【NEWS】3D University JAPAN 2015 報告(1)中国、アメリカで拡大する3D映画市場 VRにも新潮流

2016.2.12 UP

先進映像協会・日本部会(AIS-J)会長である早稲田大学の河合隆史教授

先進映像協会・日本部会(AIS-J)会長である早稲田大学の河合隆史教授

AIS会長ジム・チャビン氏

AIS会長ジム・チャビン氏

ドワンゴによる「niconico VRとライブ配信」

ドワンゴによる「niconico VRとライブ配信」

グッドプラクティス・アワード受賞者

グッドプラクティス・アワード受賞者

 「先進映像協会」(AIS、Advanced Imaging Society)の日本部会(AIS-J)が主催するイベント「3Dユニバーシティ・ジャパン(3DU-J)」が、昨年12月10-11日に東京都千代田区の秋葉原UDXシアターで開催された。同組織は、2009年に米国で設立した「国際3D協会」が前身。3D映像技術やコンテンツ表現を、教育・啓発・表彰・研究を通して発展・普及させることを目的に設立した。13年末からは、「国際3D先進映像協会」と名称変更し、15年に現在の「先進映像協会」(AIS)となった。これは扱う範囲が3D映像だけでなく、4K、8Kに代表されるUHD、HDR、HFR、VR、裸眼立体ディスプレー、立体音響、レーザープロジェクション、巨大スクリーンなどへも拡張したことを意味している。(大口孝之)

●次世代3Dシステムも開発へ
 現在、先進映像コンテンツの芸術・技術に関連する400以上の会社・団体が加盟しており、米国、カナダ、EU、英国、中国、日本の各部会に加え、昨年からはインドが韓国に代わって参加している。
 AISの日本部会であるAIS-Jの幹事会員は、NHKメディアテクノロジー、早稲田大学・河合隆史研究室、ソニー、デジタルコンテンツ協会、パナソニック。これに一般会員として、IMAGICA、BS朝日、フジテレビジョンが参加している。
 3DU-Jは、11年から毎年開催されているイベント型の教育・啓発活動。良質なコンテンツ・活動に贈られる「ルミエール・ジャパン・アワード」の表彰式と、クリエイターや事業者を招聘したセミナーを実施している。ルミエール・ジャパン・アワードの受賞作品は、AIS本部主催の「クリエイティブ・アーツ・アワード」へのエントリー権を得られ、16年1月27日にロサンゼルスで授賞式が開催される。

◆衰えない中国の3D映画人気
 初日は、AIS-J会長である早稲田大学の河合隆史教授から概要が説明され、続いてAIS会長ジム・チャビン氏が基調講演に登壇した (以下は、講演の概要)。
 15年の映画世界興行収入ランキングにおいて、トップ12中の8本が3D作品だった。14年までは、ほとんどすべて3D作品で占められていたことを考えると、退潮傾向がある。しかし、米国における3D映画の制作本数自体は、減る様子を見せていない。最大の理由は、米国市場を上回る勢いの中国マーケットの存在だ。中国では3D人気は衰えるどころか一層盛んになっている。
 昨年、同一タイトルの映画で3D版を選択する観客の割合は、日本25%、フランス38%、英国29%、ドイツ76%、ロシア59%、ブラジル60%、メキシコ24%、中国91%。世界平均は51%で、中国における数字が突出している。
 中国の3Dスクリーン数は14年半ばで2万3000だったが、AISの最新の予想では18年までに4万を超えると見られている。
 中国の劇場では、多くがIMAXデジタルシアターシステムを採用しているが、そのほかにも独自方式を含めた各種の最新技術が導入されており、今後はこういったハイテク映画館が、米中両国を中心として爆発的に増えていく。
 3Dシステムを提供する米RealD社が開発した大型スクリーンシステム「LUXE」は、天津百麗宮影城など数館が採用。また、独自方式としては、中国電影科研所と中影集団が開発した「中国巨幕」(China Film Giant Screen)や、保利国際影城の「Polymax」、万達影城の「X-Land」がある。万達影城を運営する万達集団(Wandaグループ)は、米国で2番目に大きな映画興行チェーンAMCを傘下に収めているが、AMCは、ドルビーラボラトリーズとともに15年から次世代映画館システム「DOLBY CINEMA AT AMC PRIME」である。
 画面のピーク輝度やコントラスト、色域などを大幅に拡大した高画質化技術ドルビービジョンと、立体音響技術のドルビーアトモスを組み合わせ、4Kレーザー・プロジェクターで投影する方式だ。今後はこういったハイテク映画館が、米中両国を中心として爆発的に増えていくと予想される。
 公開作品に関して言うと、3D映画のヒット作はこれまですべてハリウッド映画だったが、15年は中国映画が軒並み記録を塗り替えた。例えばアニメ作品では、それまで1位だった『カンフー・パンダ2』の興行収入6億1200万人民元(約114億円)を大きく上回り、『西遊記之大聖帰来』が9億5600万人民元(約179億円)のメガヒットとなった。また実写作品では、『捉妖記』が24億2900万人民元(約454億円)を記録し、中国映画史上最大のヒット作となっている。また中仏合作の、ネイティブ3D撮影によるジャン=ジャック・アノー監督作品『狼図騰』(神なるオオカミ)も、7億人民元(約131億円)を記録した(この作品は総製作費も7億人民元掛かっているため、収支はトントン)。16年も中米合作の『Kung Fu Panda 3』(カンフー・パンダ3)が期待されており、当分3D人気は止まらないと思われる。とにかく世界の映画産業が、中国を中心に回っていることは事実だろう。

