【NAB Show 2013】映画『オブリビオン』の撮影技術を語る 撮影監督クラウディオ・ミランダとDITアレックス・カー 21台のプロジェクターで152メートル、解像度15Kの背景映像を生成

2013.5.8 UP

スタジオを囲む巨大スクリーンでライブ投影。1000m上空のスカイタワーを表現
NAB Show 2013のセッション会場。左から二人目がミランダ氏。三人目がカー氏

NAB Show 2013のセッション会場。左から二人目がミランダ氏。三人目がカー氏

ミランダ氏とSony F65、Fujinon Premier 24-180ズーム、Chapman G3ヘッドのシステム

ミランダ氏とSony F65、Fujinon Premier 24-180ズーム、Chapman G3ヘッドのシステム

セカンドクルーによる、ハワイの火山頂上にて3週間以上も張り込み撮影

セカンドクルーによる、ハワイの火山頂上にて3週間以上も張り込み撮影

CG合成とは異なり小道具にも自然な光の反射を施し、役者の演技にも効果的であったという

CG合成とは異なり小道具にも自然な光の反射を施し、役者の演技にも効果的であったという

  4月19日から全米公開され、オープニング3日間で3,815万ドルの興業成績を記録した 映画『オブリビオン』(原題「Oblivion」)。日本でも5月31日から公開される同映画の撮影監督であるクラウディオ・ミランダ氏とDIT(Digital Image Technician、デジタル・イメージ・テクニシャン)のアレックス・カー氏らによるセッション( "Oblivion": Shooting Oblivion with Cinematographer Claudio Miranda, ASC and DIT Alex Carr)が4月19日、NAB Show 2013で開催された。(ザッカメッカ 山下香欧)

■映画『ライフ・オブ・パイ』でアカデミー撮影賞を受賞
 クラウディオ・ミランダ氏は、映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2008年)で撮影監督を務め、アカデミー撮影賞にノミネート。映画『ライフ・オブ・パイ』(2012年)でアカデミー賞撮影賞を受賞している。DIT(デジタルイメージテクニシャン)のアレックス・カー氏は、2009年からDITとして各種の映画におけるデジタルシネマ撮影のサポートを担当している。
 セッションではこのほか、ソニーエレクトロニクスのビジネス開発担当マネージャー、キース・ビッジャー氏と、テクニカラー社 ロケーションサービス担当副社長のデビッド・ワーターズ氏も登壇した。モデレーターはASCデジタルタイムスのジョン・ファウアー氏が務めた。

■高度1000メートル上空のスカイタワーの背景をプロジェクターで投影
 映画『オブリビオン』は、2077年の地球を舞台にしている。想像を超える壮観な未来の地球を舞台に異星人と地球人生存者たちの戦いを描いたSiFi映画だ。映画『トロン:レガシー』(2010年)で初監督を務め注目されたジョセフ・コシンスキー氏が、自ら原作・脚本に携わっている。製作費は約1.3~1.4億ドル(129億円以上)と言われている。
 セッションは、非常に趣向を凝らしたスカイタワーの映像についての話題が中心となった。会場ではソニー4Kのプロジェクターにオブリビオンの各シーンが上映され、それらに合わせて監督たちを交えて会場参加者とのディスカッションがあった。プロジェクターに公開されたのは、スカイタワーと外の背景、そして雲のフォーメーションや戦闘シーンだ。スカイタワーとは、人類のほとんどが他の惑星に移住した地球を監視する居住環境も装備したステーションで、高度1000メートルの上空に建設されている設定となっている。
 同映画では、映画『2001年宇宙の旅』(1968年)で用いられたプロジェクターによる映像を背景に投影する技術を応用することでリアルな映像を作り出している。 このフロント・プロジェクション技法をベースにウルトラHDの映像を、21台のプロジェクターでセットであるスカイタワーの周りに1000メートル上空の実写映像を投影し、自然で臨場感あふれる光を表現した。


