【NEWS】紙を素材にした3Dプリンタが登場/アポロ計画の月面写真解析結果が報告 SIGGRAPH 2013 報告(1)

2013.8.4 UP

20年ぶりにSIGGRAPHが開催されるアナハイム・コンベンションセンター
ソフト、機器から書籍まで出展されている展示会場

ソフト、機器から書籍まで出展されている展示会場

人気のブースは、立錐の余地も無い状況

人気のブースは、立錐の余地も無い状況

貴重な情報が得られるセッションは、開場前から長い行列ができる

貴重な情報が得られるセッションは、開場前から長い行列ができる

 7月21日から25日の5日間、米アナハイム(カリフォルニア州)で、コンピュータグラフィックスの専門学会・展示会であるSIGGRAPH(主催=米ACM SIGGRAPH)が、開催された。SIGGRAPHが古典的なCGのみを扱っていた時代は遠くに過ぎ去り、今年も担当分野の拡大が見られた。3Dプリンタ向けの自動設計方式の提案や、構造物保持のシミュレーションなど、実空間との連携をテーマにした研究が目に付いた。展示では、今年もモバイル機を意識したハード、ソフトの技術が見られたほか、新機軸の3Dプリンタも登場し、華やかなものとなった。
(映像新聞 論説委員/日本大学 生産工学部講師 杉沼浩司)

■久々のアナハイム
 SIGGRAPHがアナハイムに帰ってきた。最近は、ロサンジェルスと他都市で交互に開催されるSIGGRAPHだが、今年はロサンジェルスの目と鼻の先、アナハイムとなった。アナハイムは、南カリフォルニアを代表する住宅・産業地域であるオレンジ郡の中核都市だ。会場となったアナハイム・コンベンションセンターは、ディズニーランドから道1本挟んで南側にある。建物外に出れば、ジェットコースターの轟音と人々の歓声も聞こえてくるがそれには目もくれず、世界のCG関係者は5日間コンベンションセンターに立てこもった。
 アナハイムで最後にSIGGRAPHが開催されたのは、20年前の1993年(その前は、1987年)のことだ。当時は、ディズニーランドが拡張されておらず、会場では静かにコンファレンスが進行していた。それから20年、道路も周囲の景色も大きく変わった(建物の整理が進んで景色は良くなっている)。変わらないのは、半球状の屋根が特徴的なコンベンションセンターのアリーナとCGに顔を輝かせる人々である。

■eラーニング対応
 SIGGRAPHの特徴の一つは、コースと呼ばれる講習会が開催されることだ。「3DCG入門」といった初級編から「クオータニオン(4元数)の扱い方(注:今年はこの題では開講されていない)」といった高度なものまで、幅広く講義がなされる。コースに参加できるのは、学会(テクニカル・プログラム)への参加者に限られ、展示会の来場者は受講できない。
 しかし、ACM SIGGRAPHは、コースの様子を映像で公開することを決断した。入門者向けの4講義を録画し、SIGGRAPH終了後にユーチューブで公開するという。CGへの関心を高めるための活動として注目される。
 SIGGRAPHのコース内容と論文発表の様子は、ACMが300ドル程度で販売しているDVDで数ヶ月後に視聴できる。コースの一般公開は、このDVDの売れ行きに影響を与える可能性もある。それでもなお、CG普及のためにACM SIGGRAPHは一般公開に踏み切った。今後、より多くのイベントがネットで公開される可能性がある。

■モバイル賑わう展示
 展示会は、コンベンションセンターのホールCを使って行われた。内外の約170社が出展している。ハードウェアは、PCメーカーの姿はなく、かわってモバイル用IP(回路図)関連企業が見られた。米インテル、米AMD、英ARM、米nVIDIAがCPU,GPU、モバイルSoCの各方面で互いに火花を散らす構図となっていた。
 プロダクションは、米ピクサー・アニメーション・スタジオが会場中央に大きなブースを構えた。しかし、中国企業に買収されたデジタル・ドメインや、先日経営破綻したリズム&ヒューズ(現在、新オーナーのもとで再建中)の姿はなく、ハリウッドのプロダクションの存在感は急激に低下している。ゲーム関係も、特に企業が元気なわけではない。
 その一方で、3Dプリンタには相変わらず活気が見られた。一般のプリンタも、エプソンが久々に新製品を持ち込みブースを開くなど、動きが見られた。特に3Dプリンタでは、プラスチックに代わって紙を素材として3Dプリンティングを行うMcor Tecnologies社(アイルランド)が注目を集めていた。
 ソフトウェアでは、Blender(統合CGツール)やUnity(ゲームエンジン)のブースが賑わった。また、カメラ軌跡抽出技術で知られる英 The Foundryザ・ファンダリーが大きなブースを開き、ソフトウェアのデモを連続的に行い人気を博していた。
 今年は、展示において目玉といえる出し物は見当たらないが、展示会場には活気があり、開場時間は常に賑わっていた。CGに関する興味・関心が分散したことは、この業界が正しく成熟してきていることを示していると考えられる。

■画像利用に進歩 影の方向を自動解析し合成画像を発見
 論文発表は月曜日から木曜日まで行われた。480本が投稿され、115本が査読の結果採録された。採録率24%で、これは一流の学会といえる数字だ。今回は、この115本に加えて、ACM SIGGRAPHの論文誌「TOG」に採録された37論文の合計152本が発表された。この数は、過去のSIGGRAPHで最多の数字である。
 SIGGRAPHのテクニカル・プログラムでは、例年「ファスト・フォワード(早送り)」なる行事を論文発表開始前の日曜日晩に催している。これは、論文発表者が登壇し、自分の発表内容を30秒で説明するものである。例年、1分の時間が与えられていたが、発表論文の増加で、持ち時間は半減した。それでも、趣向を凝らしたプレゼンが続出し、アリーナを埋めた約2000名のテクニカル・プログラム参加者達は笑いの中に発表内容を捉えていた。
 論文は、マイクロソフト・リサーチ(アジアを含む)、アドビ、ディズニー・リサーチが関係したものが目立った。取得した静止画もしくは動画から情報を取り出したり、3D構造を取り出す「イメージベース」関連の研究に多くの進展が見られた。高精度の手ぶれ補正技術、通り(ストリート)の間欠撮影から3D情報を抽出する技術などが高い完成度を見せた。中でも注目を集めたのが、写真中の影の方向を自動解析して、合成画像を発見する技術の発表だった。この技術で、アポロ計画の飛行士が撮影した写真を解析したところ、影の方向はすべて一貫しており、合成写真ではないとの報告がなされ会場の笑いを誘っていた。
 3Dプリンタ関連では、設計データを基に重心位置を調整して、作り出した物体が常に自立するように成形する技術が現れた。また、3Dプリンタではないが、自立する構造物を自動設計する方法の提案もあった。
 計算写真学(コンピューテショナル・フォトグラフィ)関連では、フェムト秒単位での撮像技術を開発し光線が進む様子を記録した論文や、1枚のレンズを用いながらも演算処理の結果、複層レンズに近い画質を得る技術などが発表された。この技術が実用化されれば、レンズ業界に革命を起こしかねず、研究の進展が注目される。

ソフト、機器から書籍まで出展されている展示会場

ソフト、機器から書籍まで出展されている展示会場

人気のブースは、立錐の余地も無い状況

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貴重な情報が得られるセッションは、開場前から長い行列ができる

貴重な情報が得られるセッションは、開場前から長い行列ができる

#interbee2019

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