【プロダクション】映像作家・フォトグラファー 貫井勇志氏インタビュー 4Kカメラを駆使した作品展『FLAME FRAME』 高精細な撮影データから静止画と動画の2作品を構築する新たな試み

2013.2.7 UP

『FLAME FRAME』撮影中の貫井氏
「写真と映像、それぞれの作品を見て、自由にイメージを膨らませ、それぞれにストーリーを感じてもらいたい」と話す貫井氏

「写真と映像、それぞれの作品を見て、自由にイメージを膨らませ、それぞれにストーリーを感じてもらいたい」と話す貫井氏

 映像作家・フォトグラファーである貫井勇志氏の作品展『FLAME FRAME』(フレーム フレーム)が、2月14日から20日まで、キヤノンの銀座ギャラリーで開催される(大阪は3月14日から19日まで)。『FLAME FRAME』は、キヤノンのCINEMA EOS SYSTEM EOS-1D C(以下 EOS-1D C)で撮影した映像と写真の作品。恋愛中の若い男女が主役で、デートを前にした二人の日常と、互いのことを思い浮かべたイメージ(妄想)を描いているストーリー作品だ。
 ギャラリーでは、EOS-1D Cで撮影したデータから、動画と静止画をそれぞれ別個の作品として展示している。4Kディスプレーに表示される映像作品には、セリフや効果音などが一切ない。静止画は、複数のプリント作品からストーリーがたどれるようになっている。いずれもEOS-1D Cで撮影した同じデータをもとにつくりだしており、それぞれが一つの作品として構成されている。『FLAME FRAME』の撮影終了後、編集制作真っ最中の貫井氏を訪ね、今回の作品の経緯やEOS-1D Cの特徴を生かした作品の撮影手法、作品展示の方法などについて聞いた。
(映像新聞 小林直樹)

■「EOS-1D Cならではの実験的な試み」
 貫井氏は、今回の作品『FLAME FRAME』のねらいを次のように話す。「4K解像度まで撮影できるEOS-1D Cならではの実験的な試みを考えた。もともと、映像と写真は視覚のコミュニケーションだが、伝わるイメージは異なる。それぞれの作品を見て、自由にイメージを膨らませ、それぞれにストーリーを感じてもらいたい」
 今回のプロジェクトは、キヤノンがEOS-1D Cを用いた作品展の実施を貫井氏に持ちかけたことが発端となっている。貫井氏は現在、ソニーのα900(現在はα99で撮影)で世界遺産を撮影するプロジェクトを2008年の9月から展開中で、年間を通じて世界遺産の撮影活動をしている。『FLAME FRAME』の制作は、その合間を縫う形で行われた。
 制作が決まったのは、 貫井氏がペルーの撮影取材から帰国した昨年12月23日。年末年始の休み中に構想を練り、実質的に動き出したのは、年明け早々の1月7日からだった。
 元IMAGICA USAのテクニカルディレクター 松永勉氏に制作を依頼し、その後、短期間で25人のスタッフが集まった。松永氏は、貫井氏が在米時の2002年に手掛けた自主制作映画『血族』(2004年公開、貫井氏が自ら監督・撮影・脚本を担当)でもプロデューサーを担当した。当時、松永氏は映画『血族』に専念するために、IMAGICA USAを辞している。いわば「肝胆相照らす」間柄といえるだろう。集まったスタッフも、これまでの仕事でのつながりがある中、「またやるよ、と声をかけて集まってくれた。互いに勝手の分かる仲」(貫井氏)だという。

■「XL1」で自主制作映画『血族』を、「XL-H1」で短編映像『幻海』を撮影
 キヤノンが今回、EOS-1D Cの作品展の企画を提案したのも、映画『血族』と関係が深い。映画『血族』では、キヤノンのデジタルビデオカメラ「XL1」を用いている。貫井氏はその後、海賊をテーマにした時代劇『幻海』を構想し、キヤノンのXL-H1で本編を想定した予告編ともいえる短編映像を製作している。作品はユナイテッドシネマ豊洲の劇場スクリーンで5.1chサラウンドで2007年に上映された。貫井氏は、『幻海』を壮大なスケールの時代劇として想定しており、その構想を作家の伊藤潤氏に伝えることで、伊藤氏によって小説化されている。その後、貫井氏が制作した短編映像をもとに、伊藤潤氏の同名小説を紹介するプロモーション映像が作られ、ネットでも公開されている。
 『幻海』では、4台のカメラを一つのリグで操作したり、山道をバイクで走りながら馬の疾走シーンを併走撮影するなど、工夫を凝らした撮影を試みている。『血族』、『幻海』といった、スケールの大きな映画製作や、 挑戦的な画づくりの試みは「撮影機材への投資を抑える分、スケールのある映像づくりに予算を使うことができる」(貫井氏)というように、比較的安価な高精細デジタルカメラが登場したことで可能になっている面もあるようだ。

