【プロダクション】 映画「ストロベリーナイト」におけるEOS C300の撮影とバスクによるトータル・ワークフロー

2013.2.27 UP

佐藤監督
右から田口氏、川村氏、高梨氏

右から田口氏、川村氏、高梨氏

映画「ストロベリーナイト」©2013 フジテレビジョン S・D・P 東宝 共同テレビジョン FNS27社 光文社

映画「ストロベリーナイト」©2013 フジテレビジョン S・D・P 東宝 共同テレビジョン FNS27社 光文社

雨を降らせた大規模な屋外ロケ。最後の撮影に使われた水は約50トンという

雨を降らせた大規模な屋外ロケ。最後の撮影に使われた水は約50トンという

アクションシーンで用いた4カメ撮影用レール。都内ホテルのガーデンラウンジを貸し切って撮影したという

アクションシーンで用いた4カメ撮影用レール。都内ホテルのガーデンラウンジを貸し切って撮影したという

 映画「ストロベリーナイト」は、フジテレビの人気テレビドラマ「ストロベリーナイト」の映画化作品だ。「ストロベリーナイト」シリーズの原作は、誉田哲也の人気ミステリー「姫川玲子シリーズ」。今回の劇場版は、この「姫川玲子シリーズ」の一つ「インビジブルレイン」のストーリーを映画化したもの。映画は全国311スクリーンで公開され、2013年1月26、27日の初日2日間で興行収入3.17億円を記録。また、観客動員数は24.1万人で、映画観客動員ランキング(興行通信社調べ)で初登場第1位となり、現在でも大ヒット上映中だ。
 佐藤監督はこれまで、数多くのテレビドラマ、劇場映画を手掛けてきた。2007年に公開された佐藤監督による映画「キサラギ」は、第50回(2007年度)ブルーリボン賞・作品賞、第31回日本アカデミー賞・優秀作品賞(2008年)などを獲得。佐藤監督自身もこの作品で、新藤兼人賞・銀賞、日本アカデミー賞・優秀監督賞を受賞した。
 今回の制作スタッフは、映画「キサラギ」のほか、映画「守護天使」(2009年)、映画「ブラック会社に勤めているんだが、もう俺は限界かもしれない」(2009年)などの佐藤監督作品にもスタッフとして参加している。撮影担当の川村明弘氏、映像(VE、Video Engineer)担当の高梨剣氏、編集担当の田口拓也氏は、いずれもバスクの所属で、今回の編集にはバスクの編集設備を使用している。
 今回、撮影にはデジタルシネマカメラ キヤノンCINEMA EOS SYSTEM C300(以下C300)を使用している。C300での撮影となった経緯や、実際の使用感、撮影後のワークフローなどについて、佐藤監督、川村氏、高梨氏、田口氏に聞いた。
(映像新聞 小林直樹) 

■「テレビとの連続性を保ちながら、映画ならではの映像を」
 テレビの人気シリーズを劇場映画化するにあたり、佐藤監督は、「これまでのファンに対して、テレビドラマのイメージを崩さずに、映画館で見るという特別な感覚も提供しなければならない」というテーマを掲げた。
 撮影担当の川村氏は佐藤監督の意向を受け、テレビの連続性を維持しながら、映画ならではの映像をつくり出そうと腐心している。「テレビでは2/3インチのCCDカメラを使っていて、今回はスーパー35サイズ。やはり玉の長さが違うし、距離感が違う。2/3インチだと長玉が使えて寄れるので、できるだけ手前にものをおいて、遠くから長玉でねらうというようなことも心掛けた。今回はそれができないので、逆に近いところで、近いならではの距離感で奥行き感を出したり、雰囲気を出すことを心掛けた」(川村氏)。
 「ただ、テレビシリーズとかけ離れた絵作りはいけないので、似たような印象を保ちつつ、そういうことを出せればと思った。16:9ではなく、シネスコ、横長のサイズで、フレームを切るときに意識した」(川村氏)
 監督はまた、映像(VE)担当の高梨氏に、至上命題として「竹内結子をきれいに見せること」を課した。「物語の関係上、雨降りのシーンが多い中で、登場人物の中で数少ない女優で主人公の竹内結子がきれいに見えなければ、この映画は失敗してしまう」とし、竹内結子の美しさがスクリーンでも保たれるように厳命した。
 「僕が基本的に、高梨に言ったのは『結子さんがきれいに写らないとダメ。映像のトーンが明るくなかったり、ブルーっぽかったり、グレーっぽかったりする中でも、結子さんがきれいに見えないと、この映画は失敗する。なんとしてでも、きれいにしてくれ』と」(佐藤監督)
 「ほぼ「紅一点」で主役である姫川玲子のキャラクターが、見る人にとって印象的にならないといけない。そうすることで彼女の強さやもろさが伝わる。姫川の話なので、いかに、姫川を出すか、というところが、勝負だった。そのために、メイクのファンデーションを工夫したり、セットのバックグラウンドの壁などもテストした」(佐藤監督)
 高梨氏は佐藤氏の指示への対応を次のように説明する。 
 「作品全体に雨のシーンが多いので、コントラストがなく、色がはっきりしない状態が続く。 理想としては水墨画のような、やわらかいトーンを出したいと考えていた。 多少陰があっても、コントラストを調整して抑えていた。照明もかなり気をつけて陰が出ないようにしていた。どうしても陰が出るところは後処理で修正した。ただ、あまりやわらかいトーンばかにりしてしまうと、男優の見え方までやわらかくなってしまうので、そこは気をつけた。特に、男優と女優がからむところは 現場で照明とうちあわせをして、バランスを考えながら進めた」(高梨氏)