■ソニー Cine Alta F65で撮影した初の映画作品
 同映画は、ソニーCine Alta F65で撮られた初めての映画作品だ。当時(2012年)、出荷が始まったばかりのF65がスタジオ撮影に採用された。F65を採用したきっかけには、コシンスキー監督が『トロン:レガシー』の際に使用したF35の表現力が非常に気に入っていたこともあったという。クラウディオ氏は使える限りカメラをテストして、作品シーンが求める焦点とスコープを撮るのにふさわしいと感じたソニー製F65に決めたという。 スタジオ内での撮影に用いたF65は2台。それぞれ、ARRI/Zeissの Master Primeおよびフジノン製Premierズームレンズを装着した。
 ミランダ氏は作品に2つの様式があるという。1つはプラットフォーム塔内のようにクリーン(清潔感)で無菌環境な部分、そしてもう1つは汚れたザラザラ感がある素朴な世界だという。スカイタワーから見る雲の陰りにある光源、そして下にはごろごろした火山岩。クラウディオ氏は「ニュアンスを観てみたかった」と、両極端な世界の表現の工夫について語った。

■背景映像はRED EPICで撮影 横幅152メートルの巨大スクリーンに投影
 高さ12.8m、横幅152.4mの巨大スクリーンに21台のプロジェクションを使ってリアルタイムに投影している映像の光がスタジオ内のセットを照らす。プロジェクターに映し出される映像は15Kモーションピクチャーという未だ嘗てない解像度の映像となった。投影された雲のシーンは、ハワイの火山頂上近くで3週間以上にもわたって収録してきたものだ。3台のRED EPICカメラを使って収録してきたものをつなぎ合わせて15K画像を作り上げたという。
 今回の映画では、合成用のブルーバックスクリーンを極力利用していない。これによって、ブルーバックでは使うことができないガラスなど、光が反射しやすい小道具を多用することができた。また、ろうそくの光も非常に効果的で、俳優の肌の色と共にリアルにカメラに収まったという。クラウディオ氏は「照明に関して、プロジェクト全体の設計に多くの時間を費やした」という。
 俳優にとっても、このリアルなセット内での演技は自然なパフォーマンスが施せたようだ。フロントプロジェクションで投影したこれらのイマジネーションの世界で演技をする出演者の自然な演技は、視聴者を没入させる環境を生み出した。

■テクニカラーがモバイルデイリーとグローバルデイリーのワークフローを構築
  今回の大規模プロジェクトのワークフローの背景についてもディスカッションがあった。 プロダクションは各地区、セットは、ニューオーリンズ、ルイジアナのバトン・ルージュ、ハワイからニューヨークなど様々な場所に置かれた。
 ワークフローには膨大なRAWファイルのデータ容量の管理と、テクニカラーがカスタマイズしたシステムが大きく関わっている。F65という初めてのカメラシステムのため、メーカー側の協力も欠かせない。さまざまなロケーションのセット近くでスクリーンデイリーができる環境が必須となったため、トレーラーにデイリーシステムを組み上げる、いわゆるモバイルシステムと、テクニカラーのグローバルデイリーの提案が成された。FlameLogicとDP Lightsオンセット・カラーグレーディングシステムがトレーラーに載せられた。 

写真:
© UniversalPictures
© UniversalPictures /David James(写真上から3つ目)

NAB Show 2013のセッション会場。左から二人目がミランダ氏。三人目がカー氏

NAB Show 2013のセッション会場。左から二人目がミランダ氏。三人目がカー氏

ミランダ氏とSony F65、Fujinon Premier 24-180ズーム、Chapman G3ヘッドのシステム

ミランダ氏とSony F65、Fujinon Premier 24-180ズーム、Chapman G3ヘッドのシステム

セカンドクルーによる、ハワイの火山頂上にて3週間以上も張り込み撮影

セカンドクルーによる、ハワイの火山頂上にて3週間以上も張り込み撮影

CG合成とは異なり小道具にも自然な光の反射を施し、役者の演技にも効果的であったという

CG合成とは異なり小道具にも自然な光の反射を施し、役者の演技にも効果的であったという

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