【倉地紀子のデジタル映像最前線レポート】(7)『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』1/2(20世紀フォックス映画 配給、9月11日(金)よりTOHO シネマズ日劇他全国ROADSHOW)

2009.9.2 UP

映画『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』より
VFXスーパーバイザー、パット・マクラング氏

VFXスーパーバイザー、パット・マクラング氏

ローガンのトレードマーク、刃物のように飛び出す鋭い爪

ローガンのトレードマーク、刃物のように飛び出す鋭い爪

ガンビットは、本作で実質的に威力を発揮する唯一のミュータント

ガンビットは、本作で実質的に威力を発揮する唯一のミュータント

ミュータントの「特殊性」を表現する数少ないシーンの一つ

ミュータントの「特殊性」を表現する数少ないシーンの一つ

 映画『X-MEN:ファイナル・ディシジョン』(06年)から3年。新生X-MENシリーズの幕開けとなった映画『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(09年)は、2009年5月の米国公開で空前のヒットを記録した。
 ミュータントという特殊能力をもった新人類がヒーローだったこれまでのX-MENシリーズ作品とは違い、本作ではローガン(=ウルヴァリン)という、生身の人間がヒーローだ。男としての、さらには人間としての苦悩・悲しみ・決断を赤裸々に謳いあげることが、映画の主軸となっている。当然のことながら、この方向性は映像制作にも大きく反映されている。今回はこの作品のVFXの特徴を、VFXスーパーバイザー、パット・マクラング(Pat McClung)氏とのインタビューをとして紹介していく。(倉地紀子)

X-Men Character Likenesses TM & © 2009 Marvel Characters, Inc.
All rights reserved.
TM and © 2009 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.


<<生身の人間の生き様を描くドラマ>>

 これまでのX-MENシリーズでは、ミュータントの特殊で強力なパワーを具体的に映像化することに重点が置かれており、それを視覚化するために、高度なCG技術を駆使したVFXを多用している。『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』でもVFXをたくさん用いているが、これまでとは幾分色合いが異なっている。

 今回は一人の人間の生き様を描いており、ミュータント独特の特殊能力の表現は控えめになっている。これまで以上に、リアルな世界観が必要とされたのだ。

 監督を担当したキャヴィン・フッド(Gavin Hood)氏自身、これまでVFXを駆使した映画作品に携わってきたわけではない。今回ほどVFXを多用する作品は初めてだったともいえる。監督はVFXプロデューサーやVFXスーパーバイザーなど、専門家の意見を積極的に取り入れ、そこから最適なものを採択するという方法を採ったという。

 実写とVFXを複雑に絡み合わせ、説得力のある斬新なリアリズムをつくりだすことができたのは、このような監督みずからの謙虚で真摯な姿勢によるものともいえる。

 しかし、監督は『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』をこれまでのX-MEN作品とはまったく違ったタイプのヒューマンドラマとして描くことを望んでいた。これに対して映画制作会社は、これまでの世界観を継承することを強く望んでいたという。これによって、VFXの担当者たちにとっては大きな問題を抱かえることになった。


<<期待の新星 Hydraulx Visual Effects社>>

 相反する2つの要望の仲介役を強いられたのがVFX部門だった。監督が望む世界観を達成するためには、どうしても実写ベースの制作方法論を取らざるを得ない。しかし、映画制作会社を納得させるためには、なにかしらそこに「超現実的」な要素を盛り込む必要がある。

 この難題に取り組んだのは、サンタモニカに本拠を構えるHydraulx Visual Effects社だった。2001年以降、本格的な活動を開始した比較的新しいVFXスタジオで、CM・ミュージックビデオ・映画と幅広いジャンルで活躍している点では、デジタルドメインやリズム&ヒューズと同様だ。
 映画の業界では、これまで、どちらかというと大作のセカンダリーVFXベンダーという位置付けが多かったが、今回は満を侍して、ファーストVFXベンダーを担当した。


<<実写からCGへ置き換えられた”ローガンの爪”>>

 前述したように、『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』では、基本的にはCGを用いずなるべく実写撮影を行う方向性をとっていたが、時として、それを覆すようなVFX(CG)の選択がなされることも多かった。

 その代表ともいえるのが、ローガンの両拳から刃物のように飛び出す鋭い爪だ。ヒーローであるローガンのトレードマークともなっているこの爪は当初、すべて実写で撮影していた。しかしこの爪は、ウルヴァリンへと変貌を遂げていくローガンの圧倒的な迫力を表現しなくてはならず、それに比べてこの実写映像は、どこかしら月並みで、物足りなさを感じさせた。そのため、爪はすべてCGに置き換えられたという。

 ローガンが攻撃に使用するデッドプールや、ローガンと敵対後に協力することになるガンビットなども、目から発する光線など特殊な身体機能をもっており、これらに対しても、当初は実写撮影を行っていたが、最終的には爪の場合と同様のワークフローを採用した。

 ローガンにしてもデッドプールにしてもガンビットにしても、存在感がありながらも、「こんな男はこの世にはいない」といった、特別なオーラを感じさせる必要があったのだ。そういったムードを作り出すしかけ、演出としてCGが活用されたともいえる。
 中世絵画のモチーフとして、数々の名作に登場する女神が、現実の世界の女性が持ち得ない神々しさを備えているのと同様、今回の映画で登場する「男」の描き方は、どことなくこれに似ており、そうした演出のツールとしてVFXが用いられているという点に、新しい方向性を感じる。

(つづく)

VFXスーパーバイザー、パット・マクラング氏

VFXスーパーバイザー、パット・マクラング氏

ローガンのトレードマーク、刃物のように飛び出す鋭い爪

ローガンのトレードマーク、刃物のように飛び出す鋭い爪

ガンビットは、本作で実質的に威力を発揮する唯一のミュータント

ガンビットは、本作で実質的に威力を発揮する唯一のミュータント

ミュータントの「特殊性」を表現する数少ないシーンの一つ

ミュータントの「特殊性」を表現する数少ないシーンの一つ

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