【INTER BEE IGNITION セッション報告(1)】落合陽一氏 「8K映像はコミュニケーションの形を変えていく」

2017.3.13 UP

INTER BEE IGNITIONのセッション会場

INTER BEE IGNITIONのセッション会場

さまざまな視点から落合氏(右)に問いかけた西村氏(左)

さまざまな視点から落合氏(右)に問いかけた西村氏(左)

 2016年11月18日から20日までの3日間開催したInter BEE 2016の新企画として、新しいメディアの可能性をプレゼンテーションと展示でひもとくINTER BEE IGNITIONを開催した。Inter BEEの展示会場に特設エリアを設け、会期中、展示と関連するセッションが開催された。2日目の17日、11時から開催した「メディアアートセッション」では、「落合陽一に聞く、未来を切り開くメディアアートのチカラ」と題し、精力的にメディアアート活動を行う落合陽一氏が登壇。HEART CATCH代表取締役でSENSORS.jp 編集長を務める西村真里子氏が、メディアアートとテクノロジー、ビジネスや人々の生活の変化など、さまざまなアプローチで「現代の魔法使い」といわれる落合氏に迫った。

■ネットと人間と自然がシームレスに
 落合氏は、自らメディアアーチストとして活躍する傍ら、著作や国内外のメディアで「デジタルネイチャー」という世界観を提唱して注目を集めている。デジタルネイチャーとは、ネットワーク上のデジタルデータと人間、自然がシームレスにつながりあう世界観。こうした世界観を現す研究の一つ「Fairy Lights」では、空中に描いた立体像を触ることができる様子を紹介した動画を発表し、ネットで大きな話題となった。こうした、未来のデジタル技術と人間の生活を予見するさまざまな研究などから「現代の魔法使い」とも呼ばれている。
 こうした最先端の技術を駆使し、未来の社会を予見するようなメディアアートを展開する落合氏に対し、西村氏はINTER BEE IGNITIONの位置付けと今回のセッションのねらいを説明。「落合氏から引き出されるコメントをもとに、コンテンツやメディアアートの“チカラ”を考え、テレビの未来像についても議論を深めていきたい」としてセッションを始めた。

■コンテキストを感じるしかけ
 落合陽一は、メディアアーティストとして様々な作品を作っている。前述のように、何もない空間にプラズマで3次元の映像を表示させたり、空間に感触を感じられたりするような作品では、その技術や表現とともに、「デジタルネイチャー」というコンセプトが世界的に注目されている。
 セッションでは、このほかにも最新の作品についての紹介があった。その中の1つで、自ら新会社を興して開発した新しいスピーカーを用いたプロジェクトを紹介した。「超指向性のスピーカーで、5cm×5cmといった狭い空間でしか音が聞こえない。このスピーカーを使って、廃校になった中学校に、限られた範囲だけ学校の音が聴こえる作品」という。「音だけは普段通りの学校なのに、空間は廃校という、幽霊感がキーワード」と落合氏は語る。普通の場所、ありえない場所に、コンテキストを感じる仕掛けを組み込むアートというわけだ。

■8K時代にはディスプレーが「窓」に変わる
 落合氏は、このような作品を通じ、「人間にとって映像と物質の間にある差は何かを研究」しているという。そうした落合氏の視点では、4K、8Kの映像は、テレビ放送やコンテンツを視聴するためだけのものではない。「8Kになると、それは“窓”になる。部屋に8Kモニターがあれば、好きな風景を映すことで窓のない部屋でも快適に暮らせるだろう。そこに人物が映れば、リアルに会話をすることもできる。リアリティがある8K映像の登場により、コミュニケーションの形が変わっていく」と指摘する。

■集合知によるコンテンツ作りも可能に
 表現の技術が進歩する中で、テレビの未来についてもコミュニケーションの視点から新しいアイデアが語られた。
 「テレビとインターネットの融合を考えた時、現在の1対1のコミュニケーションを前提としたSNSでは不適合な部分がある。例えば番組を見た100万人がツイートした内容を、人工知能が何通りかの意見に集約し、演者に伝えるといった仕組みが必要だろう。脚本家という1人の人ではなく、集合知にコンテンツ作りを任せる新しいメディアの作り方も可能になる」(落合氏)。

■コンテンツや新たなメディアから考えたハードウエア
 落合氏は講演後、Inter BEEへの期待として「コンテンツから考えた出展がほしい」とコメントした。「(出展企業は)ハードウエアを提供するだけでなく、コンテキストの側から新しいメディアやそれをつくるための新しいハードウエアを創造していくことを考える時代が来る。アイデアを生み出し、実現していくためには、私たちのような研究者との産学連携も有効だと思う」と語り、コンテンツの作り手から出展企業への協力をしていく姿勢を示した。

【INTER BEE IGNITION】
 VR、ARや360度映像、ホログラム映像、プロジェクションマッピングから、4K/8Kパブリックビューイング、ライブビューイングなどのライブエンターテインメントに至るまでの最新映像技術が集結したイベントINTER BEE IGNITION。展示会場内に特設エリアを設け、各分野で活躍するゲストを招いたセッションとともに、関連企業からの出展ブースを設けた。VRコンテンツの制作会社や機材などが出展されたほか、NHK放送技術研究所によるAR技術を用いた未来のテレビ番組の出展などもあり、多くの来場者が訪れた。
 今年、11月15日(水)から17日(金)までの3日間、幕張メッセで開催するInter BEE 2017でも開催する。

INTER BEE IGNITIONのセッション会場

INTER BEE IGNITIONのセッション会場

さまざまな視点から落合氏(右)に問いかけた西村氏(左)

さまざまな視点から落合氏(右)に問いかけた西村氏(左)

#interbee2019

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