【NAB 2014】プロダクション自らがクラウド構築し作業を効率化、ディズニーは映画館でのセカンドスクリーン検討

2014.4.25 UP

サミット会場においてセカンドスクリーンの実演がなされた(参加者が自らのスマホ、iPad等で確認している)

 SMPTEとNABが主催する、Technology Summit on Cinemaは、4月5日、6日の2日間にわたって開催された。サウスホール2階のS222会議室に満席の400人を集める盛況ぶりだった。今年は、4K対応に加えて、HDR(ハイダイナミックレンジ)が大きな話題となった。プロダクションにおけるクラウド利用は、昨年までの「クラウドを使う」から「(自社に最適な)クラウドを作る」にまで話題が進んだ。テレビで話題のセカンドスクリーンは、米The Walt Disney Studiosが、各種の実験の結果を発表した。
(映像新聞 論説委員/日本大学 生産工学部 講師 杉沼浩司)

■プロダクションが自らクラウドを構築 プロジェクトごとに業務管理効率化
 米Digitalfilm TreeのCEOであるRamy Katrib氏がオープンソース・プロジェクト「OpenStack」を用いたクラウド構成を解説した。プロジェクト毎に独立したクラウドを作り業務管理を行っていることが示された。OpenStackは、米Rackspace Hostingと米NASA(航空宇宙局)が始めたクラウドコンピューティングのプロジェクトで、現在は200以上の企業が参加するNPOが管理している。Digitalfilm Treeは、約1年間の作業期間を経てクラウド構築の手法を獲得し、現在はプロジェクト毎にクラウドを立てて業務を行っている。100テラバイトの容量を持つクラウドを1万ドル以下で構築できるといい、価格的にも十分にペイする。システム管理と業務管理の双方が容易になる点を利点にあげていた。

■ディズニースタジオが映画のためのセカンドスクリーンを検討
 映画館にもセカンドスクリーンがありうることは、一昨年のサミットでも指摘されている。当時、技術的な可能性は認めるが、映画館で隣席で明るいタブレットを使われてはたまらない、といった反応が支配的だった。明るいタブレットが鑑賞の妨げになることは変わらないが、タブレットを持ち込むことが現実的になってきた。The Walt Disney Studiosは、これまで家庭でのブルーレイ視聴時にiPadをセカンドスクリーンとするためのアプリケーションを開発している。同社は、映画館でのセカンドスクリーン利用について受容度を調査するためにNightmare Before Christmas(以下、NBC)とLittle Mermaid(以下、LM)の2作品に対して「館内用」アプリを開発した。映画館用セカンドスクリーン対応について、同社のKumari Bakhru氏は「映画館への観客誘導のため」と明確な目的を挙げていた。アプリがこの目的を達せられるかの調査が昨年行われ、NBCのトライアルでは75%が「大いに気に入った」22%が「気に入った」と答えたと報告された。「どちらでもない」が3%で、否定的な評価は為されなかった。「この種の上映に今後も行きたいか」との問には「必ず」が52%、「恐らく」が22%で、高評価を得ている。
 今回、NBCのコンテンツが約10分間上映され、事前にiPadにアプリをダウンロードして持参した人々が体験できた。アプリへの没入感は強かったようで、予定時刻で上映が打ち切られると会場内の各所から悲鳴があがっていた。

■RealDが"理想の3Dスクリーン"を研究開発
 3D上映に使われる円偏光方式の上映法は、メガネのコストは低いが、シルバースクリーンという特殊なスクリーンを必要とする。スクリーンの張り替えに、シアターを閉じる必要があるし、最適視聴区域も狭くなる。にも関わらず、ランニングコストの低さが受け入れられて、全世界で2万5000以上のスクリーンが導入されている。
 問題の多いシルバースクリーンを改良する過程を、カナダのRealD社でCTOを務めるGary Sharp博士が解説した。シルバースクリーンの問題点は、反射効率を上げ表面の微細部分の平滑化が必要になるという。ただし、レーザープロジェクションが効果が大きく、スペックル(光の干渉によりザラついてみえる現象)の抑制も、スクリーンを細かく振動させればよい、との実験結果が示された。新世代のレーザープロジェクタ導入時に、レーザー投射に最適化されたスクリーンを導入することになりそうだ。

■欧州企業の投射型ライトフィールド・ディスプレイに注目
 正確な裸眼立体視が可能な方法として「ライトフィールド・ディスプレイ」の技術がある。空間にある光線の情報をすべて取り込みディスプレイ上で再現するため、視点を動かせば、見えていなかった部分が見え始める、といった効果がある。単純に多視点化した立体視では、視点を動かすと対象がギクシャクとして見えてしまう。
 背面投射型ライトフィールド・ディスプレイを長年製作しているHolografika(ハンガリー)のTibor Balogh社長兼CEOは、同社が前面投射型のライトフィールド・ディスプレイの開発に成功したことを報告した。デモビデオでは、カメラが動くと、スクリーンに投射された物体の見え方が変わる(最初は隠れていた面が、動きに合わせて見え始める)様子が示された。ライトフィールドにより、撮影時の光線を保存しているため、カメラの動きに合わせた変化が観察できる。視点位置が固定されるタイプの裸眼立体視では、このような見え方はしない。
 Holografikaは、欧州ではよく知られた企業であるが、米国で登場する頻度は少ない。このためもあってか、会場内の関心は高かった。

■4K本格化に火を付けたNetflixの「4K納品義務化」 映画館は集客減を警戒
 今回のサミットは、4Kが本格化したことで、それにまつわる問題解決へ勢いがついた感がある。2000年代に英BBCが1080i納品を事実上の義務化としたことで一気に1080i採用へ動いたように、「Netflix への4K納品」が4Kに火を付けた感がある。このままでゆくと「最高のユーザー経験」は映画館ではなく、家庭で得られるようになる。サミットでは、映画館の設備更新の遅さについての指摘があった。サミット自体は技術を論じる場であるため、映画館側を非難するような発言は無かったが、現在のような更新の遅さでは「最高のユーザー経験」を得られる場所が変わってしまうとのメッセージは何度も発せられていた。

【After NAB Showが5/22、23 東京、5/27 大阪で開催】
 NABの出展企業が一堂集まり、実機や最新技術を紹介する催し「After NAB Show」が5月22日(木)、23日(金)に東京、5月27日(火)に大阪で開催されます。参加企業は、東京、大阪ともに30社以上。また、22日(木)には、ジャーナリストの石川幸宏氏がNAB報告を、23日(金)、27日(火)には、映像新聞 論説委員の杉沼浩司がNAB報告を行います。
 NABの最新情報が満載のイベントです。参加無料。4/30より専用サイト(www.after-nab.jp)にて、入場が便利な事前参加登録の受付を開始します。詳細は、専用サイトでご確認ください。

 

#interbee2019

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