【コラム】米映画見本市AFM報告(2)北米映画市場めざして世界から売り込み 急成長するアニメのネット配信ビジネス

2015.1.23 UP

JETROが設置した日本の作品を売り込むためのレセプション・ルーム

JETROが設置した日本の作品を売り込むためのレセプション・ルーム

会期中、ホテルのプールサイドでは様々なパーティが開催された

会期中、ホテルのプールサイドでは様々なパーティが開催された

会場ロビーにも、ロシア作品の売り込み広告が目立っていた

会場ロビーにも、ロシア作品の売り込み広告が目立っていた

 北米最大級のフィルム・マーケット、アメリカン・フィルム・マーケット(AFM)が11月5日から12日までの8日間にわたって、カリフォルニア州のサンタモニカで開催された。「フィルム・マート」の参加者は、所有する作品の版権を海外市場に販売する「sale」と呼ばれる役割と、海外映画の版権を自国向けに購入するバイヤーの「buy」に大別される。作品の版権を販売する会社は、ブースを構え、自社作品のポスターを掲げ、そして作品の資料を用意してバイヤーと商談を行う。今回も、JETROが「Japan booth」と題して大きなレセプションルームを設置。ここでは日本から参加した全11社がブースを構えていた。AFM視察レポートの第2回目は、「日本映画が北米市場でどのように受け入れられているのか」を中心にご紹介する。
(鍋潤太郎、溝口稔和)

■立ちはだかる英語の壁
 一般に、日本の実写映画が北米で劇場公開される機会は多くない。過去に、ある程度の規模で北米配給された日本の実写映画はアカデミー外国語賞を受賞した『おくりびと』や『Shall we dance?』など。すぐに思い浮かぶ作品は数えるほどである。
 実は、英語以外の「外国語作品』の映画にとって、この状況は同じである。北米での劇場公開が難しいのは日本の作品だけではないのだ。
 理由のひとつとして、北米の観客は「英語字幕や吹き替えを伴う外国語作品を敬遠する」傾向がある、という事情が挙げられる。
 外国語映画が北米で上映されるのは、ほとんどの場合、各都市で行われる映画祭やシネフィルを対象とした大都市にある小規模アート系シアターとなる。通常は、北米市場で「受け入れられそうだ」と判断された外国語の映画は、そのまま公開されることは少なく、アメリカ資本の映画製作会社にリメイクの版権を買い取られ、現地の俳優を使って英語でリメイクされることが多い。
 例えば、フランス映画『ニキータ』が、米国で『アサシン』としてリメイクされたり、日本映画だと『リング』『呪怨』などのJホラー作品や、最近では『ゴジラ』のハリウッド・バージョン『Godzilla』などが挙げられる。 
 もうひとつの理由として、日本の映画企画が海外市場を意識したものというよりは、日本国内市場向け内容という傾向が強い、ということが挙げられるようだ。
 今回のAFMで、JETROの「Japan booth」においてお話を伺った日本企業の担当者の方からは「日本は、中国に続いて世界で3番目の市場規模を持つマーケットを持っており、国内市場だけでもある程度ペイできるため、海外市場を念頭においた企画は少ない」という話も聞かれた。

■両立しにくい?「国内市場」と「北米市場」
 また、別の担当者のお話によると「日本で受け入れられやすい企画ほど、北米市場で受け入れられにくく、逆に北米市場で受け入れられることを考慮した企画にすると、今度は日本で受け入れられなくなる」というジレンマがあるという。
 日本の映画会社にとっては、日本国内だけである程度の市場があり、海外市場を意識した企画を進めるよりも、リスクの少ない国内市場を意識した企画が必然的に多くなるという。
 では、他の諸外国の場合はどうなのだろうか。今回AFMで、近年成長が目覚ましいロシア映画のブースを訪問してみた。そこで見られたのは、『怪僧ラスプーチン』や『エカテリーナ』など世界的に知名度がある自国の歴史上人物のドラマシリーズであったり、ハリウッド映画を意識したアクション映画作品であったり、「海外市場進出を意図して企画された」と思われる作品であった。
 そんな状況の中、JETROの「Japan booth」において期待を抱かされたのが、東北新社のブースで紹介されていた押井守監督の実写版『THE NEXT GENERATION パトレイバー』である。AFM取材時点では、この作品は現在製作中ということで数分のプロモーション映像が公開されていた。ご存知のように押井守監督は、北米でもファンが多く、アニメファンの間でも知名度が高い。北米のマニア層を中心とした観客に受け入れられることが期待できそうだ。

