私が見た”IBC 2013”技術動向(その2)

2013.10.17 UP

写1:4K有機ELモニター(ソニー)
写2:性能、機能を向上した4Kカメラ”EOS-C500”(キヤノン)

写2:性能、機能を向上した4Kカメラ”EOS-C500”(キヤノン)

写3:フル4K高速度カメラFT-one(朋栄)

写3:フル4K高速度カメラFT-one(朋栄)

写4: ”Pablo Rio “による8Kワークフローの実演(クオンテル)

写4: ”Pablo Rio “による8Kワークフローの実演(クオンテル)

写5:コーデック、配信技術(NTT)

写5:コーデック、配信技術(NTT)

(その1)ではIBCの全体状況について述べた。引き続き、今回の主たる技術動向、注目された出展物について概略紹介してみたい。

まず、撮影・表示系について見てみよう。ソニーはXAVCフォーマットを採用した4Kカメラ”F55” をメインに4Kハンディカムコーダやスーパー35mmCMOSを搭載しフルHDで最大10倍の高速撮影可能なカムコーダを展示していた。また2台の4Kカメラで撮られたワイド映像から任意の位置、大きさで、HD映像を切り出すことができるシステム、高輝度・高コントラストながらランニングコストを低減した4K/60pプロジェクター、さらに56”と30”サイズの4K有機ELピクチャーモニター(写1)とマスターモニター用の25"、17"型の有機ELタイプとLCDモデルを並べていた。
キヤノンはより性能・機能を向上した4Kカメラ”EOS C500”出展した(写2)。感度を向上し暗い環境でも鮮明なカラー撮影が可能になり、色域が広くなり高彩度の色再現性が改善され、4K1Kで120fpsでの高フレームレートの出力が可能になった。また、HD/SD対応でMpeg LongGでCFカードに記録しドラマ制作にも使える高性能の廉価・小型コンパクトなムービーカメラ、光学20倍ズームと手振れ補正付きで高感度・低ノイズ、イベントや教育、報道用などにも使えるハンドヘルド型も並んでいた。ブース横の小部屋では上述の感度向上による低照度下での撮影デモと、忠実な色再現性・高解像度・高コントラストの30”型4Kリファレンスモニターによる4K映像も上映されていた。
パナソニックはP2HDシリーズとして、AVC ULTRA対応で記録メディアにmicroP2カードを搭載したカメラレコーダ、プロトタイプのハンドヘルド型カメラレコーダ、親指サイズながらHD対応の超小型3MOSカメラ、ショルダー型AVCカムコーダなどを展示していた。注目はウルトラワイドアングルカメラシステムで、小型軽量なHDカメラ4台を一体化し、シームレスに180度のパノラマ映像(64:9、5120×720)を撮影できスポーツ中継などに適しているそうだ。その他にはプロトタイプの4K Varicamとフル4K、10ビット処理のIPSパネルを採用し広視野、広色域の31”型4K LCDモニターを公開していた。
池上通信機は、スーパー35mmCMOSセンサーを採用し高感度、高S/N、広ダイナミックレンジと優れた階調再現性と高画質な上、実績高いARRIのPLマウントレンズを採用し、シネマテイストの映像表現を実現した”HDK ARRI”を展示した。また初登場の超高感度小型カメラ”HDL-4500”は、最低被写体照度が星明り程度の0.001lx/F1.4以下を実現し、AVC、ATW機能を有し夜間だけでなく日中までシームレスに使える。映像モニターは25”型と17”型のフルHD有機ELモデルを参考展示していた。
 JVCケンウッドは、高感度の背面照射型1/2”CMOS(830万画素)を採用し高画質処理エンジンも搭載したハンドヘルドタイプの4Kカメラを出展し、40”位の4Kモニターと4セット組合わせた84”型マルチディスプレイに映していた。1/3” CMOS 3板を搭載し、23倍ワイドズームレンズと光学手振れ補正機能付きのハンドヘルドタイプのメモリーカードカムコーダーも出展していた。
朋栄は、60fpsから900fpsまでの高速度撮影が可能で、11ストップと高ダイナミックレンジで12bitと階調再現性も良いフル4Kの高速度カメラ”FT-one”を展示していた(写3)。RAWデータでメモリーに高速記録し即刻、高品質のスロー映像を再生でき、映像調整をリアルタイムに遠隔操作可能な小型コントロールユニットも展示されていた。さらに同機で撮影された4K映像から任意のエリアを切り出しHDコンテンツとして出力できるシステムも参考出品されていた。世界的に高い実績を持つVision Researchも、新開発のスーパー35、12bit CMOSセンサーを採用し、超低ノイズ、広ダイナミックレンジ、フル4Kで1000fps、フルHDなら2000fpsの高速度撮影が可能なハイスピードカメラ“FLEX 4K”を展示していた。また1.4kgと小型軽量だがフルHDで10~1500(50倍速)fpsの撮影が可能な"Miro"も並べられていた。
ARRIは世界的に実績を上げているALEXAシリーズの最新機種”XT”に加え、ワンマンオペレートを意識した新製品”AMIRA”を出展した。14ストップ以上の広いダイナミックレンジ、優れた階調性、低ノイズ、自然な色再現でと調和の取れた美しいキートーンの映像を撮影できる。Blackmagicはスーパー35mmセンサー、グローバルシャッター式、EFレンズマウントで高速SSDレコーダを内蔵した”Production 4K Camera”とスーパー16mmサイズのセンサーを採用し13ストップと広いダイナミックレンジでフルHDの超小型カメラ”Pocket Cinema Camera”を並べていた。両機とも高品質ながら超廉価で業界に大きな波紋を投げかけている。創業間もないながらデジタルシネマ分野で高い実績を上げているRED Digital Cinemaは、6K(約1900万画素)センサーを搭載し、100fps撮影可能な最新デジタルシネマカメラ"RED Dragon”を展示し評判になっていた。
大型ディスプレイで実績あるChristyはセレモニー会場の大画面用や他企業ブースへDLPを提供していたが、自社ブースでも4KプロジェクターやMicro Tilesマルチディスプレイなどを展示していた。TV logicは56”(QFHD)と31”(フル4K)の高精細度LCDモニター、32”型フルHD対応のリファレンスLCDモニター、各種サイズのマルチビュアディスプレイ、それと今回のIBCでは珍しい47”サイズの3Dモニターの展示もしていた。

