私が見た"NAB SHOW 2010"における技術動向(その4、制作系・符号化・ネットワーク編)

2010.5.17 UP

新たなワークフロー「メディアバックボーン」(ソニー)
ファイルベースの制作システム(グラスバレー)

ファイルベースの制作システム(グラスバレー)

3Dコンテンツワークフローのデモンストレーション(クオンテル

3Dコンテンツワークフローのデモンストレーション(クオンテル

人気スポットのバーチャルスタジオシステム(朋栄)

人気スポットのバーチャルスタジオシステム(朋栄)

多彩な高画質伝送システムの展示状況(NTTグループ)

多彩な高画質伝送システムの展示状況(NTTグループ)

 前号まで、3D、カメラやディスプレイの動向について見てきた。本号では、ファイルベース化が進む制作系、デジタルならではの合成技法、符号化・ネット関連の技術動向について紹介してみたい。
 
 ソニーはトータル的なワークフローのソリューションとして「メディアバックボーン」を提案した。ブース中央の広いスペースを円形状に仕切り、全体コンセプトの概略説明に続き、順次、映像素材の取り込みから編集、送出、アーカイブまで各システムのプレゼンテーションをやっていた。基本的コンセプトは、制作・送出現場で映像素材を各システム間でファイルとして共有し制作作業を効率的にできるようにし、さらに経理、人事など管理部門でもコンテンツの制作作業状況を把握できるようにするものである。現在業界では、映像フォーマットは様々な規格のものが流通し、ノンリニア編集系で使われるソフトウエアも様々で、メタデータの保持法も異なっている。このシステムの核になるステーションが、多様なフォーマット素材のインジェストおよびトランスコードする"ELLCAMI"である。このシステムとあわせて3Dコンテンツ制作を支援するマルチイメージプロセッサーなども展示され注目を集めていた。

 グラスバレーは広大なブースをコーナーに分け、各種システムの実演を交えたプレゼンテーションをし、場内は見学者であふれる賑わいだった。主力のノンリニア編集系"EDIUS"は新バージョンを出し、従来からのXDCAM HDに加え、AVC HD映像がリアルタイムで処理できるようになり、Windows 7での動作もサポートするようになった。さらには最近のトレンドであるデジタル一眼レフカメラによる映像にも対応できるようになった。放送・編集、イベントなどで世界的に使われている"K2"システムは、デジタル・ディスクレコーダ"T2"を機能強化したプレゼンテーションをやっていた。3D制作システムについては、3Alityのリグ搭載の3Dカメラ、3D対応のスイッチャーやサーバーを使った実演をしていたし、さらにMPEG-2、H.264、JPEG2000、3Dの各フォーマット毎に配信画質の比較を公開していた。
 昨年出展を見送った業界老舗のクオンテルだが、今回、様々な制作システムやソフトウエアを携えて戻ってきた。同社の主力機"Pablo"はアバターの制作にも使われたそうだが、今回、会場でも実際の3Dコンテンツを使い、素材のインジェスト、L/R 2CH映像同時のデスクトップ編集からカラーコレクション、そしてフィニッシングまでトータル的ワークフローを実演していた。さらに、今後3D制作の進展が見込まれる放送分野にまで拡張したシステムのデモンストレーションもやっていた。なお、ブース内に円形状シアターを設け、新製品や新技術の紹介とそれらを使って制作したコンテンツを見せていた。
 例年、大画面を使いコンテンツを見せつつ華麗なプレゼンテーションを繰り広げるオートデスクだが、今回もNAB最大のトピックスとなっている3D映像制作のフローを、最新のビジュアルイフェクトシステム、カラーグレーディングやフィニッシングシステムを使った実演を見せてくれた。デモに使われたコンテンツは、まだ未公開のEver Green Filmsの"TOTEM A Native American Ghost Story"で、精緻な3D映像の制作が最新技術により表現力高く、しかも効率的にやれることを見せてくれた。広いメインブース内だけでなく、外から立ち見で覗き込む見学者で溢れかえっていた。
 ディスクベース制作システムの元祖のようなアビッドは、例年と同じように、世界中に広がるユーザーの制作をサポートする数々のソリューションを多彩なデモンストレーションで公開していた。メインステージでは最新バージョンのクリエイティブツールの実演や、テレビ制作のためのメディアマネージメントとワークフロー、ドラマ制作での編集やフィニッシングなど、大画面を使いプレゼンテーションしていた。また小スペースのデモコーナーでは、Media Composerの最新バージョンや強化された編集機能の実演、可能になったAVC-Intraへの対応、さらにステレオスコピック3Dや、レッド3Dのワークフローにも効率的に対応できるようになったことなどを実演していた。またAfter Hour SHOWとして、展示会終了後に3日間連続で毎日テーマを変え特別プレゼンテーションをやっていた。最終日、キャノンとMatroxと連携する新しいワークフローの実演を見たが、夕刻の時間帯にも関らず熱心な聴講者で一杯だった。

