Inter BEE 2022 幕張メッセ:11月16日(水)~18日(金) オンライン:12月23日(金)まで

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Special 2026.04.30 UP

【Inter BEE CURATION】ポスト・ピークTV時代に何が起きているのか〜ドラマ国際市場の最新トレンド

テレビ業界ジャーナリスト 長谷川 朋子

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©Chloé LECLERCQ/Series Mania

配信バブルの熱狂が落ち着いたいま、ドラマ市場のトレンドは明らかに変わり始めている。欧州最大規模のドラマ祭「シリーズマニア2026」(仏リール/2026年3月20〜27日)で報告されたのは「ポスト・ピークTV時代」という捉え方だった。収益成長は鈍化し、ストリーミング戦略も見直しが進むなか、焦点は制作量から制作のあり方と供給のバランスへと移りつつある。

ドラマの制作発注は本当に減ったのか

イギリスの調査会社Ampere Analysisのリサーチ・マネージャー、オリヴィア・ディーン氏は現在のテレビ市場を「ポスト・ピークTV時代」と位置づける。「シリーズマニア2026」のプロ向けイベント「シリーズマニア・フォーラム」で「A Year in Series」と題したセッションを行い、この1年の動向を整理しながら、ドラマ市場の変化を読み解いた。

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Ampere Analysisのリサーチ・マネージャー、オリヴィア・ディーン氏(筆者撮影)

「ピークTV時代」と呼ばれる急拡大した時期は2019年から2022年まで、ストリーミングの成長期と重なる。その後の2023年以降は別のフェーズとして捉えられ、現在は「ポスト・ピークTV時代」にあるという。ディーン氏は「市場は減速しているのではなく、急成長の反動として安定化の局面に入っている」と指摘する。実際、西欧のコンテンツ市場はピーク期に152 億ドル(約2.3兆円)増加したが、その後は93億ドルと成長幅が縮小している。一方で、オリジナルコンテンツへの支出は大きくは落ちていない。

それでも現場では「制作発注が減った」という実感が残る。ディーン氏は、その理由を収益と制作のあり方の変化に求める。

まず収益面では、AVODやFASTといった新興モデルが「ポスト・ピークTV時代」の成長を牽引しているが、これらはオリジナル制作に投資しない。ディーン氏は「FASTやAVODのプレイヤーは、オリジナルを制作するのではなく、大量のコンテンツをライセンスするモデルにある」と説明する。FASTの膨大なカタログにオリジナルコンテンツが一切存在しないことが、その象徴といえる。

一方、SVODは依然として市場の中心を占めるが、いまや成長の軸は会員数の獲得ではない。ディーン氏は「ストリーマーの収益成長は、広告モデルによって支えられている」と言及した。1話5800万ドルを投じた『ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪』(Prime Video)や、1話3000万ドルの『ストレンジャー・シングス』(シーズン4/Netflix)のように、多額の制作費をかけたオリジナルドラマで加入者を獲得するモデルは、相対的に重要性を下げている。この傾向はストリーマーの戦略にも表れている。多くのプレイヤーが、制作よりも番組調達を優先する方向へとシフトした。ディーン氏はこれを「アクイジション中心の市場への移行」と捉える。市場は「作る」から「買う」へと軸足を移す。

一方で、ディーン氏は「問題は制作量ではなく、制作に要する時間にある」と指摘する。ピークTV期の巨額投資は作品のクオリティを押し上げたが、その代償として制作期間を長期化させた。結果として、制作本数自体は大きく減っていないにもかかわらず、1作品あたりに制作にかける時間が増え、供給が追いつかなくなっている。いわば「作れない」のではなく「回らない」状態である。

供給のボトルネックは、作品ジャンルによって傾向が変わる。ディーン氏は「SFやファンタジー、大型ドラマなど、制作期間の長いジャンルほど、発注の減少が顕著になっている」と説明する。さらに、シリーズの更新にも影響が及ぶ。「制作責任者はどの作品にどれだけ時間と資金を投じるか、判断が慎重になっている。そのためシーズン2に進む割合が低下し、長期シリーズ化するハードルも上がっている」と分析する。つまり、制作側は「新しく続ける作品」よりも「すでに続いている作品」を優先する傾向を強めている。

浮上するアジア発ドラマと縦型ショート

こうした「ポスト・ピークTV時代」に存在感を高めているのが、アジア発のドラマである。ディーン氏は「アジアで公開された新作本数は17%増加した。アジアは唯一、ドラマの制作本数を増やし続け、国際市場に供給される作品数も増やしている」と説明する。とりわけロマンス系のKドラマが市場をけん引し、アニメ・マンガ原作の作品群も国際的な広がりを見せている。

新たな潮流として浮上するマイクロドラマの動きも見逃せない。ディーン氏は「縦型コンテンツは次に広がる領域であり、マイクロドラマ(縦型ショートドラマ)は今後数年で重要なポジションを占める」と指摘する。すでに英語圏で毎週マイクロドラマを視聴する層は35〜40%に達しているが、供給は需要に追いついていない。米国の主要プラットフォームでも数千タイトル規模に拡大しているが、短尺ゆえ消費は速く、カタログ不足が続く。ディーン氏は「欧米市場には供給が追いついておらず、早期参入の余地が大きい」と分析する。

では今後、何に注目すべきか。ディーン氏は大きく3つのポイントを挙げた。

第一に、制作効率である。ディーン氏は「制作期間が短く、かつ需要の高いジャンルが優先される傾向は続く」とし、クライムやスリラーがその代表例にある。制作に時間とコストがかかる大型作品よりも、制作期間の短い作品が選ばれる流れは当面続く見通しだ。

第二に、調達前提のコンテンツ設計である。ストリーマーが番組購入へと移行するなかで、ディーン氏は「完成作品として市場に供給できるプロジェクトの価値が高まっている」と分析する。欧米の供給不足が続く限り、この構造はアジアを含めた他の地域にとって追い風となる。

そして第三に、新たな視聴フォーマットである。すでに触れたマイクロドラマに象徴されるように、短尺コンテンツは急速に普及が進んでいる。ディーン氏は「従来型のテレビ番組にソーシャルメディアのスターを起用するだけでは不十分だ。ハイブリッドなフォーマットで革新を起こす必要がある」と語る。マイクロドラマは参入障壁が低く、制作期間も短いことから、新たな成長領域として注目されるのも自然だ。

ポスト・ピークTV時代とは、単なる縮小ではない。拡大を前提としていた市場が、再編の局面に入っている。そのなかで、制作の進み方も、供給のバランスも、そして主役となる地域も変わりつつある。ドラマ市場はいま、どれだけ作るかではなく、どう作り、どう届けるかが問われる段階に入っている。

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