【コラム】米クアルコム LTE用いた放送型サービスをMobile World Congressでもデモ 再び台風の目となるか(International CESブース報告)

2013.2.28 UP

オールジョインによりスクリーン間が密接に連携する
LTEブロードキャストで、狭い領域に放送的なサービスを実現する

LTEブロードキャストで、狭い領域に放送的なサービスを実現する

スナップドラゴンによるHEVCのソフトウェア再生

スナップドラゴンによるHEVCのソフトウェア再生

ヘッドフォンでもリアルな7・1チャンネル音響を得るバーチャルサラウンド

ヘッドフォンでもリアルな7・1チャンネル音響を得るバーチャルサラウンド

 米クアルコムは、通信技術の開発と、半導体の設計で知られた企業である。第3世代以降の携帯電話が用いるCDMA技術を実用化したのは同社だ。International CESで、クアルコムのブースに展示された数々の注目技術を紹介する。本文中で紹介するLTEブロードキャストは、スペインのバルセロナで2月27日から開催中のMobile World Congress 2012でも、デモンストレーションを実施しており、今後、新たなコンテンツ配信の台風の目となる可能性がありそうだ。
 (日本大学生産工学部講師/映像新聞論説委員 杉沼浩司)

■通信分野の”超”大手
 米国カリフォルニア州サンディエゴに本社を置くクアルコムは、無線技術において金字塔を打ち立てた会社だ。それまで、実現が極めて難しいとされていたCDMA(符号分割多元接続)を実用化し、帯域幅(スペクトラム)の利用効率を大いに高めた。それまでの信号弁別方法は、周波数の違いか通信タイミングの違いであったのに対して、周波数もタイミングも同一ながら符号を変えるだけで弁別する方法を実用化したのだ。理論自体は60年代から存在していたが、実用化が難しかった。クアルコムは、携帯電話網でこの方式を実用化し同時にこれに使う半導体を開発した。また、同社の創設者達は、信号処理の世界に残る偉業を成し遂げており、彼らによって編み出された方式は、今でも広く使われている。
 第三世代携帯電話方式やLTEには、同社の技術の多くが投入されており、規格を実装するための必須特許も多い。また、通信用半導体の開発にも熱心で、これまでに同社製(製造は外部委託)の通信用LSIを110億個以上出荷している。
 このように、通信業界では非常に名の知れた存在であるが、一般向けの事業はほとんど行っていなかった事から、消費者への知名度は決して高くない。しかし、同社が現在開発している技術は、EV向け非接触充電や近距離機器間通信、携帯電話システム利用の放送そして行動分析など消費者に結びつくものが多い。CESでの存在感の大きさも、将来への投資の一環と見れば納得できる。

■タブレットとテレビをつなぐ通信技術「オールジョイン」
 近距離機器間通信技術「オールジョイン」は、基調講演でも紹介された。P2Pで機器間を接続するもので、サーバー不要であること、遅延が少ないことを特徴としている。この技術を用いて、テレビとタブレットの間で通信を行い、表示画面を両者の間で切り替えたりするデモが会場で行われていた。サーバーの助けを借りずにテレビとタブレットが直接通信し、迅速な反応を見せていた。
 オールジョインは、アプリケーションを作るための基盤になるものであるが、OSに内蔵されるのではない。OSはあくまでも現行のままで通信機構がアプリケーションに組み込まれる。これを実現するために、同社はSDK(ソフトウェア開発キット)を無償で公開している。更に、ソースコードも公開し、同社が対応していないOSには希望者が自身で対応することを勧めている。この結果、iOS、アンドロイド、ウィンドウズ、MacOSXといった各種OS上で動作するアプリケーションが作られている。移植容易なP2P通信機構として、オールジョインは注目されそうだ。

■「LTEブロードキャスト」で放送へ再挑戦
 クアルコムが、メディアFLOなる放送方式を提案し、推進していたのは記憶に新しい。米国では第55チャンネルを取得し全国サービスが予定されていた。メディアFLO自体は撤退という結果になったが、同社は放送型モデルを放棄したわけではない。CESには「LTEブロードキャスト」が登場した。これは、LTEの一つもしくは複数の基地局から、放送的に情報を流すものだ。一定の帯域を割り振り、ここを放送用に使う。LTEで放送を行う事は、eMBMSとして規格(リリース9)に盛り込まれている。同社は、スウェーデンのエリクソンのeMBMSの実現に向けて共同開発を進めている。基地局のソフトウェアを変更するだけで対応できるという。同社は「放送サービス用に新たな帯域を必要としないため、既存免許で運用できる」と利点を示している。
 デモでは、ユニキャストであれば2300ユーザーしか対応できないところが、6万ユーザーに配信を行ったり、各ユーザーに約1.5Mbpsでコンテンツを送ったりできることが示された。また、デモでは、ユニキャスト用と放送・マルチキャスト用の帯域を自由に変えられることや、放送・マルチキャスト時に流すストリーム数を自由に設定できることが示されていた。同社は、スタジアムや展示会場といった場所でこのサービスが有効と考えている。なお、米MobiTVがデモに協力し、スタジアム放送の実施例を示していた。

■4コアの威力
 クアルコムがデジタル家電やタブレットに向けてSoC(システムLSI)を開発・製造していることは、昨年の基調講演以来何度も強調されている。このSoCはすでに多くの製品に採用されている。
 今年の基調講演で触れられた「スナップドラゴン800」シリーズは、4コアを搭載しGPU機能も持つ強力なSoCだ。同社は、この処理能力を活用して4K映像の再生をデモしていた。
 このデモの際、もう一つ行われたのが米DTS社と共同開発したヘッドフォン用サラウンド再生技術だ。ヘッドフォンを装着していても、装着していない時と同様な定位が得られる。この技術の臨場感は驚異的で、デモの際ヘッドフォンではなくスピーカーから音がしていると感じ、ヘッドフォンを外してしまった程であった。これまでのヘッドフォン用サラウンドとは段違いのリアリティが感じられた。

■スマホでユーザーの状況を解析するサービス「ジンバル」を開始
 ユーザーが「何をしようとしているのか」を知ることは、デジタル機器にとって重要な機能だ。会議中であれば自動的にマナーモードに切り替わって欲しいし、居眠り中なら呼び出し音を鳴らして欲しい。このような状況を見極める技術は「コンテキスト・アウェアネス」と呼ばれているが、まだ発展途上である。
 クアルコムは、スマートフォンの予定表、メール履歴、通話履歴などから、現在の状況を自動分析するサービス「ジンバル」を開始した。ジンバル用ソフトウェアを実装すると、上記のデータなどがクラウドに送られ、そちらで分析がなされる。メールの内容等には立ち入らない。
 現在のジンバルは、スマートフォンに蓄積されたデータのみを用いるが、今後、マイクで音を拾い「盛り上がり」を検知するなど、実時間性を高める構想もあるようだがプライバシーとの関わりで慎重に検討されている。ジンバルは市場調査には強力なツールとなるだけに、各方面から関心が高い。
 通信に軸足を置きながらも、より広い分野へ打って出ているクアルコムは、家電、コンテンツ業界にとって目の離せない存在だ。同社の技術は、各分野でおおいに活用されてゆくだろう。

LTEブロードキャストで、狭い領域に放送的なサービスを実現する

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スナップドラゴンによるHEVCのソフトウェア再生

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ヘッドフォンでもリアルな7・1チャンネル音響を得るバーチャルサラウンド

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#interbee2019

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