Inter BEE 2024 幕張メッセ:11月13日(水)~15日(金)

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Industry Curation 2026.02.09 UP

【Inter BEE CURATION】イスラエル問題で大紛糾 「世界最大」の音楽イベント

稲木 せつ子 GALAC

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2026年2月号からの転載です。

若者が視聴を支える「お宝番組」

テレビ離れが進む昨今、生放送の威力を保っているのが、欧州の歌謡コンテスト、
ESC(Eurovision Song Contest)の中継だ。
欧州放送連合(EBU)に加盟する公共放送が共同開催するイベントで、毎年5月に各国が選出した代表歌手がオリジナルソングと歌唱力を競う。

参加国数(※EBUに加盟しているのは、56カ国の放送局だが、ESCの参加国数は毎年変動する(オーストラリアは番外で2015年から連続出場)。ロシアはウクライナ侵攻以降、資格停止中)やグローバル視聴数から、「世界最大の音楽イベント」と呼ばれている。日本には馴染みがないが、ABBAやフリオ・イグレシアスはESCで優勝し、大スターになった。
最近では、イタリアのマネスキン(2021年優勝)が有名だ。

25年の決勝生中継(ネット配信含む)では、1億6600万視聴という記録を打ち立てた。主催国スイスでの視聴率は48%(同局平均の倍以上)を達成。
画期的なのは若者層(15~24歳)の視聴率が60・7%と、テレビ離れが進む層が視聴を支えた点だ。
スカンジナビアでは驚異的な80%超えを記録。半数以上の局で50%を超すこの「お宝番組」には69年の伝統があり、多様な欧州文化を代表する存在とも言える。

地元自慢になるが、25年に優勝したのはオーストリアの国立オペラ劇場でモーツァルト『魔笛』に出演していたカウンターテノールの青年JJ(ジェイジェイ)で、当地は10年ぶりの勝利に沸いた。
優勝国が翌年のホスト国になる慣例に従い、70周年となる今年のESCは、同国のオーストリア放送協会(ORF)がホスト局となる。

ところが昨秋、これに赤信号がともった。というのも歴史的な事情で、栄誉あるホスト役の辞退を、迫られかねない事態が起きたのだ。ことの発端は、25年の決勝直後に浮上したイスラエルの得票操作疑惑だ。2位となった同国が獲得した視聴者の得票数(大差で1位)と、審査員の投票数(14位)が不釣り合いだった。
ちなみに優勝したオーストリアの歌手は、いずれの評価でも高得点を得ていた。

イベント直後、Eurovision Newsの調べで、イスラエル政府広告局がGoogleの全プラットフォーム(YouTube含む)で多言語のターゲティング広告を流し、イスラエルに「最大20回の投票」をするよう促していたことが判明した。意図的に評価を上げようとしたイスラエルの行為は、ESCの政治利用だとの声があがった。

24年にも似た疑いがあり、25年7月に開かれたEBUの総会で、スロベニアがイスラエルを名指しで批判。
「来年もイスラエルが参加するならスロベニアは参加しない」との立場を表明した。また、イスラエルによるガザ(パレスチナ自治区)への攻撃が非人道的と非難の的になっており、イスラエルの行動がESCの精神に相容れないとする、スペイン、オランダ、アイルランドなどがボイコットの輪に加わった。

歴史的な責任か、人権尊重か

25年10月に、アメリカの仲介で、イスラエルとハマスとの停戦合意が結ばれてほどなく、ドイツのメルツ首相がイスラエル擁護に出た。イスラエルがESCから排除された場合の対応を問われ、「これが問題になっていること自体がスキャンダル。
イスラエルは参加資格がある」と明言し、同国が排除された場合、ドイツは参加しないとの考えを示して、関係者を動揺させた。

オーストリアも先の大戦でユダヤ人迫害をした過去を持つ。
ドイツのようにイスラエル擁護=参加辞退をすべきとの議論が起き、同国政府はイスラエルの残虐行為を非難しつつも、この問題では擁護の姿勢をとる方向に傾いていった。
仮に、この段階でホスト役を辞退した場合、ORFに最大40万ユーロの罰金が課せられる可能性もあり、経済的な損失を伴う決定を迫られていたのである。

11月にEBUがコンテストの審査ルールの変更を提唱。
審査員の評価比重を高め、視聴者投票への過剰広告の抑制や投票回数の制限を盛り込んで、加盟局からの苦情に対応した。
呼応するようにORFが記者会見し、ウィーン開催に向けて準備を開始すると発表した。

同局のヴァイスマン会長は、イスラエルの参加を望むと発言し、「ESCは、音楽の祭典だ」として、政治化せず「多様性と音楽を通じた連帯の精神に立ち返ろう」と加盟局に呼びかけた。
だがイスラエルの攻撃は止まず、11月末にはガザでの死者数が7万を超え(パレスチナ保健局調べ)、スペインはイスラエル排除の声を強めた。

開催まで約半年と迫る12月4日、加盟局はコンテストの審査の公正さを確保するルール変更を賛成多数で承認。
「新たな改善措置に従う局には参加資格がある」とし、参加の是非を問わずに、イスラエル出場への道を開いた。
だが、スペインなど5カ国(※不参加は、スペイン、オランダ、アイルランド、アイスランド、スロベニアの5カ国(2025年12月13日時点))。がこの処分に不服を唱えて不参加を表明。スペインの公共放送は「お宝番組」の放送すらも行わないという。

長年、歌を通じた友情と信頼で繋がっていた、ESCの内部亀裂は深く、ファンサイトには、怒りや悲しみを表明する反応が出ている。今回のEBUの決定に対する真の裁定は、26年5月に各国の視聴者が下すことになるだろう。

【ジャーナリストプロフィール】
いなき・せつこ 元日本テレビ、在ウィーンのジャーナリスト。退職後もニュース報道に携わりながら、欧州のテレビやメディア事情などについて発信している。

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「GALAC」2026年2月号

【表紙/旬の顔】中島 歩
【THE PERSON】田島将太

【特集】進む!ユニバーサル放送

ユニバーサル放送の現状と課題/吉田仁美

〈ケーススタディ〉
NHKの手話放送/伊東敏恵
障害者放送通信機構「目で聴くテレビ」/梅田ひろ子
文化放送「ロービジョン~0と1の間」/白石仁司

〈ユニバーサル放送を支える〉
日本テレビ 字幕・解説・手話放送の制作/根本正実
TBSテレビ ユニバーサルデザインの取り組み/團野慎太郎
手話CG「デジタルヒューマンKIKI」/小谷野崇司

〈デフリンピック〉
デフアスリートの祭典をどう伝えたか/鈴木健司
「手話言語」が切り拓く共生社会への一歩/吉井 勇

スポーツ中継の手話実況 「岡山モデル」とは/篠田吉央

【連載】
テレビ・ラジオ お助け法律相談所/梅田康宏
ダラクシーの秘密基地/ダラクシー賞選考委員会
イチオシ!配信コンテンツ/西森路代
報道番組に喝! NEWS WATCHING/高瀬 毅
国際報道CLOSE-UP!/伊藤友治
海外メディア最新事情[ウィーン]/稲木せつ子
GALAC NEWS/長井展光
TV/RADIO/CM BEST&WORST
BOOK REVIEW『反骨魂-後藤亘「ミスターFM」と呼ばれた男-』『わたしたち雑談するために生まれてきた、のかもしれない。-ゆとりっ娘たちのたわごとだけじゃない話-』

【ギャラクシー賞】
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