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「東日本大震災を経て、期待される防災デジタル・コミュニティラジオ」

 「ただいま海面に大きな変化が見られます。大津波が予想されますので大急ぎで高台に避難してください。最大6メートルの津波が予想されます。急いで高台へ避難してください」
 南三陸町の遠藤未希さんは、こう防災行政無線で放送を続けた。この放送を聞いて助かったという人は多いが、遠藤さんは恐らくマイクに向かったまま津波に呑みこまれてしまった。
 その勇気に全国から賞賛の声がよせられたが、新婚早々の若妻が犠牲にならなければならなかったことは余りにも悲しい。
 YouTubeで公開されている遠藤さんの放送は、落ち着いていてゆっくり喋っているため理解できるが、それでも建物や山などに反響したこだまがあってその声が二重に聞こえる。
 東日本大震災以前から指摘されていたことだが、スピーカーで緊急の情報を伝える防災行政無線は、コンクリート建てのマンションなどの中では聞きづらいことや、建物が立て込んだ都心部では反響が多くて分からない、豪雨の中では音が伝わらないなどの問題が指摘されていた。
 そこで、総務省は今回の大災害を機に、防災行政無線を補完する機能を備えた「安心・安全のためのラジオ」という新しい方向性を打ち出した。
 具体的には、アナログ・テレビが終了した「跡地」に新たに割り当てるデジタル・ラジオの中に、急遽「デジタル・コミュニティ」という新しい方向性について検討を始めた。
 今回の大災害を待つまでもなく、阪神淡路大震災などで「地域の情報源」として頼りにされてきたコミュニティ放送の機能をデジタル化によりさらに有効なメディアとして防災に活用しようという発想だ。
 とりあえずは東海、東南海、南海地震が襲うと考えられる地域に重点的に設置してゆくことが考えられるが、インターネット放送を行うコミュニティ放送のグループCSRAとしては、津波対策が喫緊の課題である相模湾をモデルにデジタル・コミュニティ放送の可能性を探るため実証実験を行うことにする。
 この新しい放送は、防災行政無線を補完するという必要からも、有事の際に自動的にスイッチが起動し、情報を伝える「プッシュ型」の受信端末でなければならないと考える。
 自動起動の技術は、すでにNHK技研で開発中で、デジタル電波の一部を使って信号を送り、待機中のラジオを起動し、緊急放送を伝えるというものだ。
 例えば、就寝中なら自動的にラジオの放送が始まり、音楽番組を聞いている場合なら、その番組が中断されて緊急地震速報や津波警報を伝えることになる。
 加えて、このラジオで音声の他に文字情報も伝えることができれば、緊急放送の内容を受信機のパネルに文字で表示することができ、耳の不自由な人や、内容を聞き逃した人が情報を確認することもできる。
 このラジオは緊急事態発生時だけでなく、その後の避難指示や避難所への案内、さらには食糧の配布や給水車の案内など、地域に求められる情報を音声と画面で、きめ細かく提供できることは言うまでもない。
 CSRAの実証実験では、デジタル電波の伝わり方や、どのような条件で自動的にラジオが起動するかなど技術的な問題を検証すると同時に、その緊急情報はどのようなチャンネルを通じて伝えられ、誰が主体的に自動起動のスイッチを入れるのかなど運用上の課題も、行政機関と共に制度化を目指す。
 南海トラフに沿った巨大地震や関東直下型地震はいつ起きてもおかしくないと言われる。その被害を最小限に食い止めるためにも、デジタル・コミュニティ放送の完成を急ぎたい。
(了)

緊急地震速報による受信端末の自動起動
~安心・安全なくらしの実現をめざして~
Automatic activition of handheld receivers for Earthqake Early Warning

気象庁は、地震直後の小さな揺れをとらえて大きな揺れの前に自身や電源などのを予測して、最大震度5弱以上の強い揺れが予測された場合に「緊急地震速報」を発表します。放送局は、この情報をテレビやラジオの映像、音声、データ放送のしくみを利用して速報しています。ここでは、将来に向けて検討を進めている、受信機を自動的に起動し緊急地震速報を伝えるしくみの一例を点しています。

検討方式による緊急地震速報の伝送イメージ

■特長

  • ワンセグやマルチメディア放送のAC(*1)を使って気象庁からの「緊急地震速報」を伝送できるシステムを開発しました。
  • 応用例として、気象庁から「緊急地震速報」が発表されたときに警告を発する受信端末を試作しました。
  • (*1)AC(Auxiliary Channel)と呼ばれる制御信号を用います。

コミュニティ・サイマルラジオ・アライアンス(Community SimulRadio Alliance)略 CSRA
地域密着型のFM放送コミュニティ放送局がインターネットを利用してサイマル配信をすることを目的とした集合体。
CSRA代表は、逗子・葉山コミュニティ放送(株) 代表取締役 木村太郎。
2008年6月に日本で初めて立ちあげたサイマルラジオのサイトは、エリア制限をかけていないことから、東日本大震災においても、臨時災害局に設置し、海外・県外に避難した被災者もサイマルラジオを通じて、地元の情報を得ている。

木村太郎

木村太郎
ジャーナリスト

1938年、合衆国カリフォルニア州バークレイ市生まれ。41年、日米関係悪化とともに帰国。
64年、慶応義塾大学法学部卒業、NHKに入社。記者として神戸放送局、報道局社会部に勤務する。
74年からベイルート、ジュネーブ、ワシントンの特派員を歴任。82年2月に帰国し、「ニュースセンター9時」のキャスターを6年間務める。
88年、「ニュースセンター9時」終了とともにNHKを退社、木村太郎事務所を開設しフリーランス記者として新しいスタートを切る。
90年からFNN「ニュースCOM」でキャスターを、94年からFNN「ニュースJAPAN」、2000年からFNN「スーパーニュース」でニュース・アナリストを務める。
86年「第12回放送文化基金賞」受賞、88年には、国際報道を通じ、国際理解に貢献したジャーナリストに与えられる「1987年ボーン上田記念国際記者賞」を受賞。
93年 逗子・葉山コミュニティ放送㈱開局時より 代表取締役社長。