【NAB Show 2012】NABに見る映像技術・映像ビジネスの新潮流(2)クラウドベースのサービス登場

2012.6.4 UP

マイクロソフトは、クラウドサービスを前面に押し出した
マイクロソフトのプロダクション向けクラウド

マイクロソフトのプロダクション向けクラウド

インドでDシネマの配信実績を持つIBMのクラウド

インドでDシネマの配信実績を持つIBMのクラウド

独リールウェイのクラウドは、簡単な編集機能も提供する

独リールウェイのクラウドは、簡単な編集機能も提供する

■大手ベンダーから新規参入までが「クラウド」を提唱

 コンピュータ資源のあり方、使い方を一変させる方式として期待されているクラウドは、コンテンツ制作の世界にもやってきた。4月に開催されたNAB Showでは米マイクロソフト、米IBMといった超大手のベンダーから、新規参入のベンチャー企業まで、多彩なプレイヤーの姿が見られた。クラウドは、決して雲散霧消するような軽い存在では無く、制作ワークフローにおけるハードウェア資産の軽減(アセットライト)とコストダウンに寄与する中核技術になりそうだ。大手プロダクションにも、フリーランサにも、等しくメリットが期待できる。


■「処理の規模がスケーラブル」な点がクラウドの重要ポイント

 「クラウド」がIT技術関連のメディアで語られない日はない。ところが、これが何であるか、なかなか理解を得られていないことも確かだ。クラウドは、ネットワークの先に記憶装置を置いた「遠隔ハードディスクサービス」ではない。アマチュア向けのクラウドが、遠隔ハードディスクサービスと理解されることもあるが、これはクラウドのごく一面を捉えただけの話である。
 クラウドとは、ネットワークの先で何らかのサービスを提供することで成立する。「記憶」をサービスとしたクラウドもあれば、「オフィスでの生産性アプリ」をサービスとして提供するものもある。このようなアプリケーションレベルの機能を提供するもの以外にも、より低いレベルである「CPU機能の提供」というクラウドもある。この場合、利用者が自らプログラムを組んで、自分が必要な機能を提供できるように仕立てている。

 クラウドの実現において重要なのは、処理の規模がスケーラブル(規模の拡大縮小が自在)で、利用料金は従量制である、ということだ。もちろん、従量制ではないクラウドも存在するが、多くは従量制をうたっている。処理の規模も、ユーザからの指令で容易に拡大縮小が可能であるから、処理量の急激な変化にも対応できる。従来のシステムでは、最繁忙期に備えたハードウェア資源が必要だったが、クラウドでは必要な時に必要なだけ増設し、それが終わればすぐに不要分を解約できる。こうして、大きな設備を自分で抱える必要も無くなる。


■配信クラウドに進出するマイクロソフト

 マイクロソフトは、NABショウ期間中にメディア配信用クラウドサービス「ウィンドウズ・アジュール・メディアサービス」を発表した。同社のクラウドである「ウィンドウズ・アジュール」上に、メデイァ配信機能を持たせたものである。
 このサービスは、コンテンツの持ち主が、PC、スマートフォン、タブレット、ゲーム機などにAVコンテンツを配信する際に必要な機能を提供する。提供される機能の中には、エンコード処理、DRM処理、CDN機能などがある。利用者は、投入したコンテンツがどのエンコーダに掛かるか、どのような条件をDRMに与えるかなどを指定できる。最後に送出の条件(適応型ストリーミングか、定速ストリーミングか、など)を入力する。これらの一連の作業をテンプレートに記録しておくこともできる。

