『NAB SHOW 2008』に見る技術動向(その2):テレビカメラ、映像モニター

2008.5.12 UP

前号ではNAB2008の全体印象、テープレスカメラの動向について紹介した。本号では高画質、高機能化、多様化するカメラの動向、CRTに替わる映像モニターやディスプレイの動向について紹介したい。


小型軽量のテープレスカメラへの注目が大変高くなっているが、一方、世界的なHDTV化の流れ、デジタルシネマの進展に応える高画質カメラ、高感度・高速度と言った特殊カメラさらに特殊用途の超小型カメラなどテレビカメラは多様化している。今回、目についた幾つかのカメラ動向について見てみたい。 
 ソニーはデジタルシネマカメラのニューモデル"CINEALT F35"を出展し話題になっていたが、これについては次号のデジタルシネマの項に譲りたい。
 パナソニックはP2 HD対応とした"VARICAM"を出展した。これは220万画素2/3"IT-3CCDを搭載し、フルHDTV、低スミア、高感度で、符号圧縮にAVC-Intra/H.264を採用し、I/P切替により1080/30P、24Pにも対応する。14ビットDSPにより豊かな階調再現と広ダイナミックを得ており、ドラマ、CM制作、映画製作用を想定しているモデルで今秋発売と報じられている。              
 池上通信機は目玉の"GF CAM"シリーズに加え、新機種のコンパクトで軽量ながらも高画質のフルHDTVカメラを出展した。同機は新開発の2/3"230万画素、AIT CCD を採用し、14-bitA/Dと独自の映像プロセスによりSN比60dBを達成したハイエンド機である。またNHKの月周回衛星「かぐや」にも搭載され評判になったフルHDTV対応で高画質の小型HDTVカメラも展示した。
 日立国際電気は、ニューモデルのSK-HD1000をメインに展示した。同モデルはカメラヘッド部をドッカブル構造とし、光伝送系、無線伝送系、トライアックス系、レコーダを任意に組合せ、利用条件に応じてシステムを構築できる。撮像素子に230万画素、2/3型IT-CCDを使い高解像度で、低ノイズ回路により高感度、高S/Nを達成した。流線型スタイルの低重心デザインで、軽量化により機動性・操作性も向上した。
 JVCは昨年のInter BEEにカメラを出展しなかったが、今回のNABには業務用HDVカメラ"Pro HD"シリーズの3モデルを出展し注目された。軽量で機動性が高く、ENGカムコーダとしてのみならず映画製作用にも使用できるそうだ。               
 "I-Movix"(ベルギー)は、超高速度カメラ"Sprint Cam"を出展した。カメラ本体はフォトロン(CMOS単板)、レンズはフジノン製で、同社がアッセンブルした。1080iで毎秒250〜8000 fpsの超高速撮影が可能となり、16GBのメモリーを内蔵し、リアルタイムでの録画、再生が可能だ。1000fpsの場合約25秒間の収録再生できるそうだ。即再生可能なのでスポーツ番組などでも使えそうだ。
 "P+S TECHNIK"(ドイツ)も超高速度カメラを出していた。HDTV対応で、毎秒コマ数は1〜4000fps(720P)、1〜2000fps(1080P)、撮像素子はCMOSを使いASA感度1000、16GBのメモリーを搭載し、キャノン、ニコン、パナビジョンなどのレンズが使用できるそうだ。
 "ICONIX"(米)は特殊な条件下でも使える超小型のHDカメラを出展した。カメラヘッドはわずか64グラムしかないが、1/3"型3板CCDを搭載し、映像フォーマットはフルHD(1920/1080)、720、480、2K(2048/1080)、フレーム数は60i/p、24pに対応し、14bitA/D、感度F8と高画質・性能を持っている。通常カメラが入り込めないような場所での撮影や医療分野、映画製作など様々な用途がありそうだ。
                        
