2024年10月９日付けの本欄で、「ストライキの影響を受けるハリウッドのゲーム業界」という記事をご紹介させて頂いた。

これはSAG-AFTRA（米映画俳優組合）によるゲーム業界に対するストライキで、2024年7月26日午前12時1分より開始され、先ごろ10ヶ月目を迎えたところであった。

この程、SAG-AFTRAは６月11日（水）午前11時30分頃に新たな声明を発表し、同日正午（PT/太平洋標準時）正午をもって、インタラクティブメディア協定に署名した企業に対するストライキを正式に停止（Suspended）する事をアナウンスした。

SAG-AFTRA Video Game Strike Suspended at Noon PT Today

このストライキは、2023年に実施されたWGA（全米脚本家組合）とSAG-AFTRA（米映画俳優組合）のストライキと同様に、AIを取り巻く、組合員への保護対策が大きな争点となっていた。

ストライキの対象となっていたのは、SAG-AFTRAとの間で「インタラクティブメディア協定」に署名した全ゲーム会社。プロジェクトによっては、ストライキ対象外のゲーム作品もあったが、結果として大手ゲーム会社の殆どが含まれる形となっていた。

SAG-AFTRAの組合員は声優やモーション・キャプチャー俳優であり、AIによる声優の声の再現や利用、モーション・キャプチャーのAIへの置き換え、正当な報酬無しにデジタル・レプリカを作成される可能性などについて、大手ゲーム会社側と交渉が続いていた。

つい先ごろの５月19日には、Epic Games販売するオンラインゲーム『フォートナイト』（Fortnite）の中で、ダース・ベイダーの声の再現でAIが使用された際にSAG-AFTRAとの事前交渉が省かれた事例が争点となっていた。ダース・ベイダーの独特な話し方をAIで置き換える作業が発生した際に、規約では事前にSAG-AFTRA側へ通知し、適切な条件交渉が行われるルールとなっていた。しかし、それが行われず、「条件交渉権」を侵害されたとして、実制作を担当したEpic Games傘下のゲーム会社Llama Productionsに対し、不当労働行為として米労働関係委員会（National Labor Relations Board）への申し立てが行われた経緯があった。

このように、声優とAI使用を取り巻く環境は、非常にセンシティブな状況にあった。

こうして、ほぼ１年近い交渉が続いた中、SAG-AFTRAのインタラクティブメディア協定の交渉責任者であるダンカン・クラブトリー・アイルランド氏は、2025年6月11日（水）の正午をもって、同協定に署名済の企業に対するストライキを正式に停止（Suspended）する事をアナウンス。

組合員は、同協定に基づいて制作された各ゲーム・プロジェクトへ、そのプロモーション（広報）活動も含めて順次仕事に復帰していく見通し。

SAG-AFTRAでは6月12日に会合を開き、暫定合意案を検討した。その結果、合意案は正式に承認され、SAG-AFTRAの規約に沿って、これから組合員の投票審議へと委ねられる予定。

６月も半ばに差し掛かろうという初夏の時期であるが、ハリウッドを中心とする北米の映像業界は、依然として２年前の2023年のストライキのダメージから抜け出せていない。特に今年はスタジオ閉鎖も相次ぎ、たとえカナダのバンクーバーなどTAXクレジットが盛んな地域においても、景気の良い話はあまり聞こえてきていないのが現状である。

その意味では、WGA（全米脚本家組合）とSAG-AFTRA（米映画俳優組合）のストライキは、「北米のポストプロダクション業界を壊滅させてしまった」と断言出来る程の、凄まじい破壊力を残してしまった。

今回、ゲーム業界に対するストライキが終息方向へ向かう事で、北米、特にアメリカ国内の制作現場が活気を取り戻す活性剤の１つとなってくれる事を、心から期待したい。