。当時、HDTVについては、標準化論争の渦中でNABの会場において日、米、欧の3方式の提案が一堂に会したのである。しかし日本方式の完成度は高く、1920×1080フォーマットはデファクトスタンダードになっており、それらを使った番組制作が世界中で行われていた頃で、この時のNABの場でも規模、内容の点で米、欧の出展物を圧倒する勢いだった。当時、各方式の走査線数やフィールド数の違いとか、方式変換に伴う手間や画質劣化などが問題視されていたが、その後のデジタル技術の進歩は目覚しくそれらの問題はあらかたクリアされ、今回のNABに見られるようにファイル化、マルチフォーマット対応が当たり前になっている今日のメディア状況を見るにつけまさに隔世の感がある。

ここまで今回のNABの概要を紹介したが、次回以降では、今回のNABで注目された具体的な技術動向について順次紹介していきたい。

(映像技術ジャーナリスト 石田武久)

オープニングセレモニー(NASAからの宇宙中継)

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コンテンツシアターでのパネルディスカッション

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NABからのライブ中継(KDDI研究所ブース)

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HVTV World'91 の情景

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#interbee2019

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