【Inter BEE CURATION】欧州最大級ドラマ祭で進むアジア台頭〜「シリーズ・マニア2026」現地取材レポート
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川 朋子
欧州最大規模のテレビ連続ドラマ専門国際イベント「シリーズ・マニア」が、今年もフランス北部リールで開催された。3月20日から27日までの8日間、一般向けフェスティバルには約11万2,000人が来場し、プロ向けフォーラムには75カ国から5,200人が参加した。アジア勢の存在感の高まりも印象的で、日本作品の動きにも注目が集まった。制度面での新たな動きも見られる中、現地の熱量とともに、その動向をレポートする。
シリーズマニア初参加国が受賞
シリーズ・マニア2026は、象徴的なニュースとともに幕を開けた。欧州評議会によって、テレビおよび配信ドラマに特化した国際共同制作の法的枠組みが初めて整備され、フランスをはじめとする欧州9カ国が署名した。これにより、独立系プロデューサーが複数国にまたがるドラマ制作を行う際、各国の補助金や制度を横断的に活用しやすくなるなど、国際共同制作のハードルが制度面から引き下げられたことになる。国境を越えた制作体制という市場トレンドを後押しする動きといえる。
その現場となるのが、プロ向けフォーラム「Series Mania Forum」である。75カ国から5,200人の業界関係者が集結し、そのうちバイヤー数は500人に上った。会場となったリール・グラン・パレでは、朝からピッチやミーティングが行われ、国際共同制作を前提とした企画開発と資金調達が盛んに行われていることを実感させる場でもある。また、27の国・地域からの代表団に加え、97のメディアやプロダクションがブースを構えるエリアも賑わいを見せ、日本からはNHKや日本テレビ、テレビ東京が出展した。
目玉プログラムの「Co-Pro Pitching Sessions」には、65カ国から約400件の応募の中から選ばれた15企画が披露された。パレスチナやウルグアイなど新興地域からの応募も含まれ、参加国の広がりも際立つ。受賞したのは旧ソ連下の70年代後半を舞台に、女性主体の犯罪組織を描く『RED PANTS』。キルギスの独立系スタジオによるプロジェクトで、シリーズマニア初参加国からの受賞ともなった。
同プログラムは開発段階の企画を国際共同制作へとつなぐ場として機能している。会場内で最大規模のシアタールームが満席となり、熱気の高さがその存在感を裏付けていた。これまでに40本以上が実際の制作・放送に至っている。日本のHuluも参画したスペイン発『The Head』などがその一例である。
また、完成作品の国際セールスを見据えたBuyers Upfrontプログラムでは、世界の有力バイヤーに向けて厳選された新作群が披露された。その中で、日本とシンガポールの共同制作ドラマ『Lost and Found』がラインナップ入りした点も注目される。Empire of ArkadiaとNHK、テレビマンユニオンらによるプロジェクトで、受賞には至らなかったものの、アジア発企画の可能性の広がりを示した。
さらに、主要グローバルプラットフォームのキーノートも相次いだ。Disney+、Prime Video、HBO Maxの各責任者はいずれも、非英語作品の強化と地域クリエイターとの協働を戦略の中核に据える姿勢を強調した。加えて、Netflixが今年もイベントをスポンサードするなど、米国発プラットフォームのもしっかりと巻き込んでいる。シリーズマニアが国際的な市場イベントとして発展していることを、間近で感じた。
総務省事業の一環で特別セッションを実施
アジア勢の存在感の高まりも、今年の大きなトピックの一つである。韓国は同イベント初のカントリー・オブ・オナー(主賓国)として特集プログラムを展開し、ウェブトゥーン原作のシリーズ化などIP起点の制作モデルを押し出した。台湾は文化コンテンツ振興機関であるTAICCA主導で3年連続のAsia Co-Pro Pitchを実施し、ピッチスキルの向上を感じさせながら、アジア発プロジェクトを国際共同制作の枠組みに乗せる動きを強めていた。
日本はシリーズマニアで初めて、総務省事業の一環として特別セッションを実施した。一般社団法人放送コンテンツ海外展開促進機構(BEAJ)とEmpire of Arkadiaが主導する形で「Coming Next from Japan」と題し、日本発の国際共同制作プロジェクトを紹介。欧州やアジアのパートナーとどのように制作を進め、世界市場に向けた作品づくりを行っているのか、その可能性と課題が議論された。
紹介されたプロジェクトは、日本とフィンランドの共同制作『BLOOD & SWEAT』(制作:WOWOW、日テレアックスオン、ICS Nordic)、日本とシンガポールの『Lost & Found』(制作:Empire of Arkadia、Mocha Chai Laboratories Singapore、NHK、テレビマンユニオン)、日本とイギリスの『How to Be a Sensei』(制作:日本テレビ、Anyway Content)、そして日本・フランス・米国による『Drops of God/神の雫』(制作:Dynamic、 Adline Entertainment、22H22、 Hulu Japan、Legendary)の4作品である。いずれも複数国のパートナーによる制作体制と国際流通を前提としたプロジェクトで、日本が取り組む国際共同制作の現在地を示すものとなっていた。
フェスティバルも引き続き活況を呈した。来場者数は約11万2,000人に達し、中世の街並みを残すリールの街全体がシリーズを軸にしたイベント空間として彩られていた。今年は64カ国の375作品から51作品が選出され、うち24作品がワールドプレミアとして上映された。フェスティバル公式ソングに乗った観客の拍手と共に上映が始まり、上映後のQ&Aも観客の熱量も高かった。世界各国のシリーズ作品をスクリーンで共有する体験を楽しむ観客の姿が印象的だった。
日本作品が初めてフォーカスされたことも特筆される。ショートフォームコンペティション部門で『ひらやすみ』(NHK)が特別言及(Mention)を受けるなど、高い評価を得た。さらにインターナショナル・パノラマ部門で上映された『火星の女王』(NHK)は日本のSFドラマの一例として取り上げられた。
一方で、世界のドラマ市場全体では、制作本数の減少や短尺化といった収縮傾向も共通認識にある。その反動として作品はスケールよりも「精度」へとシフトし、限られた話数の中でテーマや感情を描き切る物語が増えている。さらに、政治や社会の緊張を背景に、権威主義や民主主義の揺らぎといったテーマを扱う作品も目立った。ドラマシリーズは引き続き、時代を映し出す表現としての役割を果たしていることを実感した。
シリーズマニアは、企画開発から資金調達、完成作品の流通までを一体的に可視化する場である。今年はそこに制度面のアップデートも重なり、メディアの枠や国境、制作体制の規模を越えた共同制作の必要性が、より現実的なものとして立ち上がっていることを感じた。熱量の高いこの場をどう活用するかが、今後の鍵となる。