■14年にわたるキヤノンのデジタルカメラとのつきあい
 こうした中で、キヤノンのデジタルビデオカメラ開発者の求めに応じ、映像作家、フォトグラファーとしてアドバイスをしてきた。
 「14年にわたって、写真、シネマといったテーマで、レンズ開発者や色々な人と話をしたので、EOS-1D Cができた流れはよく分かる」(貫井氏)。昨年のInterBEEでは、EOS-1D Cで撮影した短編作品『東京散歩』を発表している。これが貫井氏がEOS-1D Cを手にして初めて制作したものだ。『東京散歩』は、東京都内を散歩して撮影した作品で、「ファーストインプレッションを得るためのもの」だったという。そのため、『東京散歩』では、EOSのピクチャースタイルで撮影する程度で、CANON Logを駆使するといったことはなかったが、それでも「『これは撮れる!』と感じた」という。
 「EOS 5Dでは、フォーカスや被写界深度の操作性が、映画上映に耐えるだけの精度を出せていなかった。しかしCINEMA EOS以降、シネレンズに対応し、撮影時のフォーカスや被写界深度の操作性を大幅に改善し、映画を撮影する環境が整った。さらにEOS-1D Cで解像度も4Kとなって、いろいろとチャレンジできるカメラだと感じた」(貫井氏)
 
■「モデルの写真撮影に近いスタイル」
 これまで手掛けてきた映像作品では、綿密な脚本が用意され、殺陣など、長期間の練習・リハーサルが行われた上、セットをなじませるために1カ月ぐらい野ざらしにするなど、時間をかけてきたという。しかし今回は5日間という短い期間での撮影となった。主人公を務めるのは、二人ともファッションモデルだ。(男性は俳優としても活躍中)
 今回の撮影スタイルについて、貫井氏は次のように説明する。「絵コンテや脚本は、作っているが、役者には見せていない。 撮影前に、現場で簡単なシチュエーションを説明して、それにあわせて演技してもらう。あたかもモデルを撮影するアプローチでカメラを回した。そのときに撮れた映像をもとに、ストーリーが構築できるように編集して5分間の動画にまとめる。写真も撮影した映像のコマを使っている。ばらばらに画像を抜き出すのではなく、ストーリーのあるように見える。これはおそらく初めての試みだろう」(貫井氏)

■映像と写真、2つの作品で異なる印象を提供する
 映像作品にはセリフも効果音もBGMもない。「セリフや効果音、音楽があると、4Kの映像作品の単なる切り出しをならべているようになってしまう。映像は、写真を撮るための素材、というか写真の被写体となった人たちのバックグラウンドを感じてもらうためのもの、というぐらいに控えめにした」。
 「写真も映像も、まぎれもなく同じEOS1D-Cで撮影した同じデータから抽出したものだが、静止画から見える表情から映像とはまったく違うものをくみ取ることもあるのではないか。 また、逆に写真を見てから、映像で役者の動きやカメラワーク、カット割りやシーンの長さなどを見て、ストーリーや作家の言いたいことを感じることもあるかもしれない」(貫井氏)

■「きらっと燃える人生の一コマ」
 『FLAME FRAME』は、貫井氏としては初めて恋愛をテーマにした作品になる。「展示会の日程が2月14日のバレンタインデー(大阪はホワイトデー)だったので、それにちなんだものを、と考えた」(貫井氏)という。タイトルの『FLAME FRAME』は、「FLAME」が炎、「FRAME」はコマ、枠などの意味で、人生の一コマ、きらっと燃える瞬間といったニュアンスだ。また、「FLAME」と「FRAME」がLとRの1文字のみが違うという点も、作品の中でキーポイントとして生かされている。
 『FLAME FRAME』の次回作の構想は今のところないが、構想時点で、これまでの二人の出会いの経緯や、デートの後の展開などは背景として考えられている。「要望次第では、そうした部分を作品化する可能性もある」という。




 

 

「写真と映像、それぞれの作品を見て、自由にイメージを膨らませ、それぞれにストーリーを感じてもらいたい」と話す貫井氏

「写真と映像、それぞれの作品を見て、自由にイメージを膨らませ、それぞれにストーリーを感じてもらいたい」と話す貫井氏

#interbee2019

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