【倉地紀子のデジタル映像最前線レポート】映画『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』VFX スーパーバイザー ILM スコット・ファーラー氏に聞く(2)「人間のリアルな表現への新たな試み」

2011.8.22 UP

VFXスーパーバイザーを務めたILMスコット・ファーラー氏
ショーン・コネリーなど俳優の演技を参考にしている

ショーン・コネリーなど俳優の演技を参考にしている

ロボットにも威厳のある演技が求められた

ロボットにも威厳のある演技が求められた

 日本でも記録的な人気となった『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』。マイケル・ベイ監督(Michael Bay)との信頼関係を前2作で築いたILMが、VFX技術の粋を集め、圧倒的なスピード感とスケール感の映像を作り上げた。前回に続き、VFX スーパーバイザーを務めたILMのスコット・ファーラー氏(Scott Farrar)のインタビューがもとになっている。前回は、シーンの環境にあたるVFXの作成に着目してきたが、今回は、「トランスフォーマー」シリーズのVFXの醍醐味ともいえ、数多くのファンを魅了したロボットの作成を紹介する。(倉地紀子)

2-1. ロボットのリアリズム
 最終章にあたる『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』には、これまでにも増してさまざまなタイプのロボットが登場するが、ILMが最も苦心したのは、本作品に初登場する「センチネルプライム」という名前のロボットのアニメーションの作成であったとファーラー氏は語る。
 「センチネルプライム」はおなじみ「オプティマスプライム」の師匠であり父親的な存在だ。そしてこのことはストーリー上でも重要な意味をもってくる。したがって、オートボット軍の中でセンチネルプライムは、オプティマスプライムよりもワンランク上の存在であることが一瞥してよくわかるような威厳のあるパフォーマンスをつくりだす必要があったのだ。

■「ショーン・コネリー」の演技から威厳のある動きを研究
 こればかりは全面的にアニメーターの腕にかかっている。アニメーション・チームはショーン・コネリーやレオナード・ニモイといった俳優の過去の作品における、いかにも“指揮官”らしい演技をじっくり研究し、センチネルプライムのパフォーマンスを作成したという。また、映画の中にはオプティマスプライムとセンチネルプライムが戦うシーンも登場し、この戦いでは“振り付け”そのものが難題となった。
 そこで、マイケル・ベイ作品の常連でもある本作品のスタント・コーディネーターに依頼して、彼のチームのスタントに実際にこの戦いを演じてもらい、その演技をビデオカメラで撮影したのだそうだ。このビデオ・フッテージに映っている動きをCGアニメーションに変換し、さらにシーンにうまくマッチするように手を加えたものが、最終的なオプティマスとセンチネルの戦闘シーンのアニメーションになったという。

■実物のフェラーリをCG化
 ロボットのアニメーションが極めて難しかったもう一つのシーンとして、ファーラー氏はドレッド・ロボット(Dread Robot)という敵軍ロボットとオートボット軍のロボットとの戦いを挙げている。
 ドレッド・ロボットはやはり本作品に初登場するロボットで、その動きの作成には短距離走者やサーファーなどの動きを録画した映像が参照されたという。戦いはフェラーリなどの車が高速に行き交う道路でおこなわれ、さらにこれらの車のいくつかは後のシーンでトランスフォームするため、最終的には実物のフェラーリ(Ferrari f450 Italia)のメカニズムをよく研究したうえで、車もすべてCGに置き換えられたそうだ。


2-2. デジタル・ヒューマン(デジタル・ダブル)の新たな挑戦
 『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』には、ロボット以外の重要なキャラクター・エフェクトも数多く登場する。その代表例としてデジタル・ダブル(俳優をCGで置き換えたもの)が挙げられる。ILMにとってデジタル・ダブルの作成そのものは決して珍しいものではなかったが、今回は敢えてこれまでにない大きな技術的チャレンジがこの局面においておこなわれた。

■過激なスタントシーンをCGで作成
 この技術的チャレンジが適用されたのは、主人公のサムがスタースクリームという敵軍ロボットの“目”につながっているケーブルにしがみついて空中を振り回されるシーンで、前述した破壊シーン同様に、このシーンも映画後半のヒーロー・シーケンスの一つといえる。
 当初からケーブルとロボットはCGで作成されることが決まっていたものの、サムに関しては俳優の演技を撮影したものを合成するかもしくはCGバージョンのサムを作成するかという2案が出ていた。監督はこのシーンで、非常にダイナミックなサムの動きを求めており、そのような動きを俳優に演じさせるのは実質的に不可能だと判断され、最終的にはCGバージョンのサムが作成されることになった。