■ 2種類のマウントでレンズを使い分け
 撮影には、EOS C300のPLマウント2台(うち1台は予備)とEFマウント1台で計3台用意したが、マルチカメラ撮影は1シーンだけで、その他の撮影時には1台しか使用していない。「すでにテレビドラマの制作時から、スイッチングやマルチカメラを使わずにワンカットづつ撮影するという映画の撮影手法に近い撮り方をしていた」(川村氏)という。「映画では、PLマウントで大半を撮影し、寄りのアップなどマクロレンズを使用する際は EFマウントで撮影した。回想シーンではシフトレンズを4種類と超ワイドレンズを用いている。
 フルハイビジョン(1920×1080)24P、CANON Logで撮影。劇場ではシネスコサイズで上映している。「CANON Logは、後でいじれる範囲が広いわりに、現場で生の映像を見ているのに近い感じで収録できた。現場の収録においてはすごく良かったと思う」(川村氏)
 現場での確認用のLUT(Look Up Table)は、映像(VE)担当の高梨氏が設定した。撮影現場では、17インチのモニターを用意し、監督、撮影担当をはじめスタッフ、キャストがモニターを確認しながら作業を進めるという、 テレビ番組制作と同様の手法を採っている。「照明担当などが違和感のないように、なるべくテレビの番組制作と同じ制作環境にした。収録したCANON Logは意外と絵が立っているので、そのままで見えることは見えるが、なるべく完成形に近い絵をモニター上で確認するために、デイシーン、ナイトシーン、両方に対応でき、照明が混乱しないようなLUTをつくった」(高梨氏)
 収録メディアは内蔵のCFカードと、一部Ki Proを用いている。Ki Proを用いたのは、映画の見せ場の一つでもある埠頭の霧雨の中でのシーンだ。濃い霧を表すために、ProRes422(HQ)、220Mbps、10bit、4:2:2で撮影している。「霧雨の感じが出るように、何度かテストをして、どこまで人物の違いが出るか、といったところを確認して決めた。昨年4月にDNxHDで収録できるバージョンがリリースされたが、まだ導入できなかったのでProRESで収録した」(高梨氏)。

■照明を減らし、地灯りを生かした絵作りも
 映画は上記のシーンも含め、8-9割のシーンが雨の情景だ。C300による雨のシーンの撮影について、川村氏は次のように話す。「C300は、感度がすごくよく、多少感度を上げてもノイズ感がなかった。カメラはそのときどきで調整したが、感度を上げてもノイズっぽくならないのでうまくできた。ナイトシーンの雨も、大規模に照明を当てなくても、雨粒の表現ができた」(川村氏)。
 高梨氏はC300によって「今までとは、撮影と照明のバランスのとり方が変わった」と評価する。「C300は感度が良いので、背景は地灯りをそのまま生かしたような絵作りができた。 雨降らしのシーンでも、まず感度を決めてから、雨を降らす範囲を決めて、あかりが足りない部分に足していく、というように、スムーズにバランスのとり方ができておもしろかった。本来なら、照明をあてないと見えない奥の方の街並みが見えているということもあったぐらいで、今までの感覚で照明さんが光を当てると、かえってあてすぎるということがあるぐらいだった」

