【コラム】米CATV業界 ケーブルモデム新版で1Gbpsの高速化へ 4K、HEVCも話題に 増収増益ながらますます競争激化

2013.12.3 UP

SCTE ケーブルテック 展示会場
写真1 SCTE ケーブルテック 展示会場(上写真も)

写真1 SCTE ケーブルテック 展示会場(上写真も)

写真2 クラウドDVRシステム(シスコ社)

写真2 クラウドDVRシステム(シスコ社)

写真3  ヘッドレスゲートウェイ(アリス社)

写真3  ヘッドレスゲートウェイ(アリス社)

写真4 SCTE国際パネルで講演する筆者(右端)

写真4 SCTE国際パネルで講演する筆者(右端)

 日本CATV技術協会では例年、日本ケーブルテレビ連盟、日本ケーブルラボと協力し、映像新聞社の後援で「米国ケーブルテレビ調査団」を構成している。今回はオペレーター、メーカーなどから22人が、SCTE(Society of Cable Telecommunication Engineer)主催の「Cable Tec Expo 2013」(以下、SCTEエクスポ)への参加に加え、アトランタ、ワシントン、ロサンゼルスでの企業訪問を実施した。
(浅見洋・日本CATV技術協会副理事長)

■CATVの技術者、メーカーなどの団体SCTEが年次大会開催
 SCTEエクスポは10月21-24日の4日間、ジョージア州アトランタで開催された。
 SCTEは、CATV事業者、メーカーなどの技術者で構成する団体で、技術者資格制度等の人材育成や規格標準化といった活動をしている。SCTEエクスポは、毎年春に開催されるNCTA(全米ケーブル通信協会)主催のケーブルショーと並ぶ業界の2大イベントであり、事業者やメーカーの技術提案の発表と、メーカーの製品を事業者にアピールする展示会としての位置付けだ。
 今回は、約400社が出展、セッションには約80件の発表があり、参加者数は約1万人だった。

■米CATV業界 加入者数は漸減傾向だがネット需要で増収増益に
 米国のCATV加入者数は、2001年をピークに漸減傾向が続き、12年は5600万世帯と客離れに歯止めはかかっていない。一方、インターネット接続サービスは4800万世帯で順調に伸び、トータルで増収増益傾向が続いている。
 SCTEエクスポの基調講演に立ったNCTAのマイケル・パウエル会長(元FCC 〔連邦通信委員会〕 委員長)は、「NCTAの政策課題は何よりもブロードバンド」と断言。ネットフリックス、フールーなどインターネット上での映像配信サービス(OTT=オーバー・ザ・トップ)については、「4次元チェスの試合のようだ」と、敵でもあり味方でもある複雑な認識を示した。
 一方、グーグルファイバーや通信事業者の光化の動きに対しては、「CATVはDOCSISの技術により1Gbps以上の伝送も可能であり、速やかに適切な対応で向かうことが重要」と述べている。
 ブロードバンドのパイプをCATVが持つことで、テレビは従来のRF方式だけでなく、IP伝送によりマルチスクリーンやVODも可能になる。そのため、既に競争力を持っているブロードバンドをさらに充実させることが重要との認識を持っているようだ。

■ケーブルモデムのバージョンアップで1Gbpsの高速化を実現 光化も促進
 既存のケーブルモデムシステムDOCSIS3.0は、チャンネルボンディングにより100Mbps以上可能であるが、さらに高速化・効率化するためにDOCSIS3.1が開発された。従来の6MHz区切り(欧州は8MHz)というチャンネルの概念を捨て、192MHz(192は6と8の交倍数)を一つの単位として伝送し、OFDMと1024/4096QAMという高度な変調方式で高速化を図っている。
 一方で現システムとの互換性を保つため、192MHz帯の中をすべて使う必要はなく、既存のチャンネルのすき間を使うことが可能になっている。これにより既存システムに変更することなく、1Gbpsを超える高速化が図られる。
 DOCSIS3.1は現行のHFC(光同軸ハイブリッド)ネットワークを前提として高度化を図るものであるが、4096QAMや1GHz以上の周波数伝送は短距離でないと実現困難であるため、DOCSIS3.1の導入に合わせて段階的に、光化を限りなくノード(分岐点)まで進めるアプローチをすることが予想される。
 DOCSIS3.1の仕様は、10月29日に米ケーブルラボが発表した。まずはケーブルモデムから製品化し、早ければ来年にセンター設備も出荷され、MSO(CATV統括運営会社)は順次導入していく模様である。

