私が見た“NAB SHOW 2012”における技術動向(その4、制作系、伝送・配信系編)

2012.5.21 UP

メディアバックボーン(ソニー)
バーチャルスタジオシステム(朋栄)

バーチャルスタジオシステム(朋栄)

ファイルベースのワークフロー(クォンテル)

ファイルベースのワークフロー(クォンテル)

人気スポットの大画面による制作実演(アビッド)

人気スポットの大画面による制作実演(アビッド)

マルチスクリーンソリューション(NTT グループ)

マルチスクリーンソリューション(NTT グループ)

 ここまで3回にわたり、今回のNABの全体概要や各種イベント、3Dやデジタルシネマと言った新たなメディアの展開について、それらの状況に応えるカメラやディスプレイなどの動向を見てきた。本号ではデジタル時代を踏まえ、取材・制作系から送出・配信そしてアーカイブス系まで急速に進展するファイルベース化およびそれらを支える符号化技術、配信・伝送技術などの動向などについて紹介して見たい。

 ソニーは前述した4Kカメラ“F65”の記録フォーマットSRMASTERをベースに収録から編集、送出までを通したワークフローを公開していた。“F65”映像をRAWにてSRMemoryに記録し、編集からカラーコレクションなどのワークフロー、さらに4K映像をそのまま使うだけでなくHDにダウンコンバートし現行放送の質向上に役立てることや一部映像を切り取り使う方法の提案もやっていた。4Kによる高画質化と効率的制作を実現するものとしてオープンプラットフォーム化を目指しており、アライアンスができつつあるようだ。また進展するファイルベース化に応えるトータル的ワークフローのソリューション「メディアバックボーン」についても従来より進化したシステムを公開していた。それとは別に、ライブ中継などで複数台のカメラ映像を遅延量小さく同期伝送できるIP伝送装置も参考展示していた。
 パナソニックは映像符号化の新体系として、従来のAVC Intraを拡張したAVC Ultraを提唱してきた。前述した新機種の4Kカメラに採用するハイエンドのClass 4:4:4からIntra200/100/50、高圧縮でパフォーマンスの高いLong G、低ビットレートでも高画質のプロキシ映像用AVC-Proxyとマスタリングからネットまで幅広い用途に使用可能なコーデックシリーズである。ハイエンドの4:4:4の画質評価を公開したのとあわせ、アップグレード可能なニューモデルのP2HDカメラレコーダ、また従来のP2カードを小型化し高速転送可能なマイクロP2カードも展示していた。
 朋栄は例年にも増してデジタル時代に相応しい多種多彩なクリエイティブな制作システムを出展した。その中で注目されたのは、次世代記録メディアとして注目されているLTO(高速転送で大容量のテープメディア)を搭載した新製品のLTSサーバを核に、映像、音声などの素材を統合管理するファイルベースの制作・アーカイブシステムである。また新製品のHD/SD対応の2M/E~3M/Eビデオスイッチャー類や低価格ながら高機能のフレームコンバータやカラーコレクターも展示していた。例年、人気スポットのデモンストレーションは、Smart Directと名を変えたバーチャルスタジオシステムと複数台の高速度カメラによるマルチアングルのスローモーション映像を公開し、興を湧かせるパフォーマンスに大勢の見学者を集めていた。
 例年ユニークで興味深い出展をするVizrt(アルゼンチン)は、Inter BEEにも出展し国内でも知られるようになったが、今年も巧みな演出のプレゼンテーションで人気スポットになっていた。トレンドのファイルベースのワークフローの実演に加え、最近のスポーツ中継番組でもなじみになっているが、選手やボールのトラッキングを見やすくする映像効果などを実現するInteractive Sportsシステムも公開していた。また日本で見るのとはちょっと雰囲気の違うバーチャルスタジオシステムなど多彩な演出で見せていた。
 デジタル時代の制作システムで高い実績を持つクォンテルは、新ソフトの導入により従来よりもさらに機能アップした“New Pablo”を登場させた。汎用のPC環境で動作でき、ハイエンド処理やカラーグレーディングに加え3Dやハイフレームレートにも活用でき、強力で柔軟なワークフローが実現できる。従来モデルに加え、新型のNeo Nano パネルによるワークも見せてくれた。また世界中のどこにあるサーバの素材でもインターネット経由で扱えるQ Tube Global Workflowシステムは、さらに機能アップしリモートでのイフェクト作業も可能となり一段とグローバルなコラボレーションが進みそうだ。一方、オートデスクは今年も大画面ディスプレイを使い、機能アップした高度、高品質の映像・加工処理システムを使った実演公開をやっていた。主なのはMAC版のエンディング/イフェクトツール“Smoke”とリアルタイムのカラーグレーディングと3Dイフェクトが統合された"Flame Premium"など、高い注目を集めていた。
 グラスバレーはサウスホールエントランス付近に広大なブースを設け、デジタル時代に相応しい多種多彩なシステムを公開していた。Tatooと名付けたカラフルなステージの周囲にカメラやモニター、制作システムを設置し、多彩なパフォーマンスが見学者を楽しませていた。主なシステムはファイル化ワークフローに応えるアセットマネージメントシステム“STRATUS”、世界的に実績高い制作・送出用“K2 Summit”システム、ノンリニア編集系“EDIUS” 、スイッチャーやマルチビュアなどを広いブースいっぱいに展開していた。世界的に映画、放送、ポスプロ業界に各種機器を提供しているブラックマジックは、今年もかなり広く個性的なレイアウトのブースに例年以上に様々な機器、システムを展開していた。目についたものを上げると、2.5Kセンサーと広帯域SSDを搭載し特有な形状で、フィルムルックの画調が得られる初登場のデジタルシネマカメラ、2D/3Dプロセッサーさらに常磐になっているカラーコレクター“DaVinci Resolve 9”の実演などだった。作業効率性を高め、改良版のユーザーインターフェース(操作パネル)も並べていた。アビッドは世界に広がるユーザの要望に応え、またサードパーティとのインテグレーションによるオープンシステムでワークフローを一層効率的に、最適なコラボレーション環境を構築するソリューションを、近来にない規模で展示していた。主なものとしては、ニューバージョンの“Symphony6”、“Media Composer 6”、“Avid DS”などを使ったワークフローで、メインステージや各ブースで実演公開をし多くの見学者集めていた。

