InterBEE REVIEW2011 (JP)
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ている。菱川氏は「 日本人の精神性や、伝統的なデザイン、文化は、今でも世界に対しての武器になる」と話す。菱川氏のそうした日本文化に対する視点が今回の「坂の上の雲」でも生かされている。 加藤氏はまた、菱川氏にタイトルバックを依頼しながら、「共通する会話軸でコミュニケーションができる人」という役割も持たせたという。加藤氏は次のように話す。 「5年という制作期間の間に、映像の表現方法にもはやりすたりが生まれる。当時からそのはやりすたりに流されない映像づくりを考えてきた。そのためには映像制作の基本的な考え方を明確に持ちながら、常に現場でコミュニケーションを通じて考え方を更新させていくことが必要だ。「功名が辻」で関係を築いた菱川さんにタイトルバックのデザインをお願いして、菱川さんとのコミュニケーションの中から本編の映像についても対話軸を発展させる態勢をとっていた」 壮大なスケールのドラマづくりで絆を深めた3人に、これからの日本の映像制作、クリエイターについて聞いた。■日本における映像制作の現場、クリエイターの現状についてどのように考えているか。 菱川:「国際的な舞台で活動しようとしたとき、マーケティングにあわせればあわせるほど、世界では戦えない、と思った方が良いだろう。むしろ、日本ならではの土壌、風土に根ざした、日本人ならではのデザインを生み出すことで、世界は注目する。日本人の精神性や、伝統的なデザイン、文化は、今でも世界に対しての武器になる。日本には北海道から沖縄まで、多彩な文化や芸能がたくさんある。世界で問われるのは、クリエイターがオリジナリティの軸足をどこに置いて活動をしているかだ。そうした軸足があれば、自分がイニシアチブをとりながら、国際的な共同制作という可能性もあるだろう」 菱川:「その日本ならではのユニークさを軸足として定め、積極的に外へ出て行くことが、日本人クリエイターとしてのグローバリズムだろう。例えば「禅」的なものを現代にどう生かすか、といったテーマにおいても、海外の人が捉えた場合と日本人が取り組んだ場合では、あきらかに日本のオリジナルというイメージを生かすことができる」 加藤:「ドラマ『坂の上の雲』では、実に多くの海外ロケが行われ、各ロケ現場で、それぞれの現地スタッフがこだわりを持ってやってくれた。海外のインディペンデントのクリエイター、プロダクションを見ていると、どこの国も技術力が高く、また、映像制作に自分たちなりのこだわりがあるということを強く感じた。海外ロケは通常、撮影日程の制約が厳しいことから、必要な素材映像をどれだけ効率的に収録するかを念頭に作業をしてしまいがちだ。それが昂じると、現地で新たな工夫をすることなどは考えない。当然、現地スタッフにあまり説明することもなく、言われたことを黙ってやっててもらったほうが都合がいいように考えがちだ。しかしそれは、互いのコミュニケーションの壁を飛び越えないための言い訳のようなもの。ロケ地に入ったら、その地域をおもしろがれない限りは面白いカットにはならない。韓国のVFX プロダクションとの仕事では、言葉として伝えきれなかったこともあったが、彼らとの会話の中からイメージを膨らましていくという作業ができた。ラトビアでもマルタでも、一枚の映像を魅力的にしようとすることは言葉を超えた絶対の価値観だった。各プロダクションの責任者はその価値観を守るためにスタッフを鼓舞してくれた。また、優れたプロダクションがインディペンデントで活躍するところに、映像業界としての可能性があると強く感じた。そうしたこだわりのあるインディペンデントが日本海外との連携から日本ならではの価値観を見いだす菱川勢一氏20

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