IBC 2008現地取材レポート 第1弾

2008.10.17 UP

DVB-T2で欧州でもいよいよHD放送がスタートか
 ~1,400社が出展、過去最高の130カ国から49,250人が参加~


■DVB-T2でいよいよ欧州のHDが始動へ

 欧州最大の放送機器展『IBC 2008』が、9月12日から16日までの5日間、オランダ・アムステルダムのRAIコンベンションセンターで開催された。主催者側の発表によると、今年のIBCは、出展社、参加者ともに過去最大を記録、出展社は1,400社、参加者は昨年を5%上回る世界130 カ国から49,250人を記録した。
 欧州は、ドイツやスペインのように、リージョン(州)単位の放送局が非常に強い力を持っていて周辺のリージョンの放送局を傘下に納めている国もあれば、英国やフランスのように全国ネットワークの放送局が力を持っている国があるなど、各国の放送局を取り巻く環境が大きく異なる。そのため、米国のNABや日本のInter BEEのように、デジタル化やHD化についても、全ての放送局が同じ動きというわけにはいかない。HD化についても、何年も前から欧州でも本格的HD化がスタートすると言われながら、幾つかのトライはあったものの、計画が途中で頓挫したり、試験放送で終わったりしており、ビジネス的に継続している局が少ないのが現状である。
 また、欧州の地上波テレビ局は国営放送が多く、内容的にも政治討論番組等が多く、面白くないと言われている。エンターテイメント系の番組や、メジャーなスポーツ番組は衛星やケーブルによるペイテレビで行われているケースが多い。その結果、地上波に加えて、衛星、ケーブル等、マルチプラットフォーム化が進んでおり日本や米国等のテレビ事情と大きく異なっている。
 そのような中で、今年のIBCでは、地上波デジタル放送に大きな進展が見られた。これまで、どちらかと言うとSDの多チャンネル化の方向で進んでいた欧州のデジタルテレビ方式DVB-T方式をHD放送に適した規格に改良したDVB-T2方式が登場した。今回のIBCでは、DVB-T2方式が、コンソーシアム(プロジェクト)の展示に加えて、コーデックやトランスミッション、STB等、対応機器を展示するブースが多数見られた。欧州は、HD放送のコーデックには当初からH.264 の採用を表明しており、家庭用の受像機に対応したデコーダが登場するなど、タイミング的にも機が熟してきたということだろうか。日本メーカでは、富士通が家庭用テレビ内蔵用のH.264デコーダの展示を行っていた。
 DVB-T2方式の登場により、欧州のテレビ局がいよいよHD化に向かうことは間違いないが、しかし、日本や米国のように全ての局が足並みを揃えて一斉にHD化に向かうとは考えづらい。各メーカの話を聞いてもこれでやっと欧州のHD化がスタートして第一歩を進めた所という見方をしている。
 一方で、NHKのスーパーハイビジョンの国際中継や、オーディトリアムのビッグスクリーンシアターで行われたHD3D立体映像の国際中継には多くの参加者があった。IBCの発表では、NHKのスーパーハイビジョン中継には5日間で延べ5,000名、HD3D立体映像には1,000名が参加したと言う。NHKのロンドンからの国際中継は、スーパーハイビジョンカメラをロンドンブリッジを見下ろすビルの屋上に設置して行われたが、運のよい来場者はロンドンブリッジが開く瞬間をスーパーハイビジョンで見ることができた。