■話題は4KとHEVC 
 新しい話題は、4K(ウルトラHD)と画像高圧縮方式のHEVCの実用化である。HEVCのエンコーダー、デコーダーは各社が出展していた。ファイルベースのエンコーダー/デコーダーは問題ないものの、4Kについてはリアルタイム対応までは至っていない。エレメンタル社が4Kのリアルタイムエンコーダーを出展し、翌週には大阪マラソンで使用したが、画質、遅延などまだ本格的実用化には解決すべき課題がある。
 今回、ロサンゼルスで訪れたソニーデジタル映像センター(DMPC)で見た非圧縮の4Kシネマは美しい画質であった。ここはハリウッドなど映画関係者に4Kカメラ、編集装置の訓練をするための世界で初めての施設である。
 ネットでの番組配信をしているネットフリックスは、1080pのスーパーHDサービスを今年から開始しているが、14年から4K配信の実施を表明している。

■大容量データ伝送路により、映像はすべてIP化 ワークフローもIP化前提に
 DOCSIS3.1による大容量データ伝送路の使途は、VOD、マルチスクリーンサービスなどのIPビデオが主で、段階的には、リニアテレビも含めてIPビデオに移行し、映像の全IP化が進むと予想されている。
 全IP化を前提とした配信・編集・コンテンツ認識・ターゲット広告・レコメンドなど多様な機能を前提としたソリューションが出展されていた。また、宅内端末もホームゲートウェイとしての機能などが製品化している。

■コンテンツ事業者も交え、同じ土俵での厳しい競争環境に突入 
 米国のMSOは、基本的に地域情報番組を制作していない。もともと米国の地上波放送局は、日本と異なり地域発のニュースショーの時間枠が多く、地域密着色が強いため、CATVに対して地域番組を求める声は少ない。
 一方、コミュニティーと呼ばれる自治体単位で地域情報を提供するのが、パブリックアクセス局である。地域情報番組を制作し、MSOに番組を提供するパブリックアクセス局は、全米に1000局程度存在する。番組をCATV局だけでなく通信事業者やブロードバンドサービスにも提供しているので、「地域力」という意味でCATVと通信事業者にはサービスメニューに差がない。
 さらにマストキャリー規制により衛星放送局は地上波の再送信をし、通信事業者とブロードバンドサービスで提携しているので、衛星とCATVとの差もない。さらにコンテンツ事業者もネット上での独自提供を展開している。
 従って、CATV、通信、衛星といったプラットフォームの水平的な違いだけでなく、コンテンツ事業者、OTTとの垂直的な垣根も下がってきている。CATV事業者からすれば、厳しい競争環境に入ったと言えるが、当面はブロードバンドのシェアで優位に立っている間に消費者の期待に応え、IP化を進めていくことが求められている。

<写真説明>
写真1SCTE ケーブルテック 展示会場
約400社が出展、セッションには約80件の発表があり、参加者数は約1万人。

写真2
クラウドDVRシステム(シスコ社)
クラウド上でコンテンツの録画や視聴等の権限管理を行うためのシステム。マルチデバイスで視聴可能とするためのデバイスに合わせたトランスコーディング機能のほか、ダウンロード可否、コンテンツ有効期限、DRM方式などのコントロール機能などを有している。

写真3 ヘッドレスゲートウェイ(アリス社)
ヘッドレスとはHDMI等の映像コンポーネットを搭載しないことを指し、映像はWI-FI,Ethernet,Moca等のI/F上のIP伝送で行い、タブレット視聴等のマルチスクリーン対応する。

写真4 SCTE国際パネルで講演する筆者(右端)
日本のUHDTV(4K、8K)の導入方針とケーブルの役割について説明した。


***

写真1 SCTE ケーブルテック 展示会場(上写真も)

写真1 SCTE ケーブルテック 展示会場(上写真も)

写真2 クラウドDVRシステム(シスコ社)

写真2 クラウドDVRシステム(シスコ社)

写真3  ヘッドレスゲートウェイ(アリス社)

写真3  ヘッドレスゲートウェイ(アリス社)

写真4 SCTE国際パネルで講演する筆者(右端)

写真4 SCTE国際パネルで講演する筆者(右端)

#interbee2019

  • Twetter
  • Facebook
  • Instagram
  • Youtube