【SIGGRAPH ASIA 2011】論文セッションハイライト(1)ディズニー・リサーチがリアルタイム フォトリアリスティック・レンダリングで論文発表

2011.12.8 UP

論文セッションのチェアを務めるKavita Bala氏
(写真1)

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(写真2)

(写真2)

(写真3)

(写真3)

 今年のSIGGRAPH ASIAは12月12日から15日までの4日間にわたって香港で開催される。香港という場所柄、今回はエンタテイメント的な面にもさまざまな工夫が凝らされているようだが、夏のSIGGRAPHと同等の世界最高水準のレベルを誇る論文セッションの充実ぶりには眼を見張るものがある。ここでは、SIGGRAPH ASIA2011論文セッションのチェア(Chair)を務めるコーネル大学のKavita Bala氏とのインタビューを通して、今回の論文セッションの見所を2回に分けて紹介する。(倉地紀子)


■SIGGRAPHとSIGRAPH ASIA、論文の水準は同じ
 SIGGRAPH ASIAが産声をあげた当時から、論文セッションの質の高さは予想を大きく上回っていた。夏のSIGGRAPHと比較してフェスティバルとしての規模は小さいものの、この論文セッションの存在だけでもその価値は十分あるのではないかという声も聞かれたほどだった。
 実際、SIGGRAPH ASIAの論文も、SIGGRAPHの論文と同様に、SIGGRAPHの査読委員会による大変厳しい論文査読の手続きがあり、論文が採択される基準はSIGGRAPHと何ら変わりがない。また、論文の提出も世界中の研究者から受け付けている。そのため、開催する場所こそアジア地域であり、その地域の特徴を生かした大会となっているが、論文の水準はSIGGRAPHとまったく同じである。
 SIGGRAPHの論文の権威は、コンピューター・グラフィックスの研究分野では最高のポジションに位置している。このSIGGRAPHの発表の場が年に2回与えられるということは、この分野の研究者たちにとってはまさに朗報であった。

■CG理論の潜在能力を提示する論文が多数
 一方、論文を選ぶ視点には、SIGGRAPH ASIAならではの傾向も見られた。SIGGRAPH論文の王道は、CGに関する研究テーマの学術的な追究である。近年になって“実用的”という局面が重視されるようになってからも、夏のSIGGRAPHにおいてはその本質は継承されてきた。これに対してSIGGRAPH ASIAで注目を浴びてきた論文には、斬新なアイデアを導入し、既存のCG理論を新たな方向へ発展させていくための潜在能力を提示したものが多かった。夏のSIGGRAPHとは一味違った旨みをもつこれらの論文の内容は、ある意味でより一般の人々になじみやすいという利点もあり、SIGGRAPHとSIGGRAPH ASIAの両者の論文セッションがうまく噛み合うことによって、コンピューター・グラフィックスの分野の研究開発の歩みがより活性化されることが期待されている。
 SIGGRAPH ASIA2011の論文セッションの特徴としてKavita Bala氏が強調するのは、
モデリング、ダイナミクス、アニメーション、レンダリング、画像処理といった各ジャンルのセッションがおしなべて夏のSIGGRAPHにひけをとらぬレベルであるという点だ。世界中から幅広いジャンルにわたり優れた論文が集まったことは、SIGGRAPHが持つ高い知名度と学会における研究者の層の厚さを裏付けるものでもあるが、 SIGGRAPH ASIAが始まって4年という短い期間でこれを達成したことは、やはり驚嘆に値するだろう。


■ディズニー・リサーチがリアルタイム フォトリアリスティック・レンダリングで論文
 今年のSIGGRAPH ASIAの論文では、映画のような高解像度映像からモバイルデバイス上の低解像度映像まで幅広い領域の映像をカバーしている。
 世界のさまざまな拠点に研究所を展開しているディズニー・リサーチは、これまで動きの研究が中心だったが、今回はリアルタイムなフォトリアリスティック・レンダリングの分野でも意義深い手法を発表している。
 ひさしぶりに”ノンフォトリアリスティック・レンダリング“に焦点を当てたセッション(“NPR”)も登場しており、日本からも流体の表現を扱った手法が発表される。CGを用いた流体の表現というと、映画のVFXなどに登場するフォトリアルな水・煙・炎といった表現が真っ先に頭に浮かぶが、この日本からの発表では、NPRならでは利点を生かして3Dの流体の動きをわかりやすくイラスト化するもので、主に医学の分野などでの活用が期待されている。

