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2014.9.5 UP

【NEWS】 WOWOWとTBSが共同でスマホにマルチ映像配信 「SUMMER SONIC」会場で実証実験 大規模ユーザー数への対応で商用化へ

WOWOW奥野氏「来場者から見たいライブを視聴できるツールがあれば便利という意見があった」
WOWOW奥野氏「来場者から見たいライブを視聴できるツールがあれば便利という意見があった」
TBS藤本氏「今後は商用化に向けて大規模なユーザー数にも対応ができるような仕組みを目指す」
TBS藤本氏「今後は商用化に向けて大規模なユーザー数にも対応ができるような仕組みを目指す」
WOWOW神保氏「WOWOWのフェスの放送ノウハウと、TBSの低遅延・高レスポンスエンジンを組み合わせて、かなり実用的」
WOWOW神保氏「WOWOWのフェスの放送ノウハウと、TBSの低遅延・高レスポンスエンジンを組み合わせて、かなり実用的」
WOWOWブース内のネットワーク映像システム
WOWOWブース内のネットワーク映像システム

 WOWOW(東京都港区)はTBSテレビ(東京都港区)と共同で、8月16、17日の両日、千葉・幕張メッセを中心に開催された音楽ライブイベント「SUMMER SONIC 2014」において、TBSテレビ開発の「低遅延・高レスポンスストリーミングエンジン」(以下、低遅延・高レスポンスエンジン)を利用した、スマホートフォン(以下、スマホ)、タブレット端末向けアプリ「Live Multi Viewing」(上写真)の実証実験を実施した。ライブイベント会場における来場者向け関連情報提供ツールとして実用化を進める。

■ライブ試聴と会場周辺情報を映像で提供
 WOWOWは、2011年から「SUMMER SONIC」を放送しており、今回で4回目の放送となる。同イベントは幕張メッセの全ホールを使い、ここでの3ステージと、QVCマリンフィールドをはじめとする外部3ステージの計6ステージで、国内外のアーチストが終日、演奏を繰り広げる。
 WOWOW技術局技術計画部長の奥野俊彦氏は、「フェスユーザーからは、『入場規制の場合や、別のステージへの移動時間、休憩時間などで、見たいライブを視聴できるツールがあれば便利』との声をもらっていた」と話す。
 また、各会場に関する情報や気象情報などを提供する手段として、運営側は館内共聴システム以外に、会場の進行の様子を現場に行かなくても簡単に確認できる方法として、スマホ、タブレット端末への映像配信は有効と見ていた。

■TBSのアプリ、複数のカメラ映像・音声を瞬時に切り替え
 WOWOWはLiveMulti Viewingの開発に当たり、TBSテレビが開発した低遅延・高レスポンスエンジンを活用したアプリが最適であると判断。共同で実証実験をすることを提案した。
 低遅延・高レスポンスエンジンは、スマホやタブレット端末に最適化された複数のカメラ映像と音声を瞬時に切り替えるプログラムと配信サーバーを実現する。
 ディレイは3-5フレームと極めて少なく、マルチ表示画面の切り替えも瞬時。一般的なインターネット網でも、スマホ、タブレット端末上でリアルタイムにステージ映像を表示できる。
 低遅延・高レスポンスエンジンのベースになっているのは、TBSテレビが2年ほど前、歌番組との連動において、スマホ、タブレット端末上カメラをスイッチングができるアプリを実施するにあたって開発した技術だ。
 これは事前に端末に記録した映像・音声ファイルを順次呼び出す形だったが、今回、これをライブのシーンで活用できるようにした。
 低遅延・高レスポンスエンジンの開発を担当したTBSテレビ制作技術統括部の藤本剛氏は、「最初は、既存のストリーミングサービス、技術を組み合わせて実現しようと思ったが、ディレイがかなり多く、切り替わりの速度などが満足できなかった」と話す。
 そこで、TBSテレビが開発し、局内で運用している低遅延の送り返しシステム「Live Back」の機能を参考にしたという。