■車中シーンで機動性を発揮
 車中のシーンは、停車中の車と移動中の車の両方があった。 C300のコンパクトな形状によって今回、車中の演技も実際の車内で撮影することができたという。
 「停まっている車中のシーンは、車中にカメラを入れて撮影できた。普通のカメラは大きすぎて狭い車内に入らないのでこうした撮影は考えられない。また、大きなカメラだと、近くに来てしまうが、それほどワイドにならずに撮れた。EOSは取っ手などをとることができるので、その点では撮影しやすかった」(川村氏)。
 通常、移動中の車は牽引しながら撮影するが、雨のシーンでは車を走らせながら背景に雨を降らせることはできない。そのため、「スクリーンプロセス」という手法を採用した。スクリーンプロセスとは、 停まっている車の車窓に面した位置にスクリーンを張り、移動している背景の映像を投写することで、あたかも走行しているかのように見せる手法だ。プロジェクターで投影した映像は照明の影響を受けてコントラストが無い「ねむい」映像になってしまうことが多かったが、高梨氏は、今回のスクリーンプロセスについて「スクリーンプロセスに見えない絵が撮れた」と話す。「感度を上げ、しっかりしたコントラストがとれたので、スクリーンプロセスのコントラストを出してから、中の明りを最小限に決めていくことができた。これにより、車中と車外のバランスを調整できた。こういう映像は感度の良いカメラでないとできないと思った」(高梨氏)

■4台のC300でマルチ撮影によるアクションシーンも
 劇中、唯一4台のカメラでマルチ撮影しているシーンがある。ホテルのラウンジで、大沢たかおが複数のヤクザと格闘をするシーンだ。映像はローアングルで、大沢たかおを足下からあおるよう見上げ、ヤクザと格闘する大沢の周りをかなり高速で回る。円い舞台の周囲にレールを敷き、「寄り」と「引き」のカメラを2台づつ対角に配置しながら撮影している。「寄り」のカメラは台車に直接乗せ、「引き」のカメラは台車の外側にヘッドをつけ、低位置に設置している。「カメラがコンパクトなおかげで、足下ぎりぎりまで映しても、対角のカメラが写らなかった」(川村氏)
 撮影は、相当な時間をかけて事前のリハーサルをし、その際に動きを確認し、カメラワークも決めていたという。全編、暗めの雨のシーンが多いため、このシーンについても、他のシーンとのバランスであまり明るいシーンにならないような配慮がなされた。早朝6時からのスタンバイで、明るい日の差し込まないうちに撮り終えるというタイトな予定がたてられた。「セッティングしたらすぐに撮影を始めなければならない状況だったが、1台だけセッティングを確認して、残りの3台はすべて同じセッティングにすることで、確認をせずに撮影を始めることができた」(高梨氏)。

■フィルムに近いトーン
 川村氏は今回、C300を使用した印象を次のように話す。「手軽にシフトレンズが使えるので、おもしろい映像が簡単に撮れた。一眼レフのカメラを持っているように撮れ、機動性も良かった。ビューファインダーの位置やユーザーインタフェースの操作性、暗がりでの操作のための手元のあかりといった細かい点などで、まだ改善の余地があるという感じは受けたが、今後、新機種に反映してもらえると期待している」
 高梨氏は、C300の印象を「どちらかというとやわらかい、フィルムに近いトーン」と言う。「一般的に高画質のカメラは、ぎらっとしてビデオっぽくなる。最近のデジタルシネマはぎらっとした画調が主流になりつつあり、フィルムっぽい画調は少なくなりつつあるかもしれない。CANONが出している画調は貴重かもしれない。そういう方向性は残してもらいたい」(高梨氏)