 映像品質を評価、管理する映像モニターは、従来使われてきたCRTの代替モデルが望まれており、今回のNABでも各社から様々なタイプの映像モニター・ディスプレイが出展されていた。
 ソニーは、従来からの液晶型"LUMA"シリーズに加え、今回は新機種の42"(1920×1080)、24"(1920×1200)、20"(1680×1050)、17"(1280×768)を出した。取材、編集、スタジオなど用途、スペースに応じて選択できる。また正確な色再現と忠実な描画性能を持つ42"液晶マスターモニター"TRIMASTER"が参考展示されていた。4K(3840×2160)とフルHD(1920×1080)に対応し、10ビット駆動、120Hz倍速黒挿入方式で高純度LEDバックライトと高精度信号処理エンジンを搭載している。さらに新開発の11"有機ELカメラビューファインダーも展示したが、自発光式のためバックライトが不要で高コントラスト、優れた階調・色再現性で、動画ボケも無く、薄型軽量で今後大いに期待できそうだ。  
                            
 パナソニックはブース側面にPDP大型の103"PDPをレイアウトし、ブース内に新開発のIPS液晶パネルを搭載した17"液晶モニター(1280×768)を他社製品と並べ、やや刺激的な展示をしていた。画像処理エンジンに3次元LUT(Look up Table)を使い10ビット処理しCRTに近い色再現性を実現、120Hz倍速駆動、黒挿入により残像の少ない動画を表示し、上下左右176度の広視野角を得ている。 遅延時間1フィールド以下でHDインタレース信号をプログレッシブ信号に変換し、斜め線補正処理で自然な映像を表示できるそうだ。
 JVCはInter BEEにも出したマルチフォーマット対応の24"(1920×1080)、20"(1680×945)、17"(1440×810)、9"(800×450)液晶モニターを出展した。高性能液晶パネルを使いフレーム遅延を小さく、高輝度、高コントラスト、広視野角、独自プロセッサにより高忠実な色再現を得ている。見せ方がユニークで、ブース背面に多数台を横長に並べ、画面近くからじっくり評価できるようにしていた。表示された映像も多種多彩でコンテンツを楽しみつつ画質を評価する見学者でいっぱいだった。
 アストロデザインは4K液晶ディスプレイを出展した。超高解像度(3840×2160)パネルを使い、画面サイズ56"、高速応答、高輝度・コントラスト、広視野角で4Kデジタルシネマ規格に対応し、HDTVをアップコンバートして表示することもできる。さらに24"フルHD液晶モニターと取材現場でも使える5"ワイド液晶モニターを展示していたが、2K、1080/50i、720/50P、24pに対応し、映像だけでなく波形信号、音声レベルも表示でき使い良さそうだ。          

 バルコ(ベルギー)は主力製品のDLP大画面ディスプレイに加え、今回初めて高精細液晶の薄型モニターを出展した。フルHDTV (1920×1080)の42"、47"と超高精細度の56"Quad HD(3840×2160)を並べ、高解像度を活かし、マルチ画面映像を見せていた。 

 昨年、Inter BEEに出展され評判になったエフ・イー・テクノロジーのFEDモニターがNABに登場した。ブースは地の利の良くないサウスホールの西端にあったが、評判を聞きつけたか見学者が多かったようだ。
 FED(Field Emission Display)は画素毎に電子放出源を持ち、蛍光体を励起し発光させる低消費電力の薄型ディスプレイで、階調再現性が良くピーク輝度も高く、短残光性のため動画ぼけが無く、高フレームレートにも対応できる特徴を持ち、CRT後のマスターモニターとして期待されている。暗室内で10ビット駆動のFEDとCRTモニターの画質を比較させ、ブース側面では高フレームレートによる動画再現性も見せていた。

写真1:パナソニックの"Varicam HD"
写真2:日立国際電気のドッカブル型高画質カメラ
写真3:ソニーの42”高精細液晶モニター
写真4:バルコが初めて公開した超高精細LCDモニター
写真5:NAB初登場のエフ・イー・テクノロジーのFEDモニター


 映像技術ジャーナリスト 石田武久

#interbee2019

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