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Special 2026.10.07 UP

第5回|国際共同制作で問われる、日本発ドラマの強み

テレビ業界ジャーナリスト 長谷川 朋子

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シリーズ・マニア2025「Co-Pro Pitching Sessions」で行われた『東京クラッシュ(Tokyo Crush)』のピッチング。最優秀企画賞を受賞した(筆者撮影)

ドラマの国際共同制作パートナーを探す世界のマーケットでは、ピッチングを通じて、物語の魅力だけでなく、企画の強みや海外と組む意味も問われる。
では、日本が世界を目指すとき、何が「武器」になるのか。
ヨーロッパ最大級のドラマ祭「シリーズマニア」で評価された日本関連作品を振り返ると、そのヒントが見えてくる。国際共同制作という視点から、日本発ドラマの可能性を考える。

日本の居酒屋を舞台にした企画がフランスで受賞

日本のドラマ企画が世界を目指すヒントとして振り返りたい企画がある。

2025年3月のシリーズマニアで、最優秀企画賞に選ばれた『東京クラッシュ(Tokyo Crush)』だ。フランスと日本の独立系プロデューサーが共同開発する企画で、賞金5万ユーロ(約800万円)を獲得した。フランス人作家ヴァネッサ・モンタルバーノの著書を原作に、東京の居酒屋を舞台にした全8話のラブコメディとしてドラマ化を目指している。

主人公は日本にやってきたフランス人女性シェフのモナ。ところが、経営難の店にはすでに、代々続く味を守ろうとする日本人料理人のトシロウがいる。料理に革新を求めるモナと、伝統を重んじるトシロウ。二人はぶつかりながら、日本とフランスの料理を融合させ、店の再生を目指していく。

現地のピッチングで分かりやすいフックになっていたのは、食を通じた日仏のカルチャーギャップだ。ただ、制作者が物語の核として強調していたのは、それだけではない。「heritage(受け継いだもの)」をテーマに挙げ、受け継いだものを守るのか、そこから逃れようとするのかという、国境を越えて共有できる問いを物語に据えていた。

質疑応答では、日本に対して海外の人々が抱くイメージだけでなく、日本人がフランス文化に抱くイメージも描きたいと説明していた。ステレオタイプを逆手に取りながら、リアリティーのある作品にするため、企画の初期段階から日本側の制作会社が参加していることも明かした。受賞後、共同プロデューサーのジャン=フェリックス・ディアルベルト氏は筆者の取材に、「日本のテレビ局などと共同制作の道を探りたい」と話していた。

『東京クラッシュ』は、居酒屋や食文化といった海外から見ても分かりやすい日本的な要素と、日仏の文化の違いを入り口にしながら、普遍的なテーマと文化的なリアリティを追求したことがピッチでの評価につながったのだろう。日本を題材にした国際共同制作の一つの方向性が見えてくる。

漫画IPだけじゃない、日本の日常が物語になる

もちろん、日本発コンテンツの世界展開を考えるうえで、漫画やアニメのIPは外せない。Netflix『今際の国のアリス』は麻生羽呂氏の漫画を原作とし、海外にも視聴を広げてきた。ハリウッドで制作されたNetflixの実写版『ONE PIECE』も、日本で生まれた漫画IPを世界規模の実写シリーズへと展開した代表例と言える。映像化によって海外で新たな視聴者を獲得できる原作が豊富にあること自体、日本の大きな強みだ。

一方で、それだけが日本の武器なのだろうか。その問いを考えるうえで、2026年のシリーズマニアでも興味深い出来事があった。

ショートフォーム・コンペティションに選出されたNHKドラマ『ひらやすみ』が、特別表彰(スペシャルメンション)を受賞したのである。主人公は定職も恋人もない29歳のヒロト(岡山天音)。近所のおばあちゃんから譲り受けた東京の平屋で、上京してきた18歳のいとこのなっちゃん(森七菜)と暮らし始める。大事件が起きるわけではない。平屋での暮らしと、その周囲に集まる人々の日常を描く物語だ。

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シリーズマニア2026のNHKブースで紹介された『ひらやすみ』。同作はショートフォーム・コンペティションで特別表彰(スペシャルメンション)を受けた(筆者撮影)

シリーズマニアは同作について、人と人との素朴なつながりの美しさを描き、東京を人間の目線から捉えた作品として紹介している。巨大都市・東京のスピードや派手さではなく、そこで暮らす人々の小さな生活が評価されたことになる。

こうした作品は、日本にとって決して新しいものではない。小さな食堂に集う客の人生を一皿の料理とともに描いてきた『深夜食堂』も、その代表例だろう。映画に目を広げれば、ドイツ人監督ヴィム・ヴェンダースが東京を舞台に撮った『PERFECT DAYS』も、トイレ清掃員の主人公が送る日々のルーティンを丁寧に描いた作品だった。

居酒屋、平屋、日々の仕事。日本人にとってはあまりに日常的で、世界に向けた「コンテンツの武器」として意識しにくいものばかりだ。しかし海外から見ると、その日常そのものが未知の文化であり、物語の舞台になり得る。

海外市場の視点から捉え直すことが重要だ

日本でもいま、こうした「武器」を海外市場につなげるための取り組みが始まっている。これまでも伝えてきた総務省による海外ピッチング支援プログラム「Japan Drama First Look: Co-Pro Pitch」だ。海外の放送・配信事業者との国際共同制作や、制作費の資金調達の多様化を目的とし、日本のシリーズドラマ企画を海外マーケットでピッチングする機会を提供している。

2026年度は、韓国のBCWW、台湾のTCCF、フランスのシリーズマニアというアジアとヨーロッパを代表する3つの国際コンテンツマーケットを舞台とする。すでにBCWWでは日本の制作者によるピッチングが行われ、今後はTCCF、さらに2027年3月のシリーズマニアへと続く。

注目したいのは、同事業が「外部資金を活用した海外市場視点での製作」に加え、「中小規模の事業者も含めた多様な知的財産の創出」を目的に掲げていることだ。

海外市場を目指す日本のコンテンツというと大型IPに目が向きがちだが、国際共同制作によって海外のパートナーや資金とつながることで、より多様な企画を世界へ展開できる可能性が広がる。

筆者もこのプログラムにアドバイザーとして参加し、BCWWに向けて8月に行われた模擬ピッチに立ち会った。そこで改めて考えさせられたのが、海外市場を見据えた日本のドラマ企画は、何が武器になるのかという問いだった。

その答えは一つではない。世界的なファンダムを持つ漫画やアニメIPという豊富な原作資産がある一方で、『東京クラッシュ』や『ひらやすみ』が示すように、日本人にとっては当たり前に見える日常や生活文化も、海外から見れば新しい物語の入り口になり得る。

重要なのは、「世界で受けそうなもの」だけに自分たちを合わせるのではなく、自分たちが持つ価値を海外市場の視点から捉え直すことではないだろうか。ローカルな題材の中に普遍的なテーマを見出し、海外と組むことで何が生まれるかまで企画として提示する。

世界のピッチングを追いかけてきたこの連載で見てきたように、問われるのは企画そのものの力だ。日本の制作者が海外マーケットのピッチングで何を「武器」に世界と向き合うのか。その実践は、ここからだ。

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