 デジタル時代に対応するコンテンツ伝送・配信技術分野にも多種多彩な展示物が見られた。
 NTTは今回初めてグループ共同のブースで、様々な最新技術を展示していた。これまでワールドカップなど世界的なスポーツイベントで実績あるHD/SDエンコーダを、さらに超低遅延化し低ビットレートでも高画質を実現したニューモデル、トランスコードしながらFinger Printを生成・登録しコンテンツの著作権管理をとり、放送とインターネットのコンテンツを連動させるマルチスクリーンサービスシステム、通常のフルHD の2D映像とほぼ同じ帯域内で3D映像を安定的に低コストに伝送できるストリーミング技術、デジタルシネマ仕様に添うJPEG2000リアルタイムコーデックシステム、さらに高効率、高画質の次世代コーデックHEVC(High Efficiency Video Coding)の画質評価も見せていた。
 符号化技術、ネットワーク関連技術で高い実績を持つ富士通もHEVCの画質評価のデモをやっていた。その他にもH.264用新エンコーダによるライブデモ、さらに 高画質、高速処理を実現したH.264ソフトウェアトランスコーダなどを展示していた。なお上述のHEVCについては、併催のTechnology Summit on Cinemaでも議論されており、Dolby Lab.からの報告によるとH.264に比べ圧縮性能は倍以上になるそうだ。HEVCは現在ISO/IECとITUの共同チームJCT-VC(Joint Collaborative Team on Video Coding)で標準化の審議が進められており、今後の開発、実用化を大いに期待したいものだ。
 世界的に映像圧縮技術を主たる業務にしているintoPIX(ベルギー)は、新開発のワンチップFPGA(Field Programmable Gate Array)を搭載し、超低遅延でスケーラブルのJPEG2000エンコーダを出展していた。同チップを使った「4K映像野外収録システム」(NHK-ESと共同開発)は昨年のInter BEEにも出展されており、アストロデザインのSSDレコーダにも技術供与さている。またXILINX(米)もBBC R&D(BBC
研究開発部門)と連携し符号圧縮のためのFPGAの実用化を進めており、IPネット上で放送品質の映像信号を送れるシステムと4K映像開発プラットフォームキットを展示していた。

 以上、4回にわたりNABにおける最近の技術動向を紹介してきた。11月には47回目を迎えるInter BEEが幕張メッセで開催される。その時には経済状況が好転していることを願い、今回NABで見られた多くの技術がさらに完成度を高め、さらに新たな技術が幕張で見られることを期待したいものだ。

映像技術ジャーナリスト(学術博士) 石田武久

バーチャルスタジオシステム(朋栄)

バーチャルスタジオシステム(朋栄)

ファイルベースのワークフロー(クォンテル)

ファイルベースのワークフロー(クォンテル)

人気スポットの大画面による制作実演(アビッド)

人気スポットの大画面による制作実演(アビッド)

マルチスクリーンソリューション(NTT グループ)

マルチスクリーンソリューション(NTT グループ)

#interbee2019

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