【コラム】ハリウッドのボックス・オフィスに異変 長編アニメが好調 この夏話題のVFX映画、相次ぎ「食われる」

2013.8.7 UP

「Despicable Me2」を公開するシネコン、AMCシアター
マクドナルドのハッピーミールには、こんな人形がついてくる

マクドナルドのハッピーミールには、こんな人形がついてくる

 今夏前半、ハリウッドのボックス・オフィスにちょっとした異変が起きた。7月のアメリカ独立記念日の連休前後に公開されたエフェクト・ヘビーなVFX大作3本が相次いでトップの座を逃した。6月後半から7月前半に掛けての第1位に輝き大ヒットしたのは、いずれも長編アニメーション映画だった。この予想外の結果は、ハリウッドでも大きな話題を呼んでいる。今回は、旬のニュースとして、その話題をお届けする事にしよう。
(鍋潤太郎)

■VFX大作「パシフィック・リム」まさかの初登場3位
 日本の怪獣にインスパイヤーされ、$190million(約190億円)もの巨額制作費を投入、インダストリアル・ライト&マジック(ILM)による最先端VFXを全面に打ち出し、アカデミー賞ノミネート女優である菊地凛子が主演するなど、鳴り物入りで公開された大作「パシフィック・リム」。
 7月12日から全米3275館で封切られたが、公開最初の週末の売上げがわずか$38million(約38億円)でボックス・オフィス初登場第3位と、予想外の振るわぬ成績となった。

■ジョニー・デップの「ローン・レンジャー」も
「パシフィック・リム」だけではない。ディズニーがジョニー・デップを主演に$215million(約215億円)という巨額制作費を投じて、同じく鳴り物入で公開した「ローン・レンジャー」も、トップの座を逃した。独立記念日の連休に合わせ、3904館規模で7月3日から封切られたものの、公開最初の週末売上げが$48million(約48億円)という期待以下の興行収入で、ボックス・オフィスは第2位だった。

 では、「パシフィック・リム」と「ローン・レンジャー」の2本を打ち破ったという、第1位の作品は、果たして何だったのだろうか?
 これが、意外も意外、大穴と言えば大穴、「おバカ」系の爆笑アニメ映画「Despicable Me2(邦題:怪盗グルーのミニオン危機一発)」だったのである。
「Despicable Me2」は、「Despicable Me」の続編。1作目も、全米で$251million(約251億円)近くを売り上げた大ヒット作品だったので、2作目がある程度ヒットする事は予測出来たものの、ここまで当たるとは誰も予想していなかっただろう。
 アメリカの独立記念日の連休、そして過去2週間の総興行収入は$228million(約228億円)という文字通り大ヒットになった。このペースで行けば、1作目をしのぐヒットになる事は確実と言える。

<7月5日~7日の週末ボックスオフィス>
 第1位「Despicable Me2」 興行収入:約84億円相当 制作費:約76億円相当
 第2位「The Lone Ranger」 興行収入:約29億円相当 制作費:約215億円相当
 第3位「The Heat」      興行収入:約25億円相当 制作費:約43億円相当

<7月12日~14日の週末ボックスオフィス>
 第1位 「Despicable Me2」 興行収入:約44億円相当 制作費:約76億円相当
 第2位 「Grown Up 2」   興行収入:約42億円相当 制作費:約80億円相当
 第3位 「Pacific Rim」    興行収入:約37億円相当 制作費:約190億円相当

 ご覧のように、VFX大作「ローン・レンジャー」と「パシフィック・リム」に大きな差をつけて、2週間連続でボックスオフィス第1位に輝いてしまった。
 なんだか信じがたい結果ではあるが、業界で「ボックスオフィスは蓋を開けてみないと、わからない」と言われるのは、こうした事例を指すのだろう。

■ブラピ主演「ワールド・ウォーZ」を抑えたのは「モンスターズ・ユニバーシティ」
 ちなみに、6月21日に全米公開されたブラット・ピット主演の話題作「ワールド・ウォーZ」もVFXを駆使し$190million(約190億円相当)の制作費を掛けた大作として公開されたが、同じタイミングで公開されたディズニー&ピクサーの「モンスターズ・ユニバーシティ」がボックスオフィスの第1位に輝き、こちらも公開最初の週末の首位を明け渡す結果となった。

<6月21日~23日の週末ボックスオフィス>
 第1位 「Monsters University」 興行収入:約82億円相当 制作費:非公表
 第2位 「World War Z」    興行収入:約66億円相当 制作費:約190億円相当

 「モンスターズ・ユニバーシティ」はその後2週連続で第1位をキープし、7月中旬の段階で$238million(約238億円相当)を稼ぎ出す大ヒットとなった。

■アメリカ人観客、VFX大作よりもファミリー&コメディ作品志向に?
 この結果を見ると、アメリカ人の観客が、巨額の制作費を投じたVFX大作よりも、家族揃って楽しめるファミリー映画や、コメディー映画を好む傾向にある事が伺える。
 「Despicable Me2」はそんなファミリー層とコメディ層の両方を取り込む事に成功した作品だが、宣伝面では米マクドナルドとタイアップを展開。マクドナルド店頭で「ハッピーミール」を購入すると、12種類の「ミニオン」人形のどれか1個がついてくるキャンペーンを実施。ファミリー層の取り込みに一役買っている。(米マクドナルドのキャンペーンページ
http://www.mcdhappymealtoys.com/2013/05/despicable-me-2.html#)
 筆者の友人が勤務するVFXスタジオでは、ランチタイムにマクドナルドへ行き、違う人形を集めては自慢し合う事がブームになってしまっているという。ちなみに、このスタジオは「パシフィック・リム」を担当しているにも関わらず、公開初日にみんなで誘い合って観に行ったのは、なぜか「パシフィック・リム」ではなく「Despicable Me2」だったそうだ(笑)
 そういう人々が連鎖的に増殖し、今回の「Despicable Me2」大ヒットに繋がってしまったのかもしれない。

■難しい公開タイミング
 ハリウッド映画の売上げは、公開するタイミングに左右される事が少なくない。特に夏休み、感謝祭、クリスマス等の大型連休時時期は、尚更の事である。
 この夏に公開された話題作は、「Despicable Me2」「モンスターズ・ユニバーシティ」の公開タイミングとぶつかり、ことごとく”食われてしまった”感が強い。
 「インディペンデンス・デイ」のローランド・エメリッヒ監督が、”ホワイトハウスが再び破壊される映画”を独立記念日の連休に合わせて公開したが、この作品も見事に「モンスターズ・ユニバーシティ」に食われてしまい、制作費$150million(約150億円相当)に大して7月中旬の段階で興行成績が$63million(約63億円相当)と振るわず。映画自体は筆者のイチオシで、大変面白いのだが…..
 一方、「モンスターズ・ユニバーシティ」より1週間先に公開された「Men of Steel」は、公開最初の週末に$116million(約116億円)を売上げる大ヒット。
 公開時期の選択に成功した例と言えるだろう。

マクドナルドのハッピーミールには、こんな人形がついてくる

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#interbee2019

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