私が見たInter BEE 2010技術動向(その1、全体状況、イベント概要)
2010.11.29 UP
音響フォーラム情景
特別3Dセッション
民放技術報告会
アジアコンテンツフォーラム
米国のNAB、欧州のIBC、中国のBIRTVと並ぶ放送関連の4大コンベンションのひとつInter BEE 2010が11月17日から19日まで幕張メッセで開催された。やや回復基調にあるとは言えまだまだ厳しい経済状況下での開催だったが、出展社数は824社と過去最多となり、31567人(海外から962人)と昨年とほぼ同程度の来場者を迎え盛況に開催された。デジタル移行を8ヵ月後に控えカウントダウンも進んでおり、今回のInter BEEは、半世紀以上にわたってわが国のテレビ放送を支えてきたアナログ時代として最後の大会となったが、デジタルメディア・コンベンションとしてさらなる大きな飛躍を遂げようとしている。
初日朝のオープニング・セレモニーでは、主催者(JEITA)の開会宣言に続き、後援のNHK技師長と民放連会長(代読)から、間近に迫ったデジタル化完全移行に向け、サービスエリアの拡大、視聴者のデジタル化への切り替えは順調に進んでいるが、さらなる万全の準備を進めるとの決意が語られた。実際に展示会場を回ってみた印象では、各社のブースの規模はやや小ぶりになり、ゆったり見学できた感があった。全体の技術動向としては、デジタル化の一層の進展を受け、放送と通信の融合が一段と進み、取材から制作、送出までテープレスか化とファイルベース化が進み、それに伴うワークフローの態様の変化などが大きな流れになっていた。今回とりわけ目立ったのは、3D元年に象徴されるように、カメラ、コンテンツ制作系、測定器類、伝送系、ディスプレイとも3D、立体映像に関連するものが圧倒的に多かったことである。
出展物の技術動向については次号以降で順次見ていくことにし、本稿ではInter BEE恒例の各種併催行事やフォーラム、イベントについて概要を紹介してみたい。
例年、人気イベントになっている"Inter BEE Content Forum"は、1989年、国際化を象徴するイベント「国際シンポジウム」として始まり、2007年、世界的なコンテンツ重視の潮流を反映し「国際フォーラム」と改称され、今のコンテンツ・フォーラムへと発展している。今回も昨年に続き、初日に「映像シンポジウム」、二日目に「音響シンポジウム」、そして最終日には初の試みとして有料の特別セッションが催された。国内外からの専門家、有識者を招聘し国際会議場の最も広いホールで開かれたが、コンテンツ上映を交えた各講師の講演や聴講者も交えたパネル討論などと多彩で、いずれも満席の大盛況だった。
映像シンポジウムのテーマは、最近のメディア状況を反映した「映像コンテンツのクロスメディア展開」で、現在国内外で進むVFX、CGなどを駆使して制作される高品質コンテンツに関して、最先端の制作技法やワークフローについて作品を見せつつ、国内外の講師陣の話があった。さらにはデジタル時代には欠かせないクロスメディアの展開に関し、状況や課題等についての議論も重ねられた。
音響シンポジウムは「ラウドネス音声基準規格」をテーマに、デジタル時代における音声・音響問題に関して、近年進んでいる心理音響要素を考慮した「ラウドネスモニタリング」の規格化状況、制作基準、視聴者側の問題点などについて、国外からの講師も含め講演と議論が活発になされた。企業、放送局、視聴者にとってもトレンディで関心の高いテーマだけに、会場は椅子を追加する状況だった。またシンポジウム終了後には、各社のラウドネスメーターの実演展示も行われた。
最終日に開催された有料による特別セッションは、今、映像メディアにとって最大のトピックスになっている3D関連のテーマで、「3Dコンテンツ”人間の生体への安全性確保”に向けて」だった。アバター効果の影響や3D元年に象徴されるように、急速に3Dコンテンツ制作が進んでいる。3D映像は新たな映像表現として魅力がある一方で、視覚、心理的に生体へ影響を与える危険性もある。3Dを一時的ブームに終わらせることないためにも、生体系への悪影響を極力減らし、真に3D映像の魅力をフルに発揮させ、映像メディアとして定着させるための研究や標準化の検討も進んでおり、このセッションではNHKや業界専門家によりベーシックな解説と最新技術動向についての報告がなされた。今、3Dはコンテンツ業界、機器メーカ、放送業界などでも大きなテーマになっているだけに、有料講座ながら場内は満席状態で、各講師の講演、来場者からの質疑も含め、予定した3時間を大幅に超える盛況さだった。今後の3Dメディアの展開にとって大変有益なイベントだった。
「チュートリアル・セッション」は、機器メーカや制作プロダクションの第一線で活躍する中堅講師陣が、次世代を担う若手技術者や学生向けに実践的技術を分かりやすく伝授する企画で、2008年に始まり今年3年目を迎えた。今回のテーマは、音響セッションが「マイクロフォンの原理と応用」、「PAにおける最新デジタル技術の応用とテクニック」で、映像セッションが「MXFフォーマットの基礎と応用」、「トランスコード技術の基礎と応用」だったが、デジタル時代に相応しいトレンディなテーマについて分かりやすく講義してくれ、有料講座ながらもこちらも満席の盛況だった。
47回目を迎えた「民放技術報告会」は3日間にわたり、回線・伝送部門、送出・送信部門、制作技術部門、画像技術部門、情報・ネットワーク部門、データ放送・デジタルサービス部門、ラジオ・音声部門のセッションに別れ、キー局、地方局から50件の発表があった。2日目には特別企画として、放送業界においても大きなテーマになっている「3Dを考える~地上テレビ放送完全デジタル化後の新しい技術を求めて~」をテーマに、キー局からは3D放送への取組や番組制作状況、今後の展望などについて、制作会社からは3D映像制作のワークフローやVFX合成について、メーカからは3D制作機器・技術開発などについて、3Dコンテンツ上映を交えながら、講演、プレゼンテーションが行われた。NHKの関連グループでも3D番組制作や技術開発が進められているが、これまで消長を重ねてきた3Dがメディアとして定着するかどうか、今後、放送業界の取り組み、それよりも何よりも視聴者の3D放送へのニーズが、今後の3Dメディアの展開に大きく影響すると考える。
2008年から始まった"Asia Contents Forum"は、ハード中心の展示会場の中でコンテンツが見られると言うことで人気スポットになっていた。中国、台湾、韓国、インドなど8ヶ国の優秀コンテンツが大画面で上映され、才能あふれるクリエイター達の講演やパネルディスカッションが行われた。さらに「起動戦士ガンダム・ダブルオー」の水島監督や韓国が誇る映画監督の郭氏らの招待講演も行われた。日頃、接する機会が少ないアジアのコンテンツを眼にすることができる貴重な機会だった。
映像技術ジャーナリスト 石田武久
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