【コラム】IBC報告2 放送用4Kズームレンズ出そろう BT2020対応モニター開発へ、量子ドットによる発光技術に期待 BBC R&Dは音声の自動テキスト化を研究

2014.10.22 UP

富士フイルムは、4K対応レンズを多数出展していた

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NHKは、8KSHVでの60P、120P比較をスポーツコンテンツで実施し人気を博した

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BBC R&Dは、ラジオの音響オブジェクト化による高臨場感をデモした

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BBC R&Dは音声アーカイブスを自動的にテキスト化する技術を開発した

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 9月に蘭アムステルダムで実施された放送関連展示会「IBC2014」(主催=IBC)では、UHDTVを睨んだ機材の充実が目に付いた。特に、レンズは「4K」を指向したものが揃い始め、HDレンズと4Kレンズの使い分けが可能になってきた。これまで、4Kディスプレイの解像力を活かすだけのレンズが不足していることが指摘されていたが、今回のIBCで必要領域を押さえた感がある。一方、ディスプレイについては広色域化が完了しておらず、ITU-R BT.2020が示す色域に対応したモニターが存在しない状況だ。こちらは、研究開発の加速が求められる。
(映像新聞 論説委員/日本大学 生産工学部 講師 杉沼浩司)

■富士フイルムが6本の4Kズームレンズを一気に公開
 4K解像度を活かせるレンズが不足していることは、これまでも映像関係者から指摘されてきた。もちろんレンズメーカーの対応が遅いのではなく、4K環境の進展が速すぎたのだ。4Kが放送業界に姿を見せたのは、2013年4月のNAB Showだった。このときは、ごく一部のメーカーが「4Kあります」という程度の出展で、機器製造側も制作側も4Kに踏み切ったとの感はなかった。
 しかし、今年4月のNAB Showは4K一色であったし、IBCはより状況が進んできたのは既報の通りである。その中で、製品投入が遅れてきたレンズも、4K用と銘打ったものが目立つようになってきた。
 例えば、富士フイルムは今回のIBCで6本の4Kズームレンズを一気に公開した。いずれも放送用を意識したズームレンズである。ロンドンを空撮したデモ映像では、ワイド端での撮影でも一台一台の自動車がはっきりと見て取れた。都市部での空撮ゆえ、最低でも300mの高度を取っているが、ここまで見えると、遠近感が変わってくる。リジョナル・セールスマネージャのクリストフ・ガステットナー氏は「摘まみ上げられる感覚に陥るのは、この解像感のおかげだ」と新開発レンズの性能を誇っていた。4KレンズとHDレンズの違いは解像感にあり、そのためには光学設計を大幅に見直しているという。
 業界では、映画用の単焦点レンズはこれまでも製品にあったが、テレビ向けのズームレンズは遅れ気味だった。レンズは、かなりの部分はCADで設計できるが、設計者の感覚に残されている部分もあるとされ、試作等の時間を考えると新製品開発には2年以上の時間を要する。現在登場しているレンズは、最も早く4K用として開発が始まったものと考えられる。

■2020色域をカバーできない現行LED
 BT.2020が要求する広色域(通称「2020色域」)は、従来よりも青、緑の表現域が大きく拡がる。また、赤も純度が高い赤表現が可能となり、自然界をより活き活きと描けると期待されている。
 しかし、モニターにとって大きな問題がある。2020色域のための廉価な光源がないのだ。現在、LEDではバックライトにLEDが使われている。民生用の廉価なモニターでは多くが白色LEDを用いているが、連続的な発光波長を持っているのではない。一つのチップが白色光を出しているのではないのだ。青色LEDもしくは紫色LEDの光を蛍光体に当てて、そこから出る黄色光やRGBの三原色を使い白色光を作っている。ところが、2020色域を示す三角形の頂点に相当する位置の波長を出せる蛍光体が、現在のところ実用化されていない。
 高価なモニターでは、RGBの三原色LEDを用いており、純度が高い光源を実現している。しかし、そのLEDも緑色は波長が560ナノメートルのものが多く、これは「黄緑」色に近い。青色は波長が440ナノメートル程度で、これも深い青にはやや足りない。
 色域を示す馬蹄型の図(色度図)にプロットされた三角形領域がモニターの展示の際にはよく現れる。残念ながら、現在のモニターはHD用の709色域では十分でも、2020色域をカバーできていない。これは、内部のルックアップテーブル(LUT)の調整といったソフトウェアで済むものではなく、ハードウェアが追いついていないため、素子の改善を待つしかない。
 最も有望なのは、量子ドットと呼ばれる量子力学的現象を用いた蛍光体で、これは蛍光する周波数をかなり自由に選択できる。現在、量子ドットを用いた発光(蛍光)技術の開発が進んでいる。一部のLEDバックライトにはこの技術が適用されており、市販されているテレビを見ると明らかに異なる色彩感をもたらしている。
 今回のIBCでは、ルックアップテーブルの改良で2020色域比80%程度まで表現領域を広げた製品があり、赤色側は非常に豊かな色合いを実現していた。しかし、緑、青は従来通りだ。この状態では測定器としての意味づけもあるマスターモニターとして利用することには制約が出てくる。技術開発の状況からすると、来年のNAB ShowからIBCにかけて2020色域対応もしくは、その90%台まで近づけた装置が登場しそうだ。

■NHK技研 8K120pと8K60pを比較展示
 研究開発関連の展示が集まるフューチャーゾーンでは、今年もNHK技研が8Kスーパーハイビジョンを精力的に展示した。特に、今年はフルスペック(120p)映像を見せ、毎日閉場前30分間は、60p映像と並べてほぼ同一コンテンツ(サッカー)を見せるという意欲的な展示を行っていた。フルスペックSHV映像でスポーツが上映されるのは、これが初めてとなる。8KSHVで比較が公開されるのも初めてとあって、多くの観衆が集まっていた。

■ラジオ放送でBBCが新たな技術研究
 英BBCの研究部門は、ラジオ放送の進化を目指したいくつかの研究成果を公開した。一つは、複数の音源を送り、聴取者が手許で選択するものだ。デモでは、スタジアムの両側(ホーム側、ビジター側)で採取した音響を、聴取者がブラウザ上で選択し、実況感を楽しむものが展示された。両側の音響は視聴者の好みの割合で混合することができる。
 また、ラジオの脚本を精緻に分析し、各部分の所要時間を明らかにした上で内容同士のつながりを有向グラフ化することで、番組全体の所要時間を変化させる、という「レスポンシブ・ラジオ」という構想も公開された。「この番組は何分で聴きたい」といった需要に対応できるのではないか、とのことで研究されている。
 他に、番組からの自動テキスト化(トランスクリプト作成)とデータベース作成ツールも公開され、この技術はCOMMAプラットフォームに搭載され、歴史研究などにも使用されているという。この技術は、他言語への移植に対応しており、日本語も使用可能という。

富士フイルムは、4K対応レンズを多数出展していた

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NHKは、8KSHVでの60P、120P比較をスポーツコンテンツで実施し人気を博した

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#interbee2019

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