【NEWS】OLMデジタル 安生健一氏らによる「作り手の意図を推測しアニメ制作を効率化するツール」の研究がSIGGRAPHで発表 アニメーション演出を数理モデル化し直感的な作業から関連パラメータを導出

2014.8.2 UP

左上に示す実写画像を用いて決定したパラメータを用いてレンダリングされたCG による雲.実写画像の色と陰影を再現

左上に示す実写画像を用いて決定したパラメータを用いてレンダリングされたCG による雲.実写画像の色と陰影を再現

写真左から、土橋、落合、安生の3氏

写真左から、土橋、落合、安生の3氏

■SIGGRAPHで日本のプロダクションが発表
 世界最大のCG、インタラクティブコンテンツに関する催しSIGGRAPHが今年も8月10日から14日まで開催される。毎年、米国・カナダで開催し、学会や教育プログラム、上映会、展示会など、幅広いCG関係者が集う。今年のSIGGRAPHで、日本のCG会社大手のOLMデジタルのR&Dスーパーバイザーであり、日本を代表するCG研究者の一人である安生健一氏がCGの最新技術について2つの講演に登壇する。
 「Mathematical Basics of Motion and Deformation in Computer Graphics」(CGにおけるモーションと変形についての数学的基礎)と、「Scattered Data Interpolation for Computer Graphics」(CGのための分散データの展開補間手法)の二つで、前者は九州大学の落合啓之(ひろゆき)氏と、後者はニュージーランドのウェタ・デジタルのJ.P.ルイス氏とともに講演する。
 今回のこの2つの講演は、CGアニメーション制作の演出を数理モデルで解き、コンピューターによって、より効率的な制作を実現しようという研究の一環だ。アニメーション、CG制作はコンピューターによる作業でありながら、現在でも手作業が多く労働集約的な側面が課題として取り上げられることもある。安生氏らが進めている研究は、アニメーション、CG制作において、演出意図を充分に反映しながら、制作効率をより高めるためのツール開発を、数学の理論を用いて実現しようという意欲的な試みだ。
 タイトル上の画像は、顔の表情の一部を変更する(画面左)ことで、制作者の意図(どのような表情の変化をもたらしたいか)を推測し、自然な表情の結果を生成した様子(画面右)。本文右側の画像は、同様の理論で実写画像の情報をアニメ制作に適用した例だ。

■日本の科学技術研究の成果として表彰
 上記の2つの講演の基となる、安生氏らによる研究が、さる4月15日、「科学技術分野の文部科学大臣表彰」文部科学省から表彰された。「科学技術分野の文部科学大臣表彰」は3つの対象分野からなる。一つは、我が国の科学技術分野において、顕著な功績を挙げたものを対象とした「科学技術賞」、もう一つは、高度な研究開発能力を有する若手研究者を対象とした「若手科学者賞」、そして、優れた創意工夫により職域における技術の改善向上に貢献したものを対象とした「創意工夫功労者賞」の三つだ。
 安生氏らの受賞は、このうち「科学技術賞」におけるもので、対象は「CG映像制作のための演出技術の数理モデルに関する研究」。同研究で、安生氏と、九州大学マス・フォア・インダストリ研究所教授 落合啓之氏、北海道大学准教授 土橋宣典氏の3人がともに受賞した。

■映像制作の利便性向上のための数理モデルを構築
 受賞した研究は、CG(Computer Graphics)を用いた映像制作において、アニメータなど作成者の利便性向上のための数理モデルの構築を行ったもの。
 CG分野と数学分野の研究者とが協働することによって実現した。本研究では、3次元CG において最も重要かつ困難なキャラクター(人間や動物など)や流体を対象として、映像の作り手の意図を直接的・直感的に指示できる新しい数理モデルを構築した。色や形に関する演出情報から、3次元アニメーションに関する諸パラメータを推定するという逆問題を解くアルゴリズムを構築した。