 デジタル時代にフィットするクリエイティブな制作システムを展示し、例年人気の高い朋栄は、今回もベースバンドおよびファイルベースの制作系、高機能だが低価格で小型のスイッチャー、バーチャルスタジオ、次世代記録メディアとしてLTO(テープ)を使うアーカイブレコーダ、3D撮影時の色補正や視差調整にも使えるカラーエコライザーなど多種多彩なシステムを出展した。昨年のNABに登場し評判になり、IBCで技術賞もとったセンサーレスのバーチャルスタジオシステム"VRCAM"は、3D対応可能となり、通常のカメラワークでは実現できない映像効果を見せ、今回も人気スポットになっていた。
 デジタル時代の合成システムの常連、Ultimatte社やMotion Analysis社(国内エージェントはナック社)のデモも人気を集めていた。昨年のInter BEEで面白いタッチパネル式大画面ディスプレイを出し評判になったVizrt社(アルゼンチン)は、今回、キャスターがグリーンスクリーン上に薄く映る映像とコラボレーションし面白い映像効果が実現できるインタラクティブ性のある合成システムをデモし注目された。
 デジタルシネマの進展に伴い、映画制作プロセスにおいてDigital Intermediate (DI)と称して、フィルムで撮影した素材をデジタル信号で加工・処理し、そのまま出力あるいは再びフィルム画像に変換する方法がとられることが多い。このようなプロセスで使われるフィルムスキャナーやレコーダーが、HDTV時代からテレシネ変換技術で高い実績を持つCintel社(英)、コダックと技術協力関係にあるLASER GRAPHICS社(米)、フィルムプロセス老舗の ARIFLEXなどのブースで展示されていた。

 NTTグループは、世界初となるハイ4:2:2プロファイル対応の超高画質H.264 HD/SDリアルタイムエンコーダ/デコーダを、あわせてHDTVを 約100msの超低遅延で伝送する実演もやっていた。イベント中継の場合、撮影された映像が視聴者に届くまでエンコード/デコードが複数回行われるが、それによる画質劣化が少ないことを実演していた。またH.264 HDTVデコードとDVB-S2 対応機能を一体化したIRD(Integrated Receiver Decoder)を出展したが、H.264とMPEG-2、HD/SDとマルチフォーマットに対応するモデルである。IPTVでのVODサービスなどに使える超高圧縮のH.264 HDソフトウエアエンコーダ、デジタルシネマにも使えるJPEG2000リアルタイムコーデックも展示され、様々な分野で高画質のストリーミング配信に利用できる。
 KDDI研究所は、Beyond HDを掲げ取り組んでいる次世代映像サービスに関する新技術をメインに出展した。NICTからの委託研究による「U HDTV(スーパーハイビジョン)の超高圧縮技術」は、90Mbpsに超高圧縮されたU-HDTV映像(NHK制作の8Kコンテンツ)信号をリアルタイム復号し、2スタック方式の4K DILA(JVC)プロジェクターで映し出していた。また小型の4Kカメラ(JVC)で撮影した会場情景を、PCソフトウエアで25Mbpsに圧縮、擬似ネットで伝送し再びデコードした4K映像を見せていた。別コーナーでは昨InterBEEにも出展されたBD用コンテンツのオーサリングやネット配信などに有効な画質評価ソフトウエアが展示されていた。さらに同社ブース内に仮設したスタジオから携帯型高画質ビデオ伝送システム"Vista Finder"と"TriCaster(D Storm社)を使って行われた国内へのNABライブ中継については(その1)にて紹介した通りである。

 4回にわたりNAB SHOW 2010に見る技術動向の概要を紹介して来たが、映像メディアが大きく変貌し新たな展開を遂げつつあることを感じさせた大会だった。これらの技術、メディア動向が、この秋、開催予定のInter BEEの場にどのように登場してくるのか、期待したいところである。

(映像技術ジャーナリスト 石田武久) 

ファイルベースの制作システム(グラスバレー)

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3Dコンテンツワークフローのデモンストレーション(クオンテル

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人気スポットのバーチャルスタジオシステム(朋栄)

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多彩な高画質伝送システムの展示状況(NTTグループ)

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#interbee2019

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