シーテック2008に見る最新技術動向(その2)

2008.10.29 UP

 (その1)では主に薄型テレビの動向について紹介したが、本号では他のトピックスだった記録メディアやデジタルシネマ、3D映像などの動向について見てみたい。


ハイビジョン放送や映画作品など高品質のコンテンツが増え、大容量で高速な次世代DVDへのニーズは高まっている。周知のようにブルーレイ(BD)、HD-DVDと二つの規格が併存し、シーテックでも昨年まではふたつの陣営が別々のブースで覇を競っていた。BDに一本化されたことに伴い、これまで模様眺めだった市場も急速に動き出した感もある。現在、BDアソシエーションにはハードメーカ、映画、ゲームなどのコンテンツ、コンピュータ業界などから190社以上が参加している。今回、大型ディスプレイ12台を備えたキオスクを設置し、各社のBDプレイヤーで「ナルニア国物語」、「ゴッドファーザー」などの映画作品や様々なゲームソフトなどを見せていた。現在のBDの規格は、記録容量は片面25GB、2層で50GB、転送速度はノーマル36Mbps 、倍速で72Mbpsとなっており、各社のモデルの基本的仕様は概ね共通しているが、それぞれ独自技術を投入し一層の画質改善に加え、長時間録画、高速転送、作品検索性など機能性の向上などを誇っていた。


BDレコーダ・プレイヤーはソニー、パナソニック、シャープ、パイオニア、三菱電機、JVCなど各社のブースでも出展され、市場状況を反映しどの社も豊富なラインナップを用意していた。ほとんどのモデルが記録容量250、500 GB~1TBのHDDと2層化BDを搭載している。映像符号化にAVC H.264を採用する機種が多く、ビットレートが異なる地上波、BS、CSそれぞれをそのまま収録するモードやビットレートを下げて収録する長時間録画モードを備えている。ハイエンド機の収録時間は、低ビットレートのHDではHDDに約500時間、BDに約24時間、高画質のダイレクトモードではHDDに約125時間、BDに約6時間位になっている。HDDからBDへの転送については4倍速や6倍速を備え、ビットレートによっては40倍もの超高速モードも用意された機種もあり、ほとんどの機種がダビング10対応となっている。画質面については、多くがインタレースをプログレッシブ信号に変換しリアル感のある映像とし、ソフト制作や放送段階のデータ圧縮で失われるディテールを解析しくっきり表示するとか、質感を保ちつつノイズを低減するとか、ビットを増やし平坦部の階調や色合いをなめらかに再現する信号処理系を備えた機種も見られた。また、エコ時代の風潮に応え、各社とも低消費電力化、環境に優しい材料の使用がなされているようだ。


テレビに録画機能を持たせたHDD内蔵の薄型テレビも出展されていた。一体化されているためテレビのリモコンで簡便に収録や再生ができ、番組視聴のタイムシフトがやりやすくなる。近年、HDDは垂直磁気記録方式の採用により高密度化が進み、小型サイズ薄型で大容量になったことにより薄型テレビの背面に実装できるようになった。日立製作所は録画機能をテレビに持たせることによる消費電力軽減によるエコ効果も強調していた。2,5"サイズで記録容量は250GB(地上波HDで約32時間)のHDDが使われ、デジタル放送の電子番組表(EPG)で簡単に録画予約可能で、着脱可能なiVDRディスク(80~160GB)により容量不足を避けマイディスクやライブラリー化にも使える。東芝もHDD内蔵薄型テレビを出していたが、テレビ背面に装填するHDDは2,5"と1,8"サイズの2タイプあり、垂直磁気記録方式で記録容量はそれぞれ300GBと250GBだ。さらにLAN HDDやUSB HDDで増設もでき、EPGから簡単に録画予約したり、録画リストから見たい番組を簡単に探し視聴することもできる。パナソニックも1TB(地上波HDの記録時間約120時間)容量のHDDを内蔵し簡単に録画再生できる薄型テレビモデルを出していた。


