【プロダクション】NexTV-F、スカパーJSAT 「アリス」の4K60pライブ映像伝送を実施 放送開始へ向け4K番組制作のノウハウ蓄積

2013.11.26 UP

 次世代放送推進フォーラム(NexTV-F)とスカパーJSATは11月2日、東京都千代田区の日本武道館で催されたアリスのコンサートの模様を、お台場シネマメディアージュに4K(3840×2160ピクセル)で衛星伝送するライブビューイングを実施した(上写真はスカパーJSATの4Kテスト撮影映像)。2014年の4K放送開始に向けたノウハウ蓄積の一環。フレームレートは60p。カメラはソニー、キヤノン、JVCの計7台を使用した。レンズの選定などに苦労したという。
(映像新聞 信井文寿)

■スカパー 3回目の4K映像ライブ伝送「テレビ番組として成立する品質に」
 今回のライブビューイングは、スカパーにとって昨年10月と今年3月に続く3回目の4K映像ライブ伝送になる。制作技術でフジテレビジョンが協力した。
 カメラワーク、スイッチングなどテレビ番組として成立する映像のクオリティーにすることがポイントであった。アリスのコンサートはBSスカパーで完全生放送(無料)しているが、これは4Kとは別の生放送チームが制作している。

■7台のカメラを使用 4K/59.94p、8ビットサンプリング 4:2:2
 4K伝送システムは、「JCSAT-5A」衛星を使用。Kuバンド、帯域幅35.8MHzで変調方式は32APSK、伝送容量は約120Mbps。アンテナは送信局(車載)が1.5メートル、受信局が1.4メートル(仮設)。映像は4K/59.94p、8ビットサンプリング、カラーサンプリング4:2:2、映像コーデックはH.264、音声は2chステレオを用いた。
 4Kの映像信号はHD4画面に分割。スイッチャーや記録装置など、既存のHD中継車/機材を使用して映像を処理し、4本のストリームを多重化して1波で送受信している。
 4Kカメラは、キヤノン「EOS C500」3台、ソニー「PMW-F55」3台、JVCケンウッドのハンディモデル「GY-HMQ10」1台の計7台を使用。これらカメラからの4K出力は、いずれもプロテックの3G光伝送装置を使ってスイッチャー(ソニー「MVS-7000X」)に伝送している。F55とHMQ10はビデオ信号で出力。C500はRAWで出力し、アストロデザインのRAW現像装置を介してスイッチャーに送った。

■プロテックの3G光伝送装置を初採用 
 プロテックの3G光伝送装置は今回が初採用。前回の4K伝送実験ではこの部分が各種装置に分かれていたが、プロテック製品に統一したことが4K信号の安定伝送に寄与した。
 スイッチング時の映像確認ではダウンコンバーターは使わず、スイッチャーの基本機能を利用することで、各カメラからの4K映像をHDモニターに表示した。また、各カメラからの4K出力はアストロデザインの4K SSD「HR-7510」、本線のスイッチング出力はソニーのSRMASTERデッキ「SR-R1000」にそれぞれ記録している。
 スイッチャーからの信号は富士通の送出用H.264エンコーダー「IP-9610」を介して多重化・変調。衛星中継車から「JCSAT-5A」に打ち上げ、シネマメディアージュ屋上の受信アンテナで受信。ライブビューイング会場の350インチスクリーンに4Kプロジェクターから投写した。

■「解像感重視でレンズ選択」シネマレンズでも安定感のあるオペレーションを実施
 カメラ/レンズは、ステージ正面(2台)・横でズーム・アップを多用するところにC500/CN30-300、ドラムセットの横にHMQ10、観客席の中央にF55/HK5.3×75、後方に同/14.5-60、後方上部に同/Alura15.5-45を配置した。
 レンズはいずれもデジタルシネマ用。4Kライブビューイングを統括したスカパーJSATマーケティング本部サービス開発担当主幹の今井豊氏は、「4Kの解像感を決めるポイントはレンズ。解像感の高いレンズを選んだ」と話す。その選択・確保には非常に苦労したという。
 2日午後4時から始まったアリスのコンサートは、2013年の全国ツアー(全64ステージ)を締めくくるファイナルステージで、谷村新司、堀内孝雄、矢沢透の3人が『遠くで汽笛を聞きながら』『今はもうだれも』『冬の稲妻』といった往年のヒット曲から、初期、最新の曲まで、絶妙なトークを交えながら、約3時間のライブを繰り広げた。
 現在の4Kカメラは、シネマ向けの仕様で、ズーマーの位置、フォーカスの速度など、放送用カメラとは異なるため、ライブ系での運用にはやや難があるとされている。
 しかし今回は、ステージ横のカメラでの谷村新司と堀内孝雄の相互に対するピント合わせのスムーズさ、7つのカメラ映像のスイッチングなど、テレビにおける通常のコンテンサート映像とそん色のないものに見えた。今井氏も「非常に安定感のあるオペレーションをしてくれた」と評価する。

■ 4K映像に堀内孝雄「しわの一つ一つがいとおしく見えた」
 カメラは通常のテレビと同様のワンマンオペレーション。カメラ位置、被写体との距離はほぼ決まっていることもあり、比較的、ピント合わせはしやすかったようだ。
 今井氏は今回の4K伝送の結果について、「4Kは準備に時間がかかる。それを追いきれなかった部分で生じてしまった技術課題はあった。しかしこれは十分に対処できるレベルのものだと思う」と話す。課題を抽出しつつも「番組として成立させる」という目的は果たせたようだ。
 ライブ中、矢沢透のソロの後に再登場してきた堀内孝雄は、「4Kはいまのテレビの4倍、美しく見えるというが、これは厳しい。あのころ会ったきんちゃんと違う。でもしわの一つ一つがいとおしく見えた」と4Kの力を表現していた。

■スカパー 4K撮影ノウハウを蓄積
 スカパーでは、サッカーや野球、カーレースなど、数多くのカメラテストを実施しており、被写体までの距離、カメラの動き、ズームの速度などによってどのような画質になるのかを蓄積しているという。NHK、民放局においても、4Kのテスト収録が活発に進められている。4K放送に向けて有効な蓄積になりそうだ。
 今後の4K伝送は未定だが、NexTV-F事務局の元橋圭哉氏は、「テストベッド事業を受託しているので、その成果を示さなくてはならない。国のお金を受託している以上、社会に対してもアピールしていく必要がある。試験放送実施の前、何らかの節目の際に1回はやりたいと思っている」と話した。

■8K視野にHEVC 4K60pエンコーダーも開発中「新たな社会のコアを」
 HEVC/H.265のエンコーダーについては、NexTV-Fのメンバー企業が、放送で使える60pのスペックでしかるべきレートで4Kが圧縮、安定した伝送できるものを開発中という。これは将来の8Kも視野に入れたものだ。
 ライブビューイング開始に先立ってあいさつしたNexTV-Fの須藤修理事長は、「放送を機軸に、医療、教育、災害対策、イベント、アートなど、われわれの活動分野は広がっていく。4K/8Kで新たな社会のコアを作っていきたい」と述べた。
 スカパーの高田真治社長は、「NexTV-Fのメンバーと、来年の放送開始に向けて頑張っていきたい。多くの人に実際に見てもらうことが4K普及のポイント。今後もパブリックビューイングなどの取り組みを進めていく」としている。

#interbee2019

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