Special 2025.10.17 UP 【Hollywood Report】米Netflix傘下のScanlineVFXとEyeline Studiosが統合、Eyeline Studiosへリブランド 鍋 潤太郎 / Inter BEEニュースセンター 画像:Eyeline Studiosのロゴ。(筆者撮影) 〇はじめに 10月15日付で米Netflixが公式サイトで発表したところによれば、米Netflixは傘下のVFXスタジオScanlineVFXとEyeline Studiosを統合し、Eyeline Studiosへとリブランドした。これにより、これまで姉妹会社としてハリウッドの同じ敷地内でスタジオを構えていた2社が、いま1つになる。 〇ScanlineVFXの歴史 ScanlineVFXは、1989年にドイツで設立された老舗で、当初はドイツを拠点とするVFXスタジオであった。社長のステファン・トロジャンスキー(Stephan Trojansky)氏が自ら開発した流体シュミレーション・ツールFlowlineを武器に、2008年にLAにスタジオを構え、本格的にハリウッドへ進出した。 当時ハリウッドでは、流体シュミレーションに強いVFXスタジオはまだ少なかった。そのため、大作映画のプロジェクトから引っ張りダコとなり、「ハリウッドで流体表現と言えばScanlineVFX」と言われる程の信頼と実績を築き上げた。2008年にはFlowlineの開発が評価され、アカデミー賞の科学技術賞を受賞している。 その後、デジタル・ドメインやリズム&ヒューズ出身のVFXスーパーバイザー達を招き入れ、流体シミュレーションのみならず、VFX全般を幅広く受注可能な体制を整えた。またグローバル展開を拡大し、ミュンヘン、シュトゥットガルト、LA、バンクーバー、ロンドン、モントリオールという世界7箇所にスタジオを構えるまでに成長した。 〇2021年に米Netflix傘下へ こうした中2021年11月22日、米NetflixはScanlineVFXの買収計画を明らかにした。 これと前後してScanlineVFXは当時カルバーシティにあったスタジオをハリウッドへ移転し、同じ敷地内にバーチャル・スタジオとボリューメトリック・キャプチャーのステージを新設するなど、最新テクノロジーを全面に押し出したスタジオ施設を構築した。 このバーチャル・ステージは、Scanline VFXの姉妹会社で、同じくNetflix傘下のEyeline Studiosによって運営されていた。当時のEyeline Studiosは、Scanline VFXのバーチャル・プロダクション部門という位置づけであった。 2023年には、イメージ・ベースド・ライティングの生みの親として世界的に著名な、南カリフォルニア大学CG研究所のポール・デベヴェック氏を研究開発責任者(Chief Research Officer)としてEyeline Studiosに招聘しており、文字通り「テクノロジーの最先端を行くVFXスタジオ」という地位を確立した。 Eyeline Studiosのバーチャル・プロダクションは、Netflixシリーズ「幽☆遊☆白書」の他、映画「ドント・ルック・アップ」、「ブラックアダム、「ザ・フラッシュ」など数々のハリウッド映画のVFXでも活用された。最近では、Netflix『ウェンズデー』シーズン2も手掛けている。 〇統合後の新生Eyeline Studios 今回の統合によってリブランドされた新生Eyeline Studiosの公式サイトは、洗練されたデザインで、最新テクノロジーを強みとした、将来性を感じさせるサイトへと生まれ変わっている。 10月15日(水)以降、ScanlineVFXの旧公式サイトへアクセスすると、自動的にEyeline Studiosの公式サイトへジャンプするよう設定されている。そう言えば、今年の夏ごろ、「Eyeline Studiosでは、バーチャル・スタジオの大規模な改築工事を実施しているらしい。何か新しい事をやるらしい。」という噂話が業界内で聞かれていた。今思い返せば、今回の統合計画が、夏前から着実に進んでいた事がうかがえる。 さて、Eyeline Studios公式サイトを見ると、グローバル拠点にも変化が見られる。拠点が7箇所から6箇所へと減少している。SNS情報によれば、ハリウッドの映画&テレビ向けのTAXクレジットが削減されたモントリオールのスタジオは2025年9月に閉鎖、またドイツのミュンヘン、シュトゥットガルトの2拠点も2025年前半に閉鎖されたという。それに代わって、インドのハイデラバードとムンバイの2個所が新拠点として加わっている。つまり、リブランドと共にワールドワイドで組織再編が行われた事がわかる。 現在、ハリウッドのVFX業界では、依然として2年前のWGAとSAGによるストライキの影響を受け、受注作品の本数が減少しており、大手VFXスタジオ各社では経営合理化を迫られている。今回のEyeline Studiosの統合及びリブランドは、この流れに「先手を打った」経営合理化だと言えるのかもしれない。 新生Eyeline Studiosの、今後の活躍ぶりが楽しみである。 記事一覧へ 次へ