■顔のキャプチャーに30個のHDカメラを使用
 CGサムの身体の動きに関しては、そもそも俳優が演じることが不可能なほど極端な動きということで、アニメーターが手付けで作成したという。これに対して、サムの顔の表情に関しては、このような危機的状況における真に迫った表情をできるかぎりリアルに表現するために、実際に俳優が演じた顔の動きをキャプチャーしたものが用いられることになった。
 そして、新技術が導入されたのはこの顔の動きのキャプチャーの工程だった。ここでは、俳優を取り囲む天周上の30箇所の位置に小型のHDカメラを設置した撮影装置が用いられた。これらのHDカメラで撮影をおこなうことによって、俳優の顔を上下・左右・前後といったあらゆる方向から捉えた写真が高解像度で撮影される。

■写真測量技術を用いて皺までも復元
 同時に撮影されたこれら30枚の写真にフォトグラメトリ(photogrammetry=写真測量)の分野で考案された理論を適用すると、この時間における俳優の顔の3D形状を非常に正確に復元できる。それぞれの写真が非常に高解像度で撮影されているので、皺の形状まで復元できるほどだという。
 各時間において復元された顔の3D形状を時間軸に沿ってつなぎあわせれば、それは演技をした俳優の顔の形状の変化をそっくりそのまま復元したものとなる。近年ハリウッドでメジャーになってきているビデオ・モーションキャプチャーとよく似たコンセプトにも感じられるが、ビデオ・モーションキャプチャーで復元されるのはあくまで各時間における顔の表情点の3Dの位置のみで、そこで目指されているのは顔の動きの特徴をキャプチャーすることだった。
 これに対して上記のキャプチャー方法では、各時間において顔のメッシュのあらゆる頂点の座標が正確に復元され、その結果として顔の動きのディテールまで捉えられている点が大きな特徴だ。立体3Dの浸透によって、より正確な奥行き感をもったディテールの復元が必要とされるようになっていているだけに、今後の映画プロジェクトにおける大きな潜在性があるともいえる。
 今回は俳優に数種類の顔の演技をおこなわせ、上記のような手順でそれぞれの演技によってつくりだされた顔の動きがキャプチャーされたそうだ。最終的にはこのようにしてつくりだされた数種類の顔の動きの中から一種類が選択され、身体の動きをトラックしてその頭の部分にこの顔の動きが埋め込まれた。
 CGサムに関しては、それからさらに何週間もかけて、よりリアルな見え方をつくりだすためのさまざまな要素が加えられていった。顔や手の皮膚の質感、無精髯、汗や汚れ、目の動き、逆光に照らされた髪の毛など、数え上げればきりがなく、これらの作業を通して作成をおこなったスタッフ一同は実に多くのことを学んだという。

■人間の表現に関するあくなき追求
 SIGGRAPH2011においても、数ある論文やトークのセッションの半数近くは、何らかの意味で人間の表現に関わったものであった。こと人間の表現に関するかぎり、より高度なリアリズムのあくなき追求はとどまることを知らぬ勢いだといえる。「我々はいかなるプロジェクトにおいても、敢えてリスクをおかして、新たに挑戦すべき何か探し出す」とファーラー氏は語る。今回のCGサムの作成は、まさにファーラー氏の言葉が指し示しているものに相当し、同時にそれはCGを大胆に活用した映画VFXの王道を築いてきたILMならでは果敢な挑戦であったともいえるのだろう。

『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』
c 2011 PARAMOUNT PICTURES. All Rights Reserved. HASBRO,
TRANSFORMERS and all related characters are trademarks of Hasbro.
c 2011 Hasbro. All Rights Reserved
TOHOシネマズ日劇ほか全国超拡大公開中
配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン

ショーン・コネリーなど俳優の演技を参考にしている

ショーン・コネリーなど俳優の演技を参考にしている

ロボットにも威厳のある演技が求められた

ロボットにも威厳のある演技が求められた

#interbee2019

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