(写真1解説)
セッション「Light Transport」より
“Modular Radiance Transfer”(Disney Interactive Studios)
 直接光の効果の計算と比較して間接光の効果の計算は非常に負荷が重いが、シーンのリアリズムを高めるためには欠かせない存在となってきている。この手法では、直接光の効果を間接光の効果に変換する関数を複数の基底関数の線形結合に分解することによって、直接光の効果をもとにして間接光の効果をリアルタイムに算出することを可能にしている。(左から画像(a)、画像(b)−1、画像(b)−2、画像(c)−1、画像(c)−2
 あくまで近似的アプローチなので間接光の効果に依存する影のディテールなどは正確さに欠けるが(画像(b)−1がこの手法で算出された結果、画像(b)−2がシミュレーション的手法によって算出された正確な結果)、直接光の影響だけを考えて算出された画像(画像(a))と合成すると、ビジュアル的にはほぼ正確な結果が得られる(画像(c)−1は画像(b)−1と画像(a)を合成したもの、画像(c)−2は画像(b)−1と画像(a)を合成したもの)
 手法の原点はPeter-Pike Sloan(当時マイクロソフト・リサーチ所属)によって2002年に発表されたPRT(Pre-computed Radiance Transfer)にある。今回の論文の内容は、現在彼が率いるDisney Interactive Studiosのチームによって考案された新手法だ。
(c)20011 The Authors.
(c)20011 ACM, Inc.


(写真2解説)セッション「NPR」より
“Sketch-based Dynamic Illustration of Fluid Systems”(JST ERATO, The University of Tokyo)
 2.5次元のイラストで与えた指示をもとに、システム・エンジンが3Dの流体シミュレーションを実行し、その結果をほぼリアルタイムにイラストでフィードバックするシステムだ。シミュレーション実行時にユーザーがインタラクティブに指示をアップデートすることも可能。
 画像は心臓病(三尖弁閉鎖)の手術の各ステップを医師がイラストで指示し、その指示にあわせた実際の血液の流れの変化を計算し、イラストによってフィードバックされた様子を示している。医学の分野からより一般的なエンジニアリングまで幅広い分野での活用が期待されている。
(c)20011 ACM, Inc.


■質感のインタラクティブな調整をテーマにした「マテリアル・エディティング」セッション
 マテリアル・エディティング(“Material Editing”) という、これまでのSIGGRAPHの論文セッションではあまり耳にしたことのないセッションがある。質感をあらわすもと、ともいえる物体の材質を、インタラクティブにつくりだすことを可能にするツールが紹介される。
 テクスチャ・マッピングなどを用いてつくりだすことできる質感のリアリズムには限界がある。CGレンダリングでは、リフレクタンス関数と呼ぶ関数を用いて、材質ごとの質感の違いを計算によって導き出すことができ、テクスチャ・マッピングよりリアルな表現が可能だ。リフレクタンス関数では、光を反射するときの材質ごとの違いを反映するのだが、この関数の物理パラメーターをユーザーが思うようにコントロールすることは極めて難しい。
 今回のマテリアル・エディティングのセッションで発表されるツールの数々は、リフレクタンス関数に相当するものをユーザーがあたかもテクスチャをエディットするような感覚でコントロールすることを可能にしている。このようなコンセプトの技法は、過去のSIGGRAPHでも発表されてきた経緯はあるが、これだけ一堂に集められたケースは珍しい。
 さらに今回は、プログラマーやエンジニアではないユーザーをターゲットにした、実用性に重きがおかれているところが大きな特徴だ。映画やゲームなどのプロジェクトでは、アーティストをサポートするための技術者の存在が、リアルな映像をつくりだすための鍵となっていた。だが、今回発表されるようなツールによって、技術者の支えなくしてもより高いリアリズムをつくりだすことが可能になる。このメリットは、映像制作の分野だけでなく、さまざまな産業においてより高度なCG表現の導入を進めることになりそうだ。この方向性の研究に深い蓄積のあるマイクロソフト・リサーチ・アジアからは、複数のツールが発表される。

(写真3解説)セッション「Material Editing」より
“AppGen: Interactive Material Modeling from a Single Image”
(Tsinghua University, Microsoft Research Asia)
(c)20011 ACM, Inc.
 (a)は、色や柄だけを指定した平坦な入力テクスチャだ。(b)は(a)の画像に、筆状のストロークを用いて物体表面上の法線方向の変化やハイライトの位置などの情報を与えている様子。これにより、リフレクタンス関数が自動的に生成される。その結果、(c)のように、物体表面を照らすライトの方向や物体表面を捉える視点方向の違いを反映した立体的な画像をつくりだすことができる。なお、(c)では異なった2つの視点方向からレンダリングした結果を示している。これまで、インタラクティブに加工できるのは、(a)のような平面的なテクスチャを作る段階までだったが、このツールを用いることで、材質による光の反射の違いなど、物理的な効果を考慮した加工が可能になる。

(写真1)

(写真1)

(写真2)

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(写真3)

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#interbee2019

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