◆VRにも新潮流
 またチャビン氏はVR技術の活用例として、映画『ザ・ウォーク』のキーアート(米国では映画やテレビ番組、ゲームの宣伝広告をこう呼ぶ)を紹介した。この映画は、ニューヨーク・ワールドトレードセンターのツインタワー間で綱渡りを敢行した実在の大道芸人を、ロバート・ゼメキス監督が描いた3D作品である。そこで米Create VR社が、街の人にソニーのHMD「PlayStation VR」を装着させ、高さ411メートル、地上110階を疑似体験させるというキャンペーンを行った。この試みに対し、優れた映画宣伝を対象としたクリオ・キーアート・アワードの銀賞などが与えられている。
 またチャビン氏は、テレビやIP配信におけるUHD/HDRへの期待についても熱く述べた。米国では、ワーナー・ブラザース、ユニバーサル、ソニー・ピクチャーズ、パラマウント、ドリームワークス・アニメーション、ネットフリックス、ABC、CBSなどの企業が、この分野への参入を発表しているという。チャビン氏は、「日本が新しいハードウエアを生み出して、米国がそれを活用したコンテンツを作り、さらにヨーロッパが芸術的に高めていく--といった図式が出来上がっている」と分析した。

●HDRでIMAGICA受賞
◆グッドプラクティス・アワード部門
 グッドプラクティス・アワードは、先進映像の特性に着目し、これを活用した取り組みを表彰するもので、今年は2つの取り組みに本賞が与えられた。1つはHDR部門より、IMAGICAの『UHD/HDR用標準画像セット LUCORE』である。これは、UHDの標準規格であるITU-R勧告 BT.2020が定める色域と、人の目の認識特性に最も適切とされるOETF(光電気伝達関数)を規格化したSMPTE ST.2084に準拠する評価画像集で、10000nitsの輝度までをカバーしている。
 2つ目の本賞はVR部門からで、凸版印刷による『文化財のデジタルアーカイブとVR制作への取り組み』に与えられた。同社では、1997年から超高精細なシアター型VRシステムの開発を進めており、国内15拠点、海外2拠点の博物館やPR館、観光施設などで上映されてきた。例えば「北京故宮博物院との共同研究プロジェクト」(1面の写真参照) は、2000年から継続しているもので、建築や文物の立体形状計測や色彩計測をし、高精細のリアルタイムCGで没入感のある仮想体験を実現させるというもの。
 さらに2つの試みに対し、VR部門で奨励賞が与えられた。まずドワンゴによる『niconico VRとライブ配信』である。これはライブ会場の様子を360度全球カメラで2D/3D変換撮影し、HMD向けにニコニコ生放送で配信するシステムである。ネットワークへの負荷を軽減させるため、NTTメディアインテリジェンス研究所が協力している。具体的には、ユーザーが見ている方向をジャイロセンサーで検知し、サーバーから「高解像度タイル」と「低解像度タイル」に分割して画像データを送るというシステムだ。さらにユーザーコメントを3Dで空間に配置することで、立体感の表現も実現させている。
 もう1つの奨励賞は、フジテレビジョンが提供しているVRサービスの『タイムトリップビュープロジェクト』である。これは、タブレットやスマートフォン、スマートグラスなどのデバイスを通じて、日本橋、江戸城門、江戸湾などの歴史的風景を360度パノラマムービーで疑似体験するというもの。CGによる建造物の復元だけでなく、実写の人物を合成することで人々の生活を実感できるようになっている。
 また、TBSビジョンによる『4Kで甦る 世紀のご成婚パレード-TOKYO 1959-』に4K部門の奨励賞が与えられた。この作品は、59年の皇太子殿下と美智子さま(現・天皇、皇后両陛下)のご成婚パレードを毎日映画社が記録し、劇場公開もされた約25分の短編映画を4Kデジタルリマスターしたものである。当初、毎日映画社は白黒での撮影を予定していたが、ご成婚4日前になって急きょ35ミリカラーフィルムを使用するように変更されたそうである。その判断により、現在の目で見ても十分なディテールが感じられる、貴重な映像が残された。

先進映像協会・日本部会(AIS-J)会長である早稲田大学の河合隆史教授

先進映像協会・日本部会(AIS-J)会長である早稲田大学の河合隆史教授

AIS会長ジム・チャビン氏

AIS会長ジム・チャビン氏

ドワンゴによる「niconico VRとライブ配信」

ドワンゴによる「niconico VRとライブ配信」

グッドプラクティス・アワード受賞者

グッドプラクティス・アワード受賞者

#interbee2019

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