次に編集・制作系の動向を見てみよう。朋栄は多種多彩な制作系機器を出展していたが、機能強化し複数のLTOテープの素材管理を効率化し、検索・閲覧はWEBブラウザ経由で自在になったアーカイブシステム、LTOテープ1本に放送品質で最大50時間も録画可能なレコーダ、機能が追加されたHD/SD対応2M/E~3M/Eのビデオスイッチャー、小型ながら10系統もの多チャンネル信号処理可能なプロセッサー、HD/SD対応のフレームレートコンバータの低価格/ハイエンドモデル、3G/HD/SD/アナログ/PC混在可能な高精細マルチビューワなど様々な機器を展示していた。
創立40周年を迎えたQuantelは昨今のメディア状況に対応し4K/8K超高精細時代に参入して来た。PC上で動作するハイエンド カラー&フィニッシングシステムPablo Rioは、入出力系にAJAの”Corvid Ultra”を、画像処理演算にはNVIDIAの高速アーキテクチャーを使い、4K/60p対応可能になった。4K 60pフル解像度でのカラーグレーディングや合成、フィニッシングが、従来同様に簡単な操作でリアルタイムに処理できる。さらに今回はIMAX用65mmフィルムからの素材をスキャナーで取り込んだ8K/24pの映像を使ったカラーグレーディングも実演していた(写4)。2020年東京オリンピックにあわせSHV本放送開始が前倒しになり8Kコンテンツ制作が盛んになる。本格的な8K 60pの映像編集・加工系の開発を期待したい。
世界の放送業界のトップブランドであるGrassValleyは、放送業務をサポートする各種ソリューションを公開していた。スイッチャー、サーバ、グラフィックス、IPストリーミング機能などを統合したライブプロダクションシステム”GV Director”、映像制作ワークフローと素材管理をより効率化する次世代アセットマネージメントシステム”GV STRATUS”、4Kプロセッシングエンジン搭載により4Kのリアルタイム編集が可能になった”EDIUS”、従来機能を継承しつつ低価格化し3G-SDIに対応し1080/60pの制作が可能な中型プロダクションセンセンター”Karrera”、マルチチャンネル対応の総合型送出システ”K2 Edge”やスポーツ番組でのスロー再生やハイライト送出用リプレイシステム”K2 Dyno”などを公開していた。
Blackmagic Designは斬新的で低価格の多種多様な機器を展示していた。10系統の6G SDIソースに対応しDVE、モーショングラフィックスなど多くの機能を搭載し、SD、HDおよび 4Kでのライブプロダクションに使用できるATEMスイッチャー、一層機能アップしたディスクレコーダ”Hyper Deck ”、Ultra HDワークフローへの移行を視野に6G-SDI対応のミニコンバータ、また機能向上したカラーコレクション”DaVinci Resolve”などである。