■制作者の作業から演出意図を推定し、パラメータを自動生成
 たとえば、人間の表情のアニメーション作成では、特定の表情から別の表情へ変化するアニメーションを作成する際、最初の表情から最終的な表情へと変化する顔の各部位を動かす。このとき、顔の3次元形状モデルが自然に、しかも意図に合った表情の変化をするように見せるため、手動で多数の数値パラメータを調整することになり、極めて煩雑な作業となる。
 研究では、制作者が顔の一部を直接変形することで、制作者の意図を推測し、目的の表情を生成するための顔全体の数値パラメータを算出する手法を開発した。つまり、最初の数ステップの作業から作り手の演出意図を読み取り、それ以降の煩雑な作業をせずに結果となる映像(のパラメータ)を導き出せる。作者の意図から外れることなく、作業の大幅な効率化が図れる。さらに、実際の顔のモーションキャプチャーのデータから、顔の動きについての相関を学習することで、効率よく作業ができる手法も考案したという。

■実写画像から特性を読み取り、CGペイント処理へ摘要も可能に
 同様に、キャラクターの陰影表現でも、パラメータの自動生成を実現している。1体の3次元モデルにペイントした陰影情報から、作り手の演出意図を読み取り、他のキャラクターへも自動で演出意図を反映したペイントができる手法を開発した。動径基底関数(RBF:radial basis function)を用いた補間処理を施すことによって実現している。元となるペイントの代わりに実写の画像を用いることで、実写の特性を3Dアニメに適用することも可能だ。

■本格化する数学的手法のCGへの活用
 今回の受賞者の一人、安生健一氏は長年、数学的な手法をCG制作に用いることで、よりリアルな表現を可能にしたり、アニメにおける制作手法の効率化を実現してきた。1992年には、世界で初めて髪の毛のアニメーションを発表し、SIGGRAPHでも上映され、注目された。
 今回の受賞について、安生氏は次のようにコメントしている。
 「今回の受賞は、デジタル映像におけるリアリティや演出という、従来の自然科学では扱っていなかったテーマに対する我々のチャレンジが評価頂けたものと感じています。少し大げさな言い方なですが、CG研究が日本における科学の一つとして認めて頂けたという意味でも大変光栄であり意義深く、また身の引き締まる思いです。も致します」
 「CG技術開発においては、もともと最適化手法や学習理論など、様々な数学的手法が用いられてきました。特に最近の10年間では、CGでにおけるの技術的問題の難易度が上がり、微分幾何学やリー理論、関数解析など、より本格的な数学的アプローチの必要性を感じつつ、CGと数学のより本格的な融合を目指して参りましたきました。ただし、まだその融合への緒に就いたばかりであり、より多くの方にこの分野へ歩みよって頂きたいです。歩み寄って頂き、CG研究の発展が、エンターテイメント分野のみならず、建築や医療、数値シミュレーション、教育など、日常的な社会生活を豊かにする要素として寄与できるようになればと期待しています。が、実り豊かな未来社会へ貢献できることを祈念しています」

(写真説明)
 本研究による成果事例:
 (上) 顔モデルへの直接操作による表情の編集: 既存アニメーションデータから、顔の動きの相関について学習することで、少数の制御点( 印) を移動ないし固定することで、顔全体の自然な表情が形成される.
 (右上) 3次元の雲のモデルの陰影を写真等の実写画像の情報から推定する: 左上に示す実写画像を用いて決定したパラメータを用いてレンダリングされたCG による雲.実写画像の色と陰影が再現されている.

左上に示す実写画像を用いて決定したパラメータを用いてレンダリングされたCG による雲.実写画像の色と陰影を再現

左上に示す実写画像を用いて決定したパラメータを用いてレンダリングされたCG による雲.実写画像の色と陰影を再現

写真左から、土橋、落合、安生の3氏

写真左から、土橋、落合、安生の3氏

#interbee2019

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