【インタビュー】映画『ジョン・カーター』VFXスーパーバイザー ペーター・チャン氏(2) 俳優の演技・表情を3DキャプチャーしてCGキャラクターに反映

2012.4.6 UP

映画『ジョン・カーター』( 4月13日(金)3D ・2Dロードショー)より(画像1)
映画『ジョン・カーター』のVFXスーパーバイザーを務めたダブル・ネガティブ社ペーター・チャン氏(画像2)

映画『ジョン・カーター』のVFXスーパーバイザーを務めたダブル・ネガティブ社ペーター・チャン氏(画像2)

砂漠のロケ地の炎天下における顔のキャプチャー(画像3、4)

砂漠のロケ地の炎天下における顔のキャプチャー(画像3、4)

(1より)
■俳優の視線までも「キャプチャー」 見下ろす表情・演技をCGキャラで再現

 監督は、CGキャラクターの“視線”を非常に重要視していた。3メートル近い身長をもつサーク族の皇帝タルクがジョン・カーターを見下ろす様子をリアルに描き出す場面でも、キャプチャーの際の視線が生かされている。タルクを演じるウィレム・デフォーに竹馬を履かせて高い位置から演技をさせ、その際に、顔のドットの動きと同時に眼の瞳孔の動きもトラッキングしたという。
 太陽の照りつける砂漠や夜中のロケ現場のように、極端なライティングのもとにおいてヘルメットカメラを用いた撮影がおこなわれることも多かったという。特定のライティングのもとでのキャプチャーの場合、3Dの変位を正確にとりこむために、カメラのレスポンスをあらかじめ計測しておく必要がある。

 毎回、ロケ現場でこうした前処理を念入りにおこなうことは、スタッフにとってとても負荷が大きい。そこで、ダブル・ネガティブでは、後処理にあたるフォトグラグラメトリーの計算をおこなう自社製のソフトウエアに幾度となく改良を加えた。これにより、前処理の作業を最低限にとどめても許容範囲内の誤差で安定してキャプチャーができるようになった。このソフトの改良によって、激しい顔の動きや顔のドットの位置が頻繁に変えられるような場合にも対応できたという。


■顔の筋肉の動きを皮膚に反映させて表情を生成

 ダブル・ネガティブはまた、FACS(Facial Acting Coding System)の考えに基づいたツールも開発している。
 FACSはもともと、人間の顔の構造と表情に関する解剖学的な研究によるもので、アニメーション制作ばかりでなく、医学、心理学、音声合成などの研究にも活用されている。
 顔の各部分の動きを計測し、それに基づいて表情の変化を記述する方法で、解剖学的に44個の運動単位AU(Action Unit)に分類し、そのAUの移動量と移動方向をパラメーターとして3次元モデルを変形させることで表情を生成する。
 映画のVFXでは、映画『キング・コング』においてウェタが最初にFACSを導入している。

 ダブル・ネガティブも、ウェタと同様、キャプチャーされた俳優の顔の演技を、人間の顔とは違う構造の顔の表情に変換するためにこのFACSを採用した。
 ドットの変位の変化をもとにしてまず顔の各部分の表情の特徴をもっともよく表す筋肉を動かし、この筋肉の動きがその上を覆っている皮膚の動きを引き起こして顔の表情がつくりだされる。このとき、顔の構造が異なるキャラクターに対して、対応する筋肉の動きを的確にするため、対応する筋肉の集合(AU)ごとに、ドットの位置の変化に対する重みづけをしている。

 ウェタ社の場合は、キャプチャーした動きのデータが二次元であったのに対し、今回はキャプチャーしたデータが三次元の動きである点が大きく異なる。これによって、データを自動変換したり、変換後のデータをキーフレーム・アニメーションと融合したりする場合、より細かい設定やコントロールが可能になったという。
 サーク族の皇帝にあたるタルス・タルカスの顔には、人間の顔にはない複雑な筋肉が数多く加えられているが、俳優の顔の筋肉の動きをタルス・タルカスの顔の筋肉に重み付けをすることで、動きがうまく分配されて俳優の演技が生かされていた。通常、アニメーターが非常に多くの試行錯誤をおこなわなければつくりだせないような、リアルでありながらもいかにもタルス・タルカスらしいインパクトのある表情を、モーションキャプチャーで作り出すことが可能になった。


■新たなシェーダーにより皮膚表面の質感を正確に表現

 顔の表情の仕上げにあたる皮膚の質感表現においても、皮膚の表面のスペキュラー反射や、皮膚の内部での散乱を物理的に正確に計算するシェーダーが新たに作成された。
 これまで用いられてきたシェーダーは、クローズアップのようにカメラのすぐ近くに位置するキャラクター用に開発されていた。これをカメラからある程度離れたところに位置するキャラクターの皮膚に用いると、皮膚がプラスチックのような見え方になってしまったという。

 映画『ジョン・カーター』では、サーク族の表現においては、クローズアップの人物表現だけでなく、比較的近距離(中景)に位置するキャラクターにおいても相当細かい表現が求められた。後述する群れの表現と同様、キャラクター一人一人の動きから質感表現まで求められたという。このため、カメラからの距離に応じて最適なパラメーターを自動設定できるような機能が追加された。

 皮膚の表現では色表現も含めた検討がなされた。オリジナルのデザインではサーク族の肌は緑色、その血管は青色と設定されていたが、レンダリングしたところ、あまりにもエイリアンのような見え方になってしまった。
 サーク族は確かにエイリアンの一種に違いないのだが、監督は観客がサーク族に対して共感することのできるような見え方を望んでおり、そのためにはより人間に近い皮膚の質感が必要ということで、血管の色がより赤みを帯びてみえるようにシェーダーを書き換えたという。

 このように、リアリズムをつくりだすためのシミュレーション的要素とアンドリュー・スタントン監督ならではの演出の両方を生かすことが『ジョン・カーター』のVFX全体における最も根本的な課題となっていたようだ。(倉地紀子)


(続く)

©2011 Disney. JOHN CARTER™ ERB, Inc.
映画「ジョン・カーター」4月13日(金)3D ・2Dロードショー!

【画像説明】
(画像1)
 映画「ジョン・カーター」( 4月13日(金)3D ・2Dロードショー)より
 
(画像2)
 ダブル・ネガティブ社のペーター・チャン(Peter Chiang)氏。映画「ジョン・カーター」のVFXスーパーバイザーを担当した。

(画像3、4)
 『ジョン・カーター』における顔の表情のキャプチャーは、砂漠のロケ地の炎天下や真夜中のロケなどといった非常に極端なライティグのもとでおこなわれることが多かった。
 ドットの3Dの位置情報を正確に復元するためには、特定のライティグのもとでのカメラのレスポンスをあらかじめ計測しておいてからキャプチャーをおこなうことが望ましいのだが、ロケ地で毎回このような前処理を完璧におこなう作業負荷はあまりに重い。このため、このような前処理を最低限度に抑えつつ許容範囲内の誤差でドットの3Dの位置情報を復元できるように、フォトグラメトリーの計算をおこなうインハウスのソフトウエアに改良が重ねられたそうだ。

映画『ジョン・カーター』のVFXスーパーバイザーを務めたダブル・ネガティブ社ペーター・チャン氏(画像2)

映画『ジョン・カーター』のVFXスーパーバイザーを務めたダブル・ネガティブ社ペーター・チャン氏(画像2)

砂漠のロケ地の炎天下における顔のキャプチャー(画像3、4)

砂漠のロケ地の炎天下における顔のキャプチャー(画像3、4)

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