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2009.11.27

【倉地紀子のデジタル映像最前線レポート】映画『2012』 CG シミュレーションの新境地 11月21日(土)、丸の内ルーブル他全国ロードショー 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(4)

IBLを活用したシーンの例
破壊のシーン
IBLを用いたLAの街のレンダリングのメイキング

<<リアルなデジタル映像の仕上げ工程 ライティングとテクスチャリング>>

 ((3)より続く)破壊シミュレーションによってつくりだされる世界の仕上げとして重要な役割を果たしたのが、ライティングとテクスチャリングの工程だった。

 真実味のあるリアルな見え方をつくりだす上でこれらの工程が果たす役割はいかばかりか大きい。ライティングに関しては、今回はすべてIBL(image-based lighting、イメージ・ベースド・レンダリング)の手法を用いておこなわれた。

 LAの街の崩壊シーンであるだけに、LAの街で撮影されたHDR画像を張り合わせた環境マップが、ライティングの基本となった。ただし、実際に映画に登場する“環境”には現在のLAの街には存在しないものもある。
 巨大な割れ目のできた岩山や岩石の塊などはその例で、それらに関しては、ロサンゼルス以外の場所で撮影されたHDR画像が環境マップに埋め込まれた。

 IBLではこうして作成されたHDR環境マップを光源と考えてシーン内のCGエレメントを照らしてレンダリングをおこなう。近年ではレイトレーシングなどの物理的に正確なレンダリング手法をIBLとむすびつけるケースも増えてきたが、今回のプロジェクトではあらゆるシーンが膨大な物量を含んでいることもあり、物理的に正確なレンダリング手法ではなく、これをうまく近似してリアリティをつくりだすという方向性がとられた。

 具体的には、イラディアンス環境マップやアンビエント・オクルージョン・マップなどが活用された。今回の場合には、ビルや岩山といったディフューズの表現が主流であったため、あえてレイトレーシングを用いずともこのような近似法で十分であったともいえる。


<<崩壊する建築物をよりリアルに見せるひび割れのテクスチャマッピング>>

 一方のテクスチャリングでは、非常にユニークは方法論が打ち出された。今回の破壊シーンでは、崩壊した物体の“割れ目”を象徴的にスクリーンに映し出すケースが多かった。したがって、あらゆる割れ目に対して整合性のとれたテクスチャマッピングがしっかりとほどこされている必要がある。

 たとえば板のような物体が割れてゆくのであれば、あらかじめ用意した2Dテクスチャを分割してそれぞれの破片にあてがってゆくという方法論をとることができる。
 しかし今回の場合、“割れ目”はすべてボリュームメトリックなシミュレーションによって生成されている。ボリュームのどの部分が割れてそこにどのような割れ目ができるかということをあらかじめ推測することができないため、従来のように2Dテクスチャを分割してあてがってゆくということはほぼ不可能だった。

 そこで、テクスチャリングに関しても、ボリューメトリックな方法論がとられた。
 具体的にいうと、物体を構成する各ボクセルの内部を細かいテクスチャの集合で埋め尽くす。あらかじめ物体にこのようなボリューメトリックなテクスチャの構造をあたえておくことによって、ボリュームメトリックなシミュレーションによってどこにどのような割れ目が生成しても、整合性のとれたテクスチャをあてがうことができるようになった。

 このテクスチャリングの手法はSIGGRAPH ASIAでも紹介されるという。


<<「破壊」を壮大なスケールで映像化 影にCG技術の功績>>

 『2012』では“破壊”という要素がストーリーを語るための大きな鍵となっていただけに、その表現に対する監督の姿勢はいつになく真摯だった。

 そして、その監督の複雑な要請を完璧にクリアして、映画史上初めてともいえる壮大な破壊シーンをCGシミュレーションで作り出したことの意義は非常に大きい。

 過去数年のさまざまな映画プロジェクトを経て、現在水の表現に関しては、CGシミュレーションというものが、ハリウッドの映画監督の大きな信頼性を得るに至った。
 『2012』における破壊シーケンスの成功は、破壊という表現に関しても、CGシミュレーションが同様の信頼性を得るための一つの大きな足がかりになったといえそうだ。映画そのものの成功もさることながら、映画VFXの新境地を切り開いたという意味でも、『2012』は映画の歴史に大きな足跡と残したといえそうだ。

(以上、「2012」の連載は終わりです)

【画像説明】
(IBLを活用したシーンの例)
 ライティングではIBLが活用された。映画のシーンの設定はLAゆえに、基本的にはLAで撮影されたHDR画像を張り合わせたHDR環境マップがライティングのベースとなったが、映画に登場する環境は山や地面が割れて岩壁がむき出しになっているなど現実のLAの街にはあり得ない情景も含んでいる。

 したがって、LA以外の地域で撮影されたHDR画像も入れ込んで映画に登場する錯乱したLAの環境をうまく近似したHDR環境マップがライティングに用いられた。

 今回の場合にはコンクリート・岩石・木など、物体表面での反射をディフューズ反射でカバーできるものがほとんどで、その物量も一般的な映画プロジェクトとは比較にならないほど膨大だった。ゆえに、物理的に正確なレンダリング手法はあえて避け、イラディアンス環境マップやアンビエント・オクルージョン・マップなど、グローバルイルミネーションがディフューズ表面におよぼす影響をうまく近似する手法が用いられた。

 アンビエント・オクルージョン・マップは環境のあらゆる方向から差し込む光が物体表面に到達するまでにどのように遮られるかということを、イラディアンス環境マップは環境のあらゆる方向から差し込んだ光がディフューズ表面での反射によってどのように混ざり合うかということを近似する。したがって、両者を併用することによって、グローバルイルミネーションがディフューズ表面におよぼす影響の効果をうまく近似できる。

(破壊のシーン)
 今回の破壊シーンの演出では、割れた物体の断面が象徴的に描き出されるシーンが多かった。
 したがって、その断面に対するテクスチャリングは重要視された。しかし、この断面はアーティストの手作業によってではなく、ボリューメトリックなシミュレーションによって自動生成される。

 この自動計算にのっとってテクスチャを自動生成するというアルゴリズムを考え出すことも容易ではない。それゆえに、今回はボリュームを構成している各ボクセルの内部を、ちょうど煙や塵が満たしているように、細かなテクスチャの集合で満たすという方法がとられた。

 もちろん、ある特定の位置に特定の方向に向かって生成された断面に対して、どのようにこの細かなテクスチャをあてがうかという問題など、細かい点ではさらに工夫が凝らされたようだが、このようなボリューメトリックなテクスチャリングの方法論を考え出したことは、割れた物体の見え方のリアリズムを高める上でも、テクスチャリングの効率を高める上でも、大きな意味を持っていたようだ。

(メイキング画像、上から3−5番目)

 IBLを用いたLAの街のレンダリング。レンダリングはレンダーマンのシェーダーを用いて、非常に細かい要素に分けて別々のパスでおこない、膨大な数のレイヤーを合成して最終的な映像が完成した。

 step1
 街の建物を配置する土台となる地形。この地形もCGで作成されている。

 step2
 街の建物のモデルを配置して簡易レンダリングしたのち、シャドウやリフレクションなど基本的な効果を入れたレンダリング結果

 step3
 アンビエント・オクルージョンなどの効果を加えてリアリズムを高め、さらに、煙や塵などのボリューメトリックなエフェクトを加えてもの。ここに至るまでには、平均して一ダースにも及ぶ数多くのレイヤーが重ねられている。ボリューメトリックな要素は、インハウスのボリューム・レンダラStormを用いてレンダリングされた。





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