■9つの映像ソース同時配信する「Live Back」
 「Live Back」は、HDカメラで撮影した映像素材などを、UDP(User Datagram Protocol)を用いた独自プロトコル実装サーバーから、一般のインターネット回線経由で高速にクライアントに転送する。
 UDPは応答確認はせず、パケットを投げるだけのプロトコルであるため、反応速度は早いものの通信が途切れ、画崩れが起こることが課題だった。そこで、圧縮された映像について画崩れがしないよう処理を加え、フレーム単位にデコードし、音を載せて再生するようにしたという。
 こうした細部にわたる作り込みにより、複数画面に切り分けた表示や、映像の上にアーチスト名やステージの内容がかぶるような表示が容易になっている。
 今回の実証実験では、WOWOWがエクストーン(東京都渋谷区)にアプリ開発を依頼。同社が低遅延・高レスポンスエンジンを基に開発したアプリを利用した。4つのステージの模様などを会場内のローカルネットワーク内で配信している。
 提供したのは、WOWOWがオンエアのために中継車を配備した4ステージ「MOUNTAIN」「SONIC」「RAINBOW」(以上幕張メッセ)、「MARINE」(QVCマリンフィールド)のほか、WOWOWスタジオの模様やWOWOWのオンエア映像。加えて、MOUNTAINステージにあるカメラの内、3カメ分の映像をユーザーが自由に選択できる「マルチアングルカメラ」の計9つの映像ソースである。

■アクセスポイント5カ所、5GHzと2.4GHzを併用、「会場内のほとんどで視聴可能」
 メイン中継車に集約された全ステージのHD-SDI信号から、この9つの映像ソースをサーバーでタブレット向けのストリームに変換して、会場内に設けたWi-Fiアクセスポイントから配信した。
 同アクセスポイントは、WOWOWブース、プラチナラウンジ、運営本部、休憩エリア、グッズ販売エリアの5カ所に設置。フルノシステムズ製のアクセスポイントを使用して、5GHzと2.4GHzの無線LANの電波を発信している。
 当初は視聴エリアをアクセスポイントの半径20メートル程度と見ていたが、5GHz帯が威力を発揮し、実際は会場内のほとんどで視聴が可能となった。
 会場のネットワーク構築は当初、事前に試験した通りにならないなど、苦労したという。
 藤本氏は、「ネットワークと放送の事業者間で互いの技術を理解しきれていない面があり、それが最大の課題だった」と話す。奥野氏は、「ネットワークスイッチはスペック上の数値だけでは測れないネットワークの不思議さを感じた」と、経験によるノウハウ蓄積が重要との認識を示した。

■マルチ画面から選択拡大、スイッチングアウトの映像も視聴可能に
 アプリの画面にマルチ表示されたステージ映像の画面は切り替えが瞬時にできた。実際のステージの前で視聴しても、生のアーチストのボーカルと映像のアーチストの口元にディレイによる違和感はない。マルチ画面は、タップすると拡大画面で視聴でき、聴きたいライブの音声を即座に切り替えることも可能だった。
 MOUNTAINステージでは、WOWOWが撮影用に配置した3台のカメラを含む4面マルチアングルになっており、それ以外の3ステージについては同カメラのスイッチングアウトの映像を見られるようにした。
 なお、スマホ、タブレット端末へのステージ映像の提供は、あくまで場内を対象としたもので、場内のサービス映像と同じ位置付けになる。
 アプリは、関係者にモニターをしてもらったほか、来場者の中からカップルや家族連れなど300人ほどに利用してもらい、各端末におけるサイズ感や画面の使いやすさ、マルチアングルのカメラ台数などについてアンケートを実施した。
 WOWOWの技術局制作技術部の神保直史氏は、「昨年、ボクシング中継でWOWOWメンバーズオンデマンドを利用したマルチアングル配信を実施したが、これは遅延がかなりあった。今回、WOWOWのフェスの放送ノウハウと、TBSの低遅延・高レスポンスエンジンを組み合わせて、かなり実用的な環境が構築できた。ユーザーの反応も良く、技術実験としては成功したと思う」と述べる。

■大規模ユーザー数への対応で商用化へ
 奥野氏は、「制作面で他局と協力したケースはあったが、技術のコラボレーションはあまりない。TBSの担当の方に面白いと思ってもらったので、準備から実施まで短期間で実現できたと思う」と話す。藤本氏も会社を越えたプロジェクトへの手応えを口にしている。
 奥野氏は、「モニター、利用者の意見から何が求められているのかを確認し、次のイベントに生かす。サマソニ会場の定番アプリにしたい」と意気込みを示す。
 神保氏は、「今後のイベントでも使っていきたい」とする一方、「運営費用を考えると、ビジネスに結びつけることが今後の課題」と指摘している。
 藤本氏は、「今回はユーザー数を限定した設計となっているが、今後は商用化に向けて大規模なユーザー数にも対応ができるような仕組みを目指す」と話す。
 TBSテレビは今後、ゴルフトーナメント会場において、各ホールのスイッチングアウトをネットで配信。来場者がどこにいても好きな選手の様子を見ることができたり、行きたいホールへの案内、またはテニスなど、各コートで同時進行している試合の視聴、あるいはプロ野球での球場内サービスといった、幅広い活用が考えられると期待している。

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