『NAB SHOW 2008』に見る技術動向(その1):全体的印象とテープレス化

2008.5.8 UP

日本のInter BEEにとって先輩格で目標でもあり、全米放送機器展と言うより今や世界最大のデジタルメディアコンベンションとなったNAB。今年は"NAB SHOW 2008"と呼称を変え"Where content comes to life"をテーマに掲げ、4月12日から17日までネバダ州ラスベガスで開催された。海外からの来場者は例年を上回ったが、全体の来場者数は昨年より若干下回ったそうだ。米国内を吹き荒れているサブプライムローンによる不景気風の影響か、従来大規模な出展をしていたアビッドやアップルの不参加が影響したのか分からない。しかし米国の地上波アナログ放送停止まで1年を切り、日本のデジタル化完全移行まで3年余り、さらにHDオリンピックとも言われる北京オリンピックを間近に控えた状況下での開催に、少し減ったとは言え来場者数は10万5300人を数え、出展企業は1600社を超え、例年以上に話題に富んだ盛況な大会だった。     
 デビッド・レアNAB会長は目前に迫ったアナログ停波(2009年2月17日予定)に向け、NABとしてCATV業界と連携し全力で取り組むこと、またコンテンツ重視を強調し、放送・映像業界はデジタル化をチャンスと捉え前進しようと促した。さらに従来メディアと見られているラジオの活性化について強く訴えた。



幕張メッセよりかなり広大な展示会場を回って感じたのは、米国企業の出展が多いのは当然ながら、規模や場所の良さなどの点で日本企業のブースがかなり目立っていたことである。セントラルホール中心部には幅広長大でひときわ目立つパナソニックブースが陣取り、その近くにフジノン、日本ビクター、池上通信機、日立国際、フォトロン、東芝、リーダー電子、アストロデザインなど日本企業ブースが連なり、最先端技術力の高さと出展物の豊富さで来場者も多く、まるで日本連合みたいな迫力だった。ソニーはサウスホールエントランスに近い地の利の良い場所に、シアター、ディスプレイ、HDニュース制作、カメラコーナー、HDライブ制作コーナー、デジタルシネマコーナーなどを配し、会場全体を通して見ても屈指の規模と多彩なレイアウトで外国勢を圧倒する感があった。またキャノン、朋栄、NTTエレクトロニクス、KDDI研究所、K-Will、計測技研、昭特など多くの日本企業ブースはそれぞれ分離していたがいずれも健闘していた。


NHKグループはセントラルホール西端に、U-HDTV(スーパーハイビジョン)や各種HDTV機器、家庭用3Dテレビなどを配し、あまり地の利の良くない場所にも拘わらず、他ブースでは見られない最先端の次世代放送技術は大いに評判を呼び見学者が溢れていた。
 欧米企業で目だったブースはクオンテル、トムソン・グラスバレー、マイクロソフト、IBM、ハリス、バルコ等々がかなりの規模とプレゼンエーションの巧みさでかなりの人気だった。またひときわ人目を引き驚かされたのは、展示場内に中継車や取材用ヘリコプターを持ち込んでのプレゼンテーションだった。例年、大規模なブースで多彩なコンテンツ制作の実演を見せてくれていたアビッドが出展していなかったのはやや寂しい感があったが、NAB開催に合わせ場外のホテルでユーザー向けの説明会をやっていた。

機器展示にあわせて、多彩なシンポジュームやセッション、メディア向けプレスコンファレンスもコンベンションセンター内や場外のホテルなどで開催されていた。その中でも規模の大きさと派手なプレゼンテーションで際立っていたのは、やはりソニーとパナソニックで多数のメディア関係者が参加していた。両社とも現地法人の責任者が大画面ディスプレイを巧みに使い、自社出展のPRや経営戦略を語ると共にそれぞれのユーザーを登壇させ自陣のアライアンスの拡大、強化を誇っていた。ソニーはHD関連機器の導入実績を、パナソニックは世界に広がるP2 HDをメインにPRに努めていた。

今回のNABで目についた技術的動向としては、ほぼ定着したHDTV化、本格的普及が進むテープレス化、高画質化する薄型映像モニタ、H.264に代表される符号化技術やIPTV関連技術、進展する4Kデジタルシネマ関連技術、U-HDTVや3Dなどの次世代映像システムの登場などと多彩である。

昨今、NABの目玉になっているテープレス化については、従来から先行していたノンリニア編集・制作系に加え、今回は取材・撮影カメラやレコーダ、送出系やアーカイブスまでへの拡張を想定し、各社から多種多様な機器、システムの出展がなされていた。
ソニーはプロフェッショナルディスク(BD)を搭載するXDCAMにMPEG-2 Long GOP圧縮でフルHD、50Mbps記録を実現した上位モデルカムコーダHD422シリーズ、それとネットワークで制作・送出系までリンクするトータルワークフロー"SONAPS"を出展した。さらに昨年初登場したSXSメモリーカード(半導体メモリー)を実装した小型・軽量のXDCAM EXカムコーダが展示され大きな評判になっていた。
パナソニックは既に実績を上げつつある"P2 HD"シリーズ(半導体メモリー)の豊富なラインナップを並べて見せてくれた。圧縮符号化に高画質・高効率のAVC-H.264イントラを使い、64GBのP2カードを使うと50Mbpsで約2時間記録できるようになり、運用性がさらに向上する。今回、ブース内にクオンテル、オートデスク、オムネオンなど多くのパートナーコーナーを設置し、P2 HDの拡がり、実績をPRしていた。
 池上通信機、東芝は昨年デビューさせた"HD GF"シリーズ(フラッシュメモリー)を両社のブースで本格的に展示していた。コンパクトなGFカムコーダ、GFレコーダ、編集機などをシームレスでリンクするワークフローを公開し大きな関心を呼んでいた。
 トムソン・グラスバレーは、昨年に続きハイブリッド記録メディア(リムーバブルディスクと半導体メモリー)型で、MPEG-2、DV25Mbps、JPEG2000を選択可能な"Infinity DMC"カムコーダを出展していた。それとリンクするテープレスの制作系についてかなりのスペースをさきプレゼンテーションをしていた。
                                  
Inter BEE事務局もセントラルホールの一郭にブースを開き、これまでの実績と"Inter BEE 2008"のPRに努めた。ところで"Inter BEE Online Magazine"ページ(4月21日付、為ヶ谷秀一氏記)に、映像新聞の信井文夫会長が「放送業界のリーダー達」の一人としてNABから特別表彰されたとある。同氏はご存知のように日本の放送・映像業界にメディアの立場で長年にわたって大きな貢献をしてきた。今回の授賞は日本エレクトロニクス業界のNABへの積極的参加と共に、今後もInter BEEや我国の放送業界とNABとの一層の連携強化に向けて大変喜ばしいことである。         


写真1:会場でひときわ人気の高い日本企業ブース郡
写真2:ひときわ華やかなパナソニックのプレスコンファレンス
写真3:Inter BEE事務局ブース


映像技術ジャーナリスト 石田武久

#interbee2019

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