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Special 2024.04.19 UP

61年の歴史に終止符を打った「創造的破壊」が業界の未来を作る~MIPTVカンヌ2024現地レポート~

ジャーナリスト 長谷川朋子

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テレビ産業は「創造的破壊の申し子」だ。そう力強く語ったのは、ウォルト・ディズニー・カンパニーEMEAの元CFOで現在コンサルタントのマーク・エンデマーニョ。フランス・カンヌで開催されたTVコンテンツ国際見本市MIPTV2024(会期4月8日~10日/プレイベント6・7日)の基調講演で今後の業界を形成していく重要テーマを語るなかで、その鍵となる考えを示した。これまで61年続いたMIPTVそのものが今回で最後の開催となり、業界は今、大変革期にあることを象徴した見本市にもなった。

「バック・トゥ・ザ・フューチャー」をテーマに基調講演

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61回目の開催を数えた老舗のTVコンテンツ国際見本市MIPTV2024初日の4月8日、メディア、エンターテインメント、テクノロジー分野において25年の経験を持ち、ウォルト・ディズニー・カンパニーEMEAの元CFOで現在イギリスのコンサルタント会社AlixPartnersのパートナー&マネージングディレクターを務めるマーク・エンデマーニョ氏を迎えて、基調講演が行われた。

エンデマーニョ氏は冒頭、1985年の名作映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で登場するデロリアン(タイムマシン)のタイムサーキットをスライドに映し出した。時間設定したのは講演時の時刻。それには意味があった。

「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で主人公のマーティ・マクフライが1950年代にタイムスリップした時に、両親の恋を阻止したことで彼自身の存在を脅かし、どうにかして現在に戻ったというストーリー。これは実は今日の我々の業界の状況と大いに関係がある。間違いや自分の限界を見つけ、それを修正することで自分自身を向上させれば、変化、適応することができるということを教えているからだ」。

 つまり、混沌とした世界のコンテンツビジネス市場を理解し、対応次第では明るい未来を導けることをエンデマーニョ氏は訴えかけた。

現在の状況についても紐解き、この10年でストリーミング戦争が起こった末に、世界的にコンテンツの生産量と消費コンテンツの伸びは鈍化し始め、なかでもコンテンツ輸出量の鈍化が著しいことを指摘した。

「米メジャーはコンテンツ王から赤字のストリーマーになり、コンテンツスタジオは時代の波に乗るも、波の向こう側でこれから何が起こるのか頭を悩ませてもいる。またストリーマーは、コンテンツのライセンス取得という大きなリスクを負っている。そして、信じられないほど不満を抱いている消費者は、欲しくもないバンドル商品に大金を叩き、潜在的に多すぎるコンテンツを手に入れている。だが、多くの市場で起こっている経済危機によって買う余裕はない」と、エンデマーニョ氏は巧みにこうも表現した。

だが、「こうした課題のひとつひとつがチャンスであり、あらゆる混乱が革新のチャンスになる」というのだ。「将来に向けて最良の方法を見つけることが大事だ。今後さらに多くの変化が起こることが予想され、ある種の均衡が保たれることはないだろう。進化し続けるだけだ。そんななか、クリエイティブ産業の特にテレビ産業は創造的破壊の申し子であり、常に革新の機会をつかんできたという歴史がプラスに働くはずだ」と、エンデマーニョ氏の力強い言葉が会場に響いた。

さらに今後、コンテンツビジネス業界を形成するであろう6つの重要なテーマを挙げ、①「パートナーシップによる効果的なディストリビューション」、②「ウィンドウ戦略の復活」、③「避けられないストリーミングの統合」、④「続く広告ビジネスの混乱」、⑤「ヒットの見分け方」、⑥「加速するAI」をチャンスとして捉えることが重要という。AI以外は、どれも決して新しいアイデアではない。AIでさえ、テクノロジーの進化の1つであり、受け入れることができる。だからこそ、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」というテーマが考えるヒントになるというわけだ。

来春から「MIPロンドン」立ち上げ、3本柱のコンテンツマーケット

 創造的破壊を起こすことで、明るい未来が見えてくる。そんなメッセージが伝えられたセッションがMIPTV期間中、多く並んだ。TVREV共同創設者でリードアナリストのアラン・ウォルク氏はFAST&AVODサミットで「真のストリーミング時代は、ストーリーテリングの観点からも広告の観点からもさまざまなことができるようになる。生成AIは大きな役割を果たすだろうし、その結果、この業界に明るい未来が待っていると思う」と語り、AIサミットではAmpere Analysisの共同創設者で最高経営責任者のガイ・ビッソン氏が「一連のAIツールを使えば、コンテンツ制作の全ての過程を網羅できる程度にまで発展するだろう。それを寝室でできてしまう時代が来る」と、可能性を示した。

 MIPTV2024はプレイベントを含む期間中の4月6日から10日まで、フランス・カンヌ現地の会場には84カ国から3537人が集まり、1133人のバイヤーが参加。出展社数は135社を数え、11か国がナショナルパビリオンを展開した。昨年より縮小した規模となったが、日本からは約50人が参加し、NHK/NHKエンタープライズ、日本テレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、読売テレビ、東映アニメーションが最終回のMIPTV出展を果たした。

またTBSは初日の8日にイギリス最大手の制作会社All3Media Internationalと共同制作した新作フォーマット「Lovers or Liars?」について特別セッションを行い、リサーチ会社K7の協力も得て、世界で実績を作る日本全体のフォーマットバラエティについて積極的にPRする時間も設けた。さらに、MIPTV公式マガジンでは国内外で評価を得る日本テレビ『ブラッシュアップライフ』の制作チームが手がけるドラマ『侵入者たちの晩餐』が表紙を飾った。

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61年間、国際コンテンツビジネスの業界イベントとして牽引してきた春開催のMIPTVは今回で最後の開催となったが、主催のRXフランスは来年からイギリス・ロンドンで新たなかたちのコンテンツマーケット「MIPロンドン」を立ち上げる。ウエストエンド地区にあるサボイホテルとIETロンドン/サボイ・プレイスを会場に、初回の会期を2025年2月24日~27日に設定、既存の「ロンドンTVスクリーニング」を補完する形で開催する。

これにより、RXフランスは来年から2月は新マーケットの「MIPロンドン」、10月は世界最大規模のマルチジャンルコンテンツマーケットの「MIPCOM」、11月は地域特化型の「MIPカンクン」の3本柱で走っていくことになる。RXフランス エンターテインメント部門MIPTV/MIPCOMディレクターのルーシー・スミス氏は語る。

「MIPTVは素晴らしい形で幕を閉じ、この60年間、世代や地域、ジャンルを超えてMIPTVを支えてくださった国際的なテレビ業界の皆さんに感謝しています。我々は変化を起こすことが必要だと考えました。今こそ行動を起こすべきタイミングです」。

この創造的破壊が、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のような理想的な未来を描くエンディングに結びつくことを期待したい。

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