 情報通信研究紀行(NICT)は、今回も多種多彩な研究成果を数多くのブースで公開していたが、映像関係のテーマの一端を紹介する。超高精細映像システムコーナーでは、4Kカメラ(JVC)で撮影したブース生映像を4K液晶モニター(アストロ)に表示し、その横には非圧縮ディスクレコーダ(計測技研)再生の映像を4K超高精細モニター(東芝)で見せていた。さらに4K超高精細CG画像によりカメラの視点が屋内を自由に移動しながら映し出すバーチャルセットも実演していた。また隣接コーナーにはフルハイビジョン画質で特殊な眼鏡を使わずに立体映像を楽しめる3Dシアターも開設されていた。3DディスプレイはJVCと共同で試作されたもので、1億画素以上の表示性能を持つプロジェクタアレイを内蔵し、70インチサイズのスクリーンに表示した。今後さらに研究を続け、画質向上、大画面化を図って行くそうだ。別ブースではホログラムによる立体像撮影・表示システムも展示されていた。さらに立体ハイビジョンのIP生伝送実証実験も公開されていた。松山市道後温泉に設置の立体ハイビジョンカメラで撮影された映像信号は、愛媛大学経由でNICTの"JGN2plus"回線で幕張メッセまで送られ、3D対応のXpol式(有沢製作所)46型フルHD液晶テレビ(HYUNDAI)に表示され、偏光眼鏡を通して「道後坊ちゃん列車」の生中継を楽しむことができた。またその横ではNHK MT(旧NTS)の立体映像も公開されたが、BDに収録された同社制作の3Dコンテンツが前述と同じタイプのディスプレイに表示されていた。


 3D映像については、会場内の幾つかのブースでも公開されていた。BDアソシエーションは今回の基調講演の中でも3Dコンテンツの普及のためにもBD活用を目指したいと語っている。パナソニックは「3DフルHDシアター」を公開したが、BDプレイヤーに収録されたLR用2CHのフルHD映像を2倍速表示の103型PDPに映し、それと同期して動作するアクティブシャッター眼鏡を通して見る仕組みである。日本BS放送は昨年のシーテックでも公開され12月から始まっている放送サービスを見せていたが、Xpol式立体テレビを使っていた。ちょっと変わった3D関連技術として、東北大学内田研究室が出展した立体映像表示用透過型スクリーンがある。透明スクリーンに特殊なフィルターを貼ることで偏光を保持でき、明るい環境でも立体像が表示できるため手術室とか水族館などでも利用できるそうだ。またJVCは2D高精細画像を特殊な信号処理により奥行き感のある3D映像として変換表示する技術を公開した。上述と同じ立体テレビに3D映像を表示していたが、エンターテインメントなど3Dコンテンツ不足解消に有効だそうだ。


 主催者のひとつであるJEITAはNHKと共同で「ガッテン!デジタル放送なっ得プラザ」を開設した。第一ホール入り口付近の広いスペースを使い、デジタル放送に関する様々な情報を分かりやすく、楽しみつつ提供し、相談コーナーも開設していた。正面ステージでは大画面映像や寸劇により、2年半後に迫ったデジタル化完全移行に向けての準備状況の説明やNHK放送の「デジタルQ」やPRスポットなどを上映していた。新しい放送サービスコーナーでは、12月からサービス開始が予定されているNHKオンデマンド放送のデモンストレーション、5:1サラウンドシアターでは65"の大画面薄型テレビを使い「北京オリンピック」や「N響コンサート」など大型映像とサラウンド音響の魅力を体感させてくれた。展示コーナーでは緊急地震速報や超高速度・高感度カメラの実演、今話題の「ダビング10」対応の録画機器、出先でも「見る、聞く、録る」ことが可能なワンセグサービスなどの実機が並べて展示されていた。さらにデジタル放送推進協会(Dpa)の「地デジ早わかりガイド」、日本ケーブルテレビ連盟による「受信方法や普及ロードマップ」、デジタルラジオ放送サービスの紹介、ISDB-Tのマルチメディアフォーラムの紹介などと多種多彩なプレゼンテーションが行なわれていた。

【映像技術ジャーナリスト 石田武久)】


◎写真1枚目
BDアソシエーション・キオスクの情景

◎写真2枚目
HDD内蔵の省エネ型テレビ(日立製作所)

◎写真3枚目
4K超高精細映像のデモンストレーション(NICT)

◎写真4枚目
フルHD・3Dシアター(パナソニック)

◎写真5枚目
「ガッテン!デジタル放送なっ得プラザ」(JEITA、NHK)

#interbee2019

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