 このサービスの特徴の一つは、エンコードやDRMといった演算処理に加えて、配信機能自体を提供しているところにある。配信サーバの運営までもがクラウドサービスに取り込まれている。この配信サーバは、CDN(コンテンツ配信ネットワーク)と連携しており、世界各地からのアクセスを地域的に分散させたサーバで吸収できる。もちろん、小さなアクセスしか見込まない場合は、1箇所のサーバがストリーミングの処理を行う。利用料金は従量制となり、計算資源を用いただけの支払となる。
 マイクロソフトは、今回公開した機能を囲むUIを開発し、サービスを運営する事業者を募っている。今年後半に、これらのサービスプロバイダから、配信サービスが提供されるという。


■IBM 制作から配信までをサポートするサービス「DMX」を出展 インドで実績

 IBMは、インドで開発したDMX(デジタル・メディア・エクスチェンジ)を出展した。プロダクションによる制作から、完成コンテンツの配信にまで使用できる広範な機能を持つ。展示では、主として完成したコンテンツの配信が示され、デジタルシネマ、デジタルサイネージといったネットワーク化された出力先の他、テレビへの広告送出などにも使用できるとしていた。
 DMXは、同社のインド部門が開発し、インドの通信事業者バーティ・エアテルに納品したものである。バーティ・エアテル社のデジタル回線を最大限に利用し、ここを通じたコンテンツの往来を制御するサービスをクラウド化したものと解釈できる。通信サービスをもクラウド内に取り込んだのが特徴と言える。このクラウドはデジタルシネマのコンテンツと鍵の双方の配信にも使われているという。


■フリーランスも利用可能なリールウェイのクラウドサービス

 独リールウェイは、ストレージとしての使用に焦点を当てたクラウドサービスを出展した。作業中のクリップなどを収めることを想定している。
 創業者で社長のステファン・シュナイダー博士は「プロダクションが作業中のデータを収めるために巨大なサーバを持ち、これを24時間稼働させ、更に保守要員が常駐することを考えれば、ストレージとしてクラウドを使用するのは十分にペイする」としている。
 確かに、プロダクションにおいてはペタバイト級(テラバイトの1000倍)のストレージを持つことも珍しくない。ハードウェア価格は劇的に下落しているため、容量だけなら十分に現実的だが、連続運転を行うための電気代、定期的なバックアップに要する手間、制作作業に対応するための保守管理体制を考えると、プロダクションが自社内に巨大な記憶装置を持つべきかの吟味が必要であろう。
 シュナイダー博士は、ここにクラウドに軍配が上がると考えこの事業を開始した。同社の課金方法は、あらかじめ登録した事業区分によって定額課金されるため、コスト変動が抑えられる。

 リールウェイのクラウドは、プロダクションのためだけではない。フリーランス向けの価格メニューも用意されている。月額1万円程度の支払で、記憶装置を利用できる。クラウドには、簡単なカットエディタ機能もあり、ブラウザから簡易な編集を行う事もできる。空いた時間に粗編集をすることを想定している。
 同社のシステムは、米アマゾンのクラウドサービス「EC2/S3」上に構築されている。CPUや記憶機能を提供するアマゾンのクラウドに、自社開発のソフトウェアを入れて、コンテンツ制作者用クラウドが作られている。

★★★
 コンテンツ制作用のクラウドサービスは登場したばかりであり、まずは記憶や配信が扱われているようだ。今後、より複雑な作業を担当するクラウドが開発されるだろう。制作者にとっては、ハードウェアに起因する固定費を大幅削減できる。この点からもクラウド利用は急速に進むとみられる。(映像新聞社 論説委員 杉沼浩司)

6375 マイクロソフトのプロダクション向けクラウドは、トランスコード、配信などがメニューから簡単に選択できる
6347 IBMのクラウド「DMX」は、インドでDシネマの配信などに利用されている
6311 独リールウェイのクラウドは、簡単な編集機能も提供する
6377 マイクロソフトは、クラウドサービスを前面に押し出した展示を行った

マイクロソフトのプロダクション向けクラウド

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インドでDシネマの配信実績を持つIBMのクラウド

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独リールウェイのクラウドは、簡単な編集機能も提供する

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#interbee2019

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