■AVID ISIS上でデータを共有し編集、カラーグレーディングを実施
 編集作業とカラーグレーディングはすべてバスクのAVIDシステム上で行っている。AVID ISISサーバーにDNxHD 115Mbpsでインジェストし、AVID Symponyでタイムライン編集、AVID DSでコンフォームを実施。並行してFilmMasterでグレーディング作業をしている。作業はすべて、ISISサーバー上のDNxHDファイルを扱っており、データはすべて共有されている。バスクにおいて、編集・カラーグレーディングが終了した時点で、IMAGICAの北斎で大型プロジェクターに投影しながら最終カラーグレーディングを行い、デジタル上映用の0号試写をしている。
 バスクはこれまで、佐藤監督の4本の映画制作に参加している。これにより映画制作におけるワークフロー構築を順次、進化させている。撮影、映像(VE)と編集が緊密に連携することで、後処理の効率を高めるとともに、昨年、FilmMasterを導入したことで、カラーグレーディングまでを内製化。これにより、編集―カラーグレーディングの自由度を大幅に向上している。
 編集担当の田口氏は、ISISを中心にした現在のワークフローの利点について、次のように説明する。「これまで、バスクにおける映画の業務はオフライン編集だけだったため、コンフォームやグレーディングを行うのに、ピクチャーロックをかけて他のプロダクションに行く必要があった。その時点で試行錯誤の機会は閉ざされてしまう。ピクチャーロックを一度かけてから他社にまたがって作業の修正をするのは、大変な作業になる」
 佐藤監督は「カラーグレーディングまでの試行錯誤ができたのは、大きなメリット。ISIS上では、ピクチャーロックをかけない状態でデータを保持しているので、カラーグレーディングの調整、編集の追い込みができた。本編2時間7分だが、1時間55分バージョンを作成して比較するといった試みもしている」と述べ、バスクでの作業工程を高く評価する。

■自社開発ツールで収録後の編集結果を遠隔で確認・修正指示も可能に
 バスクでは、撮影現場と編集スタジオとの緊密な連携を生かすため、自社内でツールも開発している。
 映画「キサラギ」では、佐藤監督自らが現場にラップトップパソコンにインストールしたAVID Expressを持ちこみ、撮影後のシチュエーションをその日のうちにつないで確認作業をしたという。同時に、バスクに素材を送り、編集結果をデータ量の軽いムービーにして、FTPサーバーにアップして確認作業をした。
 バスクは今回、こうした経験を生かして「Compass(コンパス)」というシステムを開発している。収録が終わるごとにデータをバスクに転送し、翌日までにバスクで仮編集をした映像を撮影現場で確認できるシステムだ。確認した映像についての変更の指示を監督から送ることもできる。
 佐藤監督は、今回「Compass」を利用した主なねらいについて「つないだ映像を見るのは確認の目的が大きい。これまでの物語のテンションを確認することで、翌日以降の撮影や演出の参考にする」と話す。
 開発を指揮した田口氏は、「Compass」のメリットを次のように説明する。「撮影素材の簡易編集、確認といった作業への短時間化の要求が増えてきており、今後さらに進んでいくと思う。現場に編集担当がべたづきで作業をするという選択肢もあるが、現場のスペースの制約があるケースもある。また、撮影現場での撮影の苦労を見てしまうことが、編集時に映像の取捨選択に影響してしまうこともある。撮影にどれだけ時間がかかったかを知らずに、おもしろいかどうかで編集できる立場も必要かもしれない。なるべく早くアップデートしながらも、編集者が客観的に映像をつなげる環境という点で『Compass』のようなシステムは有用だと思う」(田口氏)
 「Compass」の今後の方向性について、田口氏は「APIを使用し、メタデータをCGプロダクション、宣伝部などのクライアント端末へ提供できるまで完成度を高めていきたい」という。

©2013 フジテレビジョン S・D・P 東宝 共同テレビジョン FNS27社 光文社

右から田口氏、川村氏、高梨氏

右から田口氏、川村氏、高梨氏

映画「ストロベリーナイト」©2013 フジテレビジョン S・D・P 東宝 共同テレビジョン FNS27社 光文社

映画「ストロベリーナイト」©2013 フジテレビジョン S・D・P 東宝 共同テレビジョン FNS27社 光文社

雨を降らせた大規模な屋外ロケ。最後の撮影に使われた水は約50トンという

雨を降らせた大規模な屋外ロケ。最後の撮影に使われた水は約50トンという

アクションシーンで用いた4カメ撮影用レール。都内ホテルのガーデンラウンジを貸し切って撮影したという

アクションシーンで用いた4カメ撮影用レール。都内ホテルのガーデンラウンジを貸し切って撮影したという

#interbee2019

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