私が見た『NAB SHOW 2009』における技術動向(その3)制作システム・符号化・ネットワーク技術

2009.6.4 UP

 本号では取材系で進むテープレス化とリンクし、ファイル化が進み一層効率的で運用性が向上する制作システム、それを支える符号化技術の動向について見てみたい。

 ソニーは取材から編集、送出系までをトータル的にリンクする“Sonaps”(Network Production Systems for News & Sports:ネットワーク報道制作システム)を展示公開した。今回、従来モデルの機能を継承しつつ、素材サーバーに“NAS”(Network Attached Storage)ストレージを使いダウンサイジング化した。

 東芝は、長年にわたる半導体技術の実績をベースにしたフラッシュメモリー搭載のビデオサーバを出展した。変革が進む放送、映像制作環境へ対応すべく、フルHD、MXFファイルベースでの高速転送を実現した。今回展示のメインの“On Air MAX”シリーズは国内での実績を踏まえ、海外向け放送局でも多様な要望に応え、MPEG-2、Multi Codec、JPEG-2K、DV、DVCPRO HDなどにも対応できるそうだ。

 IBMは加速するファイルベース化など次代の放送局の基盤を支えるソリューションとして、番組素材を共有しワークフローを一新し、編集系の運用性、効率性を向上するサーバーシステムを公開したが、その中で上述の“On Air MAX”と自社アーキテクチャーを連携する放送用HD送出システムも展示した。 

 グラスバレーは昨年までトムソン・カノープスと共同出展していたが、今年はブースいっぱいに自社ブランド名を掲げ、50年にわたる社史と輝かしい受賞暦をパネル展示していた。背景に最近の企業統廃合の影響があるのだろうか。昨年までと同じように様々な新製品のプレゼンテーションをコーナーに分かれ実演していた。ニューモデルのHD/SDデジタルスイッチャー“Kayenne”はかなり印象が変わった。パネル上の操作ボタンは機能ごとに色分けされ、フルカラーのタッチパネルディスプレイを備え、見た目にも使いやすそうだ。高い実績を上げているデジタルニュースプロダクションシステム“AURORA HD”、4CHの素早いリプレイやスロー再生可能でスポーツやライブイベントに好適な“K2 Summit System”など、多くの見学者が見入っていた。さらにネットワーク型ノンリニア編集系“EDIUS”はバージョンを上げ、HD、SDTVを気にすることなくXDCAM EXやDVCPROなどに幅広く対応するようになった。

 例年、NABの人気スポットになっているアビッドは、昨年は出展しなかったが、ロゴマークを一新し再び戻ってきた。世界に広がるアビッドユーザーとの連携、協調を一層重視し、ニューバージョンの編集システムは、ソニーのXDCAM HD対応可能とし制作効率向上とコスト削減に貢献し、また映画製作分野で大きな流れになっているREDユーザーとの連携も強め、REDファイルをネイティブにMXFファイルに変換可能とし、カラーグレーディングやフィニッシング編集など制作作業が一層効率的にできるようになるそうだ。

 例年、大画面を使い華麗なプレゼンテーションを繰り広げるオートデスクは、今回もプロダクションやユーザーが制作した映画作品などのコンテンツを上映しながらパネル討論風のプレゼンテーションをやっていた。新バージョンのビジュアルイフェクトの“inferno”、“Flame”、“Flare”、“Flint”、フィニシングエディティング系“Smoke”、カラーグレーディング“Lustre”などを使い制作した作品や制作状況などを見せていた。

 多彩な制作システムのプレゼンテーションで評判の朋栄ブースは今回も人気スポットだった。フラッグシップモデルのスイッチャーは、2M/Eから4M/Eまでカバーし、SD、HDの混在入力で3G-SDI対応となり、各M/Eの独立制御、マルチビューア、3D-DVE、動画ファイルサポート、周辺機器制御などの機能を統合した。初出展のポータブルスイッチャーは、全入力にフレームシンクロナイザー、リサイズエンジンを装備した。正面ステージでは今回もバーチャルスタジオのデモが行われ大勢の見学者を集めていた。カメラセンサーを使わず、“Brainstorm eStudio”上に設定したバーチャルカメラを動かすことで合成する。ブルーマットを背にひょっとこ、おかめが演技し金屏風の前で踊るように合成され、キャスターがバーチャルセットの中でコメントを読むなど、通常のカメラワークでは実現できない映像効果を見せていた。