■北米市場に向けたローカライズ
 日本映画が北米で受け入れられにくい状況を打ち破ろうと、新たなコンセプトを掲げる会社も参加していた。日本の企画をハリウッド市場向けに開発する会社「STORIES」である。「STORIES」は、博報堂DYグループとセガが出資して設立した製作会社。日本の持つ優れたコンテンツを用いて、北米市場向けに実写作品を製作することを意図している。
 代表の鈴木智也氏は南カリフォルニア大学フィルムスクールのプロデューサー学科を卒業している。学内で培った「ハリウッド村」での人脈を活かして、北米向け企画を進めていくという。マンガやアニメなど、世界に受けいれられる優れた企画を持ちながら、なかなかうまく「マネタイズ」できないといわれる日本の現状を打破すべく、今後の動向が注目される。

■3Dアニメの売り込みに力をいれる国も
 外国語の実写映画作品は北米市場で受け入れられにくい現状がある。しかし、3Dアニメーション企画は、外国の製作会社にとって北米市場進出のチャンスが多く残されているという。言語を吹き替えた場合に実写よりも違和感が少ないのだ。実際、ロシア、中国、韓国などの多くの外国企業が、北米市場に3Dアニメーション作品を売り込もうとしていた。
 一方、日本の作品の場合、これまでにも『ポケモン』に代表される子供向け作品や、北米でも人気の『攻殻機動隊』、そしてスタジオジブリと宮崎 駿監督作品などなど、「Anime」として北米市場でも受け入れられている土壌や下地が既にある。 
 そのためか、他国とは異なり、3Dアニメ作品よりも2Dアニメ作品の展示がメインになっていた。これは、他の国と比較してみると、興味深い点であった。

■北米市場での日本のアニメ作品
 日本のアニメ作品は、北米でどの程度受け入れられているのであろうか。北米での日本のアニメ作品劇場公開では、1999年に『Pokemon The First Movie』が3,100万ドルのヒットを記録した例がある。その後、ジブリ作品が米ディズニーの配給によって北米で限定公開された実績はあるが、日本のアニメーション作品は全米3,000館規模の大規模な全米配給には至っていない。
 ただ、日本のアニメーション作品が北米のアート系シアター等で単館上映される例は時々見られる。2010年には『サマーウォーズ』がロサンゼルスのアート系シアターで公開されている。最近では、14年12月に東映アニメーション製作の劇場公開アニメ作品『楽園追放』がニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ、サンディエゴ等の主要都市15箇所において期間限定で公開された。
 一方、北米テレビ市場では、『ポケモン』、『恐竜キング』、『ドラえもん』等の子供向けTVアニメシリーズ作品が放映され、人気を博している。しかし、大人向けアニメ作品の場合、日本のアニメ独特の暴力描写や性描写などのため、北米の厳しい放送規制に引っかかるケースもあり、北米でのテレビ放映が難しいという側面もあるようだ。

■急増する日本アニメのネット配信
 そういった中、北米で勢いを伸ばしているのがネット配信だという。今回のAFMで出展していた、日本のアニメ・コンテンツを中心に、北米での版権販売を行っている米企業の担当者によると、北米で版権販売を行っている作品の売り上げの内訳では、8割ほどがネット配信になっているという。
 レンタルビデオ業界が衰退した北米ではアニメに限らず、Netflix(ネットフリックス)やHulu などのネット配信が勢いを伸ばしている。その中でも特筆すべきは日本のアニメを中心に配信するCrunchyroll(クランチロール)で、同社は有料会員数を12年では10万人、13年に20万人、14年には40万人に達しており、ここ数年ほぼ毎年倍増しているという。
 これらの勢いを見る限り、日本のアニメは北米においては、ネット配信を中心にビジネス展開していく機会が増えていきそうだ。
 日本にも優れた作品は多く、中にはまだ海外で知られていない作品も多い。そういった優れたコンテンツが、AFMのようなフィルムマーケットをバネに、海外で羽ばたく機会が増えていくことを期待したい。

JETROが設置した日本の作品を売り込むためのレセプション・ルーム

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会期中、ホテルのプールサイドでは様々なパーティが開催された

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会場ロビーにも、ロシア作品の売り込み広告が目立っていた

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#interbee2019

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