 最後にデジタル時代をベースで支える符号化技術、配信技術なども多種多彩だった。NTTグループは最高性能のH.265/HEVCエンコードエンジンを搭載したソフトウェア開発キットや、高画質・高機能・高安定性で低遅延、低ビットレートのH.264 HD/SDTVエンコーダ、10bit4:2:2、1080/60p に対応した高画質・高機能のH.264/Mpeg2デコーダ、SNGに適する小型コンパクトなIPコーデック、VODサービスに適した実時間AVCエンコーディングソリューションなど多種多彩な機器システムを展示していた。
NECは、入力はQFHD、59.94p/60p/50pに、エンコード出力はMPEG2-TSに対応し映像符号化はH.265、最大ビットレート40Mbps のHEVC 4Kエンコーダと、フィールド内/フィールド間情報を使い精細度 を向上する超解像サーバを出展していた。東芝はHDDタイプに比べ高速性、寿命の点で優るフラッシュメモリー採用の”On Air Max Flash”サーバ、また高速ビデオストリーミングサーバ”EXA Edge”を使い4K HEVCとMPEG DASHに対応する大容量コンテンツの配信デモもやっていた。
機器メーカーに圧縮技術を提供するプロバイダーのintoPIXは、JPEG2000による低遅延の4K、8Kコーデック、SMPTE 2022 Video over IPなどに加え、今回特に注目されたのは圧縮率1:2から1:4まで視覚的に劣化がなく圧縮伸長を繰返しても画質劣化はほとんど見られず遅延量が数μsecと小さいTICOと名づけられた革新的に軽い圧縮技術である。超小型でFPGAに組み込みが容易で外部メモリーも不要、モバイルから4K/8Kまで多様な解像度、4:2:2/4:4:4にも対応可能である。カメラ、ビデオサーバ、ディスプレイ、記録装置やモバイル機器などに使われれば大きなメリットが出てくる。
デジタル制作・配信環境に応えるブランドのDigital Rapidは、MPEG、HEVC、4Kなどの多様なフォーマットに対応し、ワークフローの自動化、効率化を実現するトランスコードマネージャシステム、高品質ながらマルチフォーマットに柔軟に対応するブロードキャスト・マルチスクリーン配信向けのエンコーダなどを展示していた。”Digimetrics”はコンテンツ配信に重要でMPEG2、H.264、JPEG2000などに対応し高速判定処理可能な非参照型ファイルベースの自動品質検査QCシステムを展示していた。
これら符号化技術に関する出展は今回のIBCの大きなテーマであり、HarmonicはHEVCエンコーダやU HDTV配信システムを、NVIDIAは非圧縮の4Kソリューションを、ATEMはQFHD とフル4K両方のコーデックの画質評価などを見せていた。放送機器メーカーHarrisも時流にあわせ4K Readyのパネルを掲げ4K映像を上映し、Nevionはあらゆるネットワークに対するメディア配信技術、 Deliveryや信号処理用コア技術などを公開していた。この他にもTexas Instrment 、Eyvis、 Elmentary Technology、Samsung、rovi、Vtecなど多くのブースで多種多彩な符号化技術が公開されていた。

映像技術ジャーナリスト(Ph.D) 石田武久

写2:性能、機能を向上した4Kカメラ”EOS-C500”(キヤノン)

写2:性能、機能を向上した4Kカメラ”EOS-C500”(キヤノン)

写3:フル4K高速度カメラFT-one(朋栄)

写3:フル4K高速度カメラFT-one(朋栄)

写4: ”Pablo Rio “による8Kワークフローの実演(クオンテル)

写4: ”Pablo Rio “による8Kワークフローの実演(クオンテル)

写5:コーデック、配信技術(NTT)

写5:コーデック、配信技術(NTT)

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