【NAB SHOW 2011】デジタルシネマサミット報告 (2)映画は高解像度、高フレームレート、広色域へ!

2011.4.12 UP

ダグラス・トランブル氏

 デジタルシネマの最新状況が報告されるDCS(デジタルシネマサミット)は、2日目の4月10日もS222にて開催された。初日は3Dの話題が集中したが、この日は次世代技術(高解像化、高フレームレート(HFR)、広色域、多チャンネル音響、制作用ファイル形式)が語られた。


★4Kは「当たり前」に ハリウッドの「2Kマスターアーカイブ」に疑問の声も

 2日目は「Advances in Image and Sound」をテーマに開催された。朝一番は、ピクセル数についての報告で、撮影監督でASC(アメリカ撮影監督協会)会員であるCurtis Clark氏を司会に、元Sony Pictures Technologies のGeorge Joblove氏、Disney のVP(Digirtal Production担当)であるHoward Lukk氏、そしてASC会長のMichael Goi氏がスピーチを行った。Joblove氏はHSL色空間の開発者、Lukk氏はDCI仕様の策定者として知られている。

 Joblove氏は、視力と解像度の関係を説明し、2K解像度では3H(スクリーン高の3倍の距離)が適切な位置である理由を明確にした。また、現代の映画館は奥行きが3H程度に作られているものがほとんどであり、ここでピクセルなどを感じずに上映するためには4Kが適切であると説明した。
 Lukk氏は、解像度の科学的背景と計算写真学(コンピューテーショナル・フォトグラフィー)に関して説明した。Goi氏は2K映像をマスターアーカイブとする一部の映画スタジオの動きに疑問を呈し、「(2Kの映像は)数年でソフトに見えるようになるだろう」とした。


★ソニー F65に賞賛の声 「True 4K」

 このセッションで、ソニーが今回のNABで試作機を公開する「F65」について言及があり「ソニーのTrue 4K(真の4K)ムービーカメラ」との表現がなされた。
 司会のClark氏がF65で小作品を撮影しており「カラーグレーディング(タイミング出し)を行っていなくても夜シーンの表現力は素晴らしい」とのコメントがなされた。「元Dalsa社員」と名乗る参加者からのコメントは「Best Cam」であった。(F65は別項目で報告)


★アカデミーが策定中の制作用データ交換フレームワークIIFを解説

 デジタルシネマの上映用データ形式はDCPという形で業界標準が存在するが、撮影からポストプロダクション段階を担当する制作用データ交換形式はDCI仕様では規定されていない。制作用では、Cineonのデータ形式を元にしたものが用いられているが、10bit logを使った形式であり、表現範囲などに制約がある。

 映画芸術科学アカデミー(略称:アカデミー)の科学部会の共同部会長を務めるRay Feeney氏が、アカデミーが策定中の制作用データ交換フレームワークIIF(Image Interchange Framework)の解説を行った。
 「新しい撮影デバイス、新しいディスプレイデバイスに対応できるデータ交換形式が必要だ」という考えが背景にあるという。IIFによりデジタル・ソースマスター(Digital Source Master)を定義し、アーカイブ用マスター(Archival Master)決定へつなげたいという。色域に限って説明がなされたが、12bit化により色解像度の向上のみならず、16bit化による新色域の導入も計画されていることが明かされた。


★高画質を求めて〜ダグラス・トランブル氏が基調講演 ”ハイフレームレート”(HFR)は「新たなツール」

 2日目の基調講演は、VFXで知られるダグラス・トランブル(Douglas Trumbull)監督が行った。同監督は、「2001年宇宙の旅」に特撮担当者として参加し、「サイレント・ランニング」「ブレードランナー」「ブレインストーム」などの監督を務めたことで知られている。

 基調講演では、ハイフレームレート化への取り組みの歴史が示され、同監督が開発したショースキャンについての解説があった。1983年に開発されたショースキャンは、現在は65mmフィルムによる60fpsの撮影・上映方式として知られているが、実験では、36、 44、 60、 66、 72フレーム/秒が試されたことなどが明かされた。また、この方式の特許取得に当たって、各フレームレートでの生体反応を用いて効果を測定しており、これが特許の根拠となったとの背景を明かした。66fpsが最もよい反応だったとのことである。


★トランブル氏、新スタジオを立ち上げ!

 同監督は、HFRを強く支持しており「HFRは何も脅かさない。新たなツールである。データが大きくなるだけだ」と位置づけていた。PIXARアニメーション・スタジオと共同制作の計画があるといい、新たなスタジオを立ち上げたことを明らかにした。


★NHKのSHD(スーパーハイビジョン)はフレームレート300fpsも

 基調講演に続く午後のセッションでは、HFRについて語られた。撮影監督(ASC会員)のDave Stump氏は、映画のフレーム数が時代とごとに変わっており、24fpsとなったのはトーキー以降であることを資料から示した。また、ここでJames Cameron監督が「Avatar 2」以降を48-60fpsで撮影・上映することが明かされた。

 英BBCリサーチからはRichard Salmon氏が講演し、ボケ(ブラー)を回避するために、2Kでは100-150fps、それ以上では300fpsのフレームレートが必要であるとの見解を示した。NHK技研からは菅原正幸博士が、フリッカー回避のためにはスーパーハイビジョンは80fps以上のレートが必要になるとの試算結果を示した。


★サラウンドは7.1チャンネルへ

 音響の改善は、Dolby LaboratoriesのStuart Bowling氏が、7.1チャンネルサラウンドについて解説した。「Toy Story 3」が初の7.1チャンネル音響を使用した映画である。同社のサラウンド技術は、1977年の「Star Wars」にDolby Surroundが採用されたのを皮切りに、1992年の「Batman Returns」でDolby Digital 5.1、1999年の「Star Wars Episode 1: Phantom Menace」でDolby Digital EX(6.1チャンネル)と進化し、2010年の「Toy Story 3」でDolby Digital 7.1となった。Toy Story3台詞の定位で効果が大きかったという。

 Dilby Digital 7.1は、同EXを設置済みの映画館であれば、スピーカーへの配線を入れ替える程度の変更で対応できるため、アップグレードは容易であることも説明された。
F65で「The Arrival」を撮影したCurtis Clark氏


(写真キャプション)
HFR技術「Show Scan」を1983年に完成させたDouglas Trumbull監督

#interbee2019

  • Twetter
  • Facebook
  • Instagram
  • Youtube