■カメラ関係はSDカメラの新製品も

 今年のIBCは、RAIコンベンションセンターの12ホール全てを使用、特にマルチプラットフォーム化に対応して、IPTVゾーン、モバイルゾーン、eゾーン等のプラットフォーム別に分類した展示が行われた。
 カメラ関係では、ソニー、トムソン、池上通信機、日立国際電気、ビクター等がHDカメラを中心に展示を行ったが、一方で池上通信機や日立国際電気はSDのカメラも出展していたのが欧州の現状を表しているようで面白い。
 ソニーからは、フル解像度のIT型CCDを搭載し機能を絞って低価格化を実現したHDCAMのカムコーダの新製品HDW-650が登場、まだまだテープシステムが健在であることをアピールした。池上通信機は、欧州からの強い要望に応えてスタジオカメラ用のビデオプロジェクター用の投射管を改造したモノクロビューファーを開発し出展した。最近の液晶の高画質化の動きを見るとカラーモニタの方がと考えるが、欧州ではモノクロビューファーに強いニーズがあるという。
 テープレスの取材システムについては、日本ビクター(JVC)のXDCA EXフォーマットの採用という大きなニュースがIBC開幕直前に流れた。ビクターのブースには、ビクターのHDVカメラレコーダGY-HD200に装着されたEXのドッカブルレコーダKA-MR100Gのモックアップと、ビクターブランドのS×Sカードが展示されていた。13日に行われたJVCのプレスコンファレンスで、これによりテープ、HDD、半導体メモリの3つのメディアに対応が可能となったと説明した。P2HDに関してはパナソニックのブース展示がなかったため、NABでP2HD採用を表明した日立国際電気のブースにおかれたSK-HD1000のドッカブルレコーダが唯一のメーカ出展となった(レンズメーカやバッテリー、三脚メーカのブースには置かれていたが)。
また、池上通信機のGFCAMも、昨年はモックアップの展示であったが、今年は商品化直前のモデルを持ち込み欧州で本格的にGFCAMの提案を行った。


■ノンリニアは3D立体映像対応へ

 ノンリニア編集システム関係では、今回はREDカメラ対応とステレオスコーピック対応が一つのキーワードとなった。今回のIBCでは、ハイエンドのノンリニアを展開するクォンテルとオートデスクがREDカメラ対応を表明した。一方、3D立体映像については、先行するクォンテルがスイートを設けて本格的な編集デモを行ったのに対して、オートデスクは本社周辺を撮影した素材を使用してのデモにとどまった。クォンテルの巨乳モデルとゴキブリの編集素材がインパクトがあった。
3D立体映像については、ビッグスクリーンシアターでアメリカからの国際中継を実験、さらに眼鏡無しディスプレイではフィリップスが各種アプリケーションを展示した。
 世界的に3D立体映像に対する取り組みが盛んとなっているが、米国が劇場に観客を呼び込む新たな手段として3D立体映像に取り組んでいるのに対して、日本や欧州は眼鏡無しディスプレイに取り組むなどイベントや家庭視聴をターゲットにしているように思われる。


■ファイルベース化についても盛んな動き

 IBCには、マルチプラットフォームを背景に多くのSTB(セットトップボックス)メーカも出展しており、これらのブースではDVB-T2対応機器が多く見られた。
 また、ファィルベース化も一つのキーワードとなっており、IP伝送システムについては、通信機器メーカ、放送機器メーカ各社が多種多様なシステムを提案していた。中には、ユニークなアプリケーションを提案するメーカも多く、今後の展開が注目された。また、スネル&ウイルコックス社のように、MXFを専門に扱う会社を設立する動きも見られた。また、日韓ワールドカップやドイツのワールドカップのHDのIP伝送網やフジテレビの局内IP回線システムを手掛けるメディアグローバルリンクスも、欧州でのワールドカップの実績を背景に、IP化を提案するブースを設けていた。
 このように、今年のIBCはNABやInter BEEとは一味違った展示が見られたのと同時に、4月のNABで参考出展されていた製品が、製品化されるなどの動きが見られた。

【放送ジャーナル社 染矢清和】


◎写真1枚目
DVB-T2デモ

◎写真2枚目
富士通の家庭用テレビデコーダ

◎写真3枚目
ソニーHDCAM新製品

◎写真4枚目
JVCのXDCAMEX01

◎写真5枚目
フィリップスの眼鏡無し3D

#interbee2019

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