 同種のバーチャルスタジオシステムはアルチマット社(“Brainstorm”使用)のブースや“New Tek”社(こちらはグリーンマットを使用、ソフト不詳)でも公開されていた。また“Motion Analysis”社のブースでは光学式によるモーションキャプチャーが公開され、ダンサーの動きにあわせリアルタイムにCGキャラクターが踊るさまをデモしていた。

 取材系、制作系のテープレス化ともにネットワークにより制作環境がリンクされ、コンテンツ制作ワークフローも変わり、放送と通信の連携も進んでいる。それらのベースとなる技術が符号化、ファイル化で、今回のNABでもこの分野に関する出展が注目されていた。

 NTTグループ(NTT、NTT EL、NTT AT)は、高品質の放送素材伝送、編集、配信のための各種符号化、ネットワーク技術など多種多彩なシステムを出展した。衛星放送受信機IRD は、H.264とMPEG-2、HD/SDのマルチフォーマットに対応し、高画質の解像度変換機能を持ち、また高性能な衛星素材伝送用DVB-S2などに対応している。ハイ4:2:2対応の超高画質H.264 HD/SDリアルタイムエンコーダ/デコーダはMPEG-2にも対応し、MPEG-2からH.264フォーマットへのシステム移行がスムースに行える。HD-IP VideoサーバーはHDカメラやVTRと編集系をIPネットワーク経由で、圧縮HD/SDから非圧縮4Kまでの映像を収録、送出することができる。非圧縮HDで最大16本、圧縮なら最大200本までを実時間で同時に処理できるそうだ。非圧縮HD-IP ゲートウエイは、HD映像を非圧縮のままリアルタイムにIPパケット化する伝送装置で、HD-SDI信号とIP化された映像信号との遅延差は1ms以下と高速で、実際にHDカメラ、ノンリニア編集系、ビデオサーバを接続し、オールIPでの収録、編集、送出まで一連の制作作業のデモをしていた。

 KDDI研究所はコンテンツの制作や配信に関連する技術展示が目立った。画質評価システムは、人間の知覚に近い画質評価が自動的にできるソフトウエアで、品質管理が容易になりコンテンツ提供に有効だ。“Anti-Piracy Software”は、プロにより制作されたコンテンツかアマチュアが撮影したものか自動的に判別する技術で、プロとアマチュアでは機材や技術、工程が違うため、高い精度で両者が区別できるそうだ。違法コンテンツを自動判別するのに使え、著作権を保護するのに有効だそうだ。携帯型ビデオ伝送システム“Vista Finder”は、圧縮エンジンにH.264アルゴリズムを採用し、撮影した映像をPCに取り込み、BGANアンテナからインマルサット経由でどこからでも発信でき、手軽で迅速な報道取材が可能になる。

 富士通はDVB-ASI やインターネット網で高品質映像をリアルタイムに伝送するシステムを出展したが、H.264を採用しHD/SD対応で、スポーツや報道などのライブ中継や放送素材伝送用に使える。CSC(Color Scalable Coding) 機能を強化し4:2:2、4:2:0どちらへも対応可能となった。高効率符号化採用とあわせ既設設備との併用もでき、通信経費削減に役立つそうだ。またH.264を使い、より低ビットで報道用やお天気カメラなどのライブ中継や企業内配信にも使える小型、コンパクトで低コストモデルも展示していた。


映像技術ジャーナリスト 石田武久


写真1:フラッシュメモリービデオサーバー“On Air MAX”(東芝)
写真2:50年の輝かしい歴史を誇るグラスバレー
写真3:新ロゴマークで1年ぶりに復帰のアビッド
写真4:相変わらずの人気スポットのバーチャルスタジオ(朋栄)
写真5:高品質映像をリアルタイムに伝送するシステム(富士通) 

#interbee2019

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