【コラム】デジタルサイネージ市場の現況と今後の課題 中止にならない安全・警備への配慮で次なる飛躍を

2013.6.26 UP

JR博多駅の駅構内では国内最大規模50面のデジタルサイネージが稼働する
渋谷スクランブル交差点前の街頭大型ビジョン

渋谷スクランブル交差点前の街頭大型ビジョン

 日本社会システムラボラトリーの調査によれば、国内のデジタルサイネージ市場は年々拡大の一途をたどっており、12年度には約796億円、15年度には1000億円を超え1140億円市場へ成長すると予測している。一方、業界団体の一つであるデジタルサイネージコンソーシアム(DSJ)は15年に1兆円規模の産業を目指すとしているが、現状ではかなりハードルの高い目標設定と言える。デジタルサイネージ業界の現状と今後の課題などについて分析する。(川田宏之)

■災害時も役立つ交通施設における大型サイネージ
 ここ数年の傾向としては、駅や空港などのターミナルで大型デジタルサイネージの設置が数多く見られることが挙げられる。12年にはJR札幌駅、JR東京駅、成田空港などで導入があった。13年にはJR博多駅、首都圏の地下鉄各駅をはじめ多くの駅構内などでサイネージの数が圧倒的に増えている。こうした場所でデジタルサイネージは必需品となるだろう。これらの施設では東日本大震災時の教訓を生かし、いざ大規模災害があったときなどには緊急に情報を流すための工夫も各事業者で進められている。

■都市部の導入一巡 ワイドスクリーン化へのリプレース需要へ
 一方、繁華街を中心とした街頭大型ビジョンを電子広告看板という観点でみれば、主要都市においてはある程度の整備が進んだことで新規設置の件数はあまり増えず、むしろリプレースの需要が高まっている。
 テレビ受像機は、そのほとんどが地上デジタル放送の開始に伴いワイドスクリーン化されているが、街頭大型ビジョンのデジタル化とワイドスクリーン化は遅れており、今後のリプレース時の設備投資が課題とする事業者も多い。
 また渋谷駅前スクランブル交差点の「わかさ生活チャンネル」や「グリコビジョン」などのように、ネーミングライツで新たなビジネスモデルを創造しようとする動きも一部で活性化してきた。

■若者が集まる拠点、渋谷交差点を「屋外広告特区」に
 現在、政府では「アベノミクス特区」の議論が進んでいる。東京、大阪、名古屋の3大都市圏を中心に特定地域で特区を創設することが検討されている。東京都では、都心や臨海地域の容積率、用途規制を緩和し、都市機能の集積を促進。また、地下鉄の24時間運行や英語対応の医療体系整備など、ビジネス、観光の利便性を高めて、都市としての国際競争力強化を図る策などが検討されている。
 その中でデジタルサイネージや大型ビジョン関係者の間で話が出てきているのが、この渋谷スクランブル交差点地域を「屋外広告特区」に指定し、屋外広告やイベントなどの規制を大幅に緩和したらどうかという意見だ。つまり日本の「タイムズスクエア化」を目指すという方向性である。

 この渋谷交差点では6月4日、サッカーW杯アジア最終予選の日本代表対オーストラリア代表戦(埼玉スタジアム)の開催に合わせ、警視庁は数百人の警官を配置し渋谷駅前のスクランブル交差点を交通規制する策を実行した。センター街を含む周囲2キロメートルを「整理区域」に指定し、区域内の店舗などを利用しない人は立ち入らないよう呼び掛けた。
 同交差点ではこれまで、W杯予選後などに数千人もの若者が押し寄せ、地下鉄の屋根や信号機に登ったり、周囲の看板などを壊したりする者もいた。2001年1月1日の21世紀へのカウントダウンの際には、地下鉄出入り口のガラス屋根に多数の人が上って屋根が崩落、男女4人が死傷し大型ビジョン事業者が書類送検されるという事象も発生している。
 今回の規制には賛否両論があるが、果たして規制するだけで問題は解決するのだろうか。今回の警視庁のように、規制強化に人員と予算をつぎ込む、いわば負の連鎖ではなく、若者が集まる拠点とその場所の整備を進めれば一括した警備も可能になる。若者たちも心おきなく大勢で喜びを発散できる場所になるというプラスの連鎖を期待したプランだ。
 これを進めれば、1998年のフランス大会から耐えて久しい街頭大型ビジョンを利用したサッカーW杯のパブリックビューイングも実施できる可能性がある。さらに東京駅などで警備上の問題から中止を余儀なくされたプロジェクションマッピング(PM)のようなイベントも、安全に混乱なく実施できるようになることが期待される。
 経済効果も生まれ、一石が二鳥にも三鳥にもなる可能性すらある。米国のニューヨーク市でできたことが、日本や東京都にできないことはないだろう。デジタルサイネージ業界の活性化のためにも、さらに議論が盛り上がり特区実現へ向けて動き出せるようこの場を借りて提案しておきたい。

■「中止にならないための」運営を目指した札幌大通り公園PM
 5月31日-6月2日には、札幌市の大通り公園でPMの投映実験が実施された。札幌市は06年から「創造性」をテーマに、自然資源やアートなどのコンテンツを使ったまちづくり政策「創造都市さっぽろ」を推進。札幌地下街にはデジタルサイネージなども構築し、市民に親しまれている。
 PMは大勢の人が集まり街の活性化や観光の振興などに役立つが、東京駅や「さっぽろ雪まつり」でのPMは、人が集まりすぎて全日程を実施することができずに中止を余儀なくされた。
 今回のPMは、《中止にならないためのマッピングイベントを運営する方法を模索するための検証実験》として実施した。「北海道らしさ」をテーマに、よさこいやアイヌの紋章などを音楽とともに「札幌大通西4ビル」の壁面に投映。事前に告知しなかったものの、3日間で約5000人が集まり盛況だった。3日間とも混乱は起きなかった。
 このように告知を控えれば良いというものではないが、安全を確保しつつも大規模PMを実施していこうとする札幌市の意気込みが感じられる。来年は「札幌国際芸術祭」の開催も控え、「創造都市さっぽろ」の魅力を発信するには絶好の機会となる。スイスのジュネーブでは「マッピングフェスティバル」というイベントが過去9年にもわたり開催されている。
 PMという新たなスタイルでのデジタルサイネージを町おこしに役立てようとする動きは、札幌にとどまらず全国各地で計画されている。警備の問題も含めた総合対策をとることで、デジタルサイネージ業界は次のステージに向けて大きく飛躍できるに違いない。

渋谷スクランブル交差点前の街頭大型ビジョン

渋谷スクランブル交差点前